#06 風来妖討伐譚:序
俺が目を覚ますと、そこはいつもの部屋の布団の上だった。そばには俺の服を畳んでくれてるマタタビがいた。
「あっ、起きた!ナオト〜!」
マタタビはすぐに抱きついてきた。
「えへへ、ナオト勝ったんだよ。これで一安心だね。」
「そうだなぁ。とりあえず処刑は無くなったな。」
「これでムツミのこと探しに行けるね!」
「そう、だな…」
俺が二ヶ月間修行していた時、カグラさんや将軍様は姉さんのことを捜索してくれていた。我が家の近辺には一切の手がかりなし。城下町での目撃情報もない。
俺も修行の合間の買い出しの時に街の人に聞いてみたりしたけど、神隠しにでもあったんじゃないか、と一蹴された。
「きっと、いつか見つかるよな。」
「そうだよ、ムツミは強い女の子だし。」
そんなことはない。姉さんは毎日俺がいないと寝られなかった。毎日のように俺の布団に入ってきて、一緒の方があったかいから!とか言って添い寝してきた。
姉さんが弟離れできるとは到底思えないんだが…
「そういえば、俺が意識を失ってからどのくらい時間が経った?」
「もう夕方だよ。そろそろ夜ご飯の時間。」
「もうそんなに時間経ってんのか。じゃあご飯食べに行くか。」
「うん!行こ行こ〜!」
俺はマタタビに手を引かれながら、いつもの広間に向かった。そしてそこには、俺を歓迎してくれる三番隊のみんながいた。
「ナオトおめでとう。これで晴れてお前も、正式に三番隊の一員だ。」
「ありがとうございます、山下さん。」
「ささ、ナオトさん、今日はたっくさん食べてくださいね。」
俺とマタタビはミコトさんに連れられてカグラさんが座る席の隣にきた。カグラさんは俺を笑顔で歓迎してくれた。
「みんな、俺が来るの待っててくれたんですか?」
「当然だろ?今日の主役は紛れもないお前だ。
改めてようこそ、三番隊へ。これからは一緒に頑張っていこうな。」
「はい!お願いします!」
その後、お世話になった他の先輩たちも俺の勝利を祝ってくれた。みんなと分け合い合いと話していた時、
カグラさんの方からぐぅぅ〜とお腹の音が聞こえてきた。
「ほら皆さん、カグラさんがお腹空かせちゃってますから、早く食べましょ。」
「み、ミコト…!」
そして俺たちは、楽しい夕飯の時間を過ごすのだった。
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夕飯を食べ終えて、俺とマタタビは部屋に戻ってきて寝る準備をする。
「ナオト、明日何しよっか。久しぶりに暇だよね?」
「だな、修行も休んでいいって言われたし。
マタタビはなんかしたいことあるか?」
「う〜ん、特に思いつかないな〜。
あっ!じゃあご飯食べに行こうよ!
城下町でさ!」
「お前は食べることばっかり考えてるな。」
「だって美味しいもの食べると幸せだもん。」
「だな。じゃあ決まりだ、もう寝ようぜ。」
「うん、おやすみ〜。」
そして俺たちは眠りにつく。
俺が目を閉じた瞬間、いつもの精神世界に誘われて…
「やっと来たか、待ちくたびれたぞ。」
「なんだよ、今日も修行か?」
「それもあるが、今日はこれからの展望について話しておこうと思ってな。」
「これからの展望?」
「ああ。今日無事に御前試合を終えられたからな。
次の段階に入る。」
オロチは何か企んでいるような顔で言った。
「何するってんだよ。」
「余の宝玉を取り戻す。それが次の目的だ。」
「取り戻すって、将軍様が持ってるんだろ?
絶対渡してくれないと思うけど。」
「だろうな。だから何か大きな手柄をあげ、その見返りに頂くつもりだ。」
「いくら見返りって言ったって、宝玉を渡してくれるか?オロチの復活に近づくんだぞ。」
「一筋縄ではいかんだろうな。だからゆっくり信頼を勝ち取っていく他ない。」
「なんだ、案外おとなしいんだな。
てっきり城を襲撃するのかと。」
「襲撃して奪い取るのは可能だろうが、
そんなことをしたらこの国を敵に回すことになる。
宝玉一つ分の力では、この国との戦争に勝つのは不可能だろうからな。」
「なるほどな。色々考えてんだな。」
「当たり前だ。下手したら死に直結するからな。
とりあえず肝に銘じておけ。お前と余で幕府から信頼を勝ち取っていかねばならんことをな。」
「はいはい、わかりやしたよ。」
大妖怪オロチの宝玉、全部で八つあるうちの一つ。
もし手に入れたらオロチの力の八分の一が戻る。
もしそうなったら、カグラさんはオロチに勝てるのかな…
俺はそんなことを考えながら、オロチとの修行に取り組むのだった。
ーーーーーーーーーー
御前試合から二日が経ち、マタタビとの休暇を謳歌した次の日、俺はカグラさんに呼ばれた。
「カグラさん、用事っていうのは?」
「お前の初任務についてだ。」
「初任務、つまり妖怪退治ですか?」
「その通りだ。嵐の東側にある山中の村で行方不明者が出たという情報を受けた。妖怪による仕業の可能性が高いということで、私たちに仕事が回ってきたわけだ。行方不明事件、私が言いたいことはわかるな?」
「はい、わかりました…」
行方不明、もしかしたら、姉さんの手がかりが見つかるやもしれない。あの日俺たちの家を襲ったやつが犯人かもしれない。この事件、放っておくことはできないな。
「この任務、受けてくれるな?」
「はい、当然です。」
俺は間髪入れずに答える。
「いい返事だ。なら、任せるぞ?」
「はい!」
「それでは、任務の概要を説明する。
この後すぐ、被害があった村へ向かってくれ。
村長が情報提供をしてくれるそうだ。
ついたらすぐに尋ねるといい。」
「えっ?カグラさんは一緒じゃないんですか?
確か、カグラさんが俺とオロチを監視するっていう約束だったはずじゃ…」
「本来ならな。だが今回は外せない用があってな。
私は同行できない。」
「"私は"?」
「ああ、代わりにミコトを同行させる。
オロチが怪しい動きを見せるようであれば、
ミコトが容赦なくお前を攻撃するだろう。
わかったな?」
「はい、わかりました…」
なんか寂しいな。
(おいオロチ、何もするなよ?)
(わかっている。)
本当に大丈夫だろうな…
「お前が心配する気持ちはわかる。
だが、オロチが暴れたとしても、ミコトなら私が駆けつけるまで凌ぎ切れるだろう。
お前は心配せずに任務に当たるといい。」
カグラさんがそう言うので、俺は大丈夫だと自分に言い聞かせ、ミコトさんのもとへ向かう。
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雷光院ミコト、妖伐隊の三番隊副隊長。
三番隊の中ではカグラさんに次ぐ実力者だ。
妖怪退治の任務をこなしつつ、食事や洗濯などの家事もしてくれている、三番隊を支える縁の下の力持ちだ。
「ミコトさん、任務の件なんですけど…」
「はい、聞いていますよ。
それでは早速行きましょうか、
準備はいいですか?」
「ちょっと待ってください。まだ何も持ってきてないですって。」
ミコトさんはやる気満々だった。
「そうですね、じゃあ屋敷の入り口に集合しましょうか。場合によっては日を跨ぐことも考えられるので、
それも考慮して準備してくださいね。」
「了解です。」
俺は部屋に戻って荷造りをする。
そのとき、マタタビが俺に言った。
「ナオト、私も行っていい?」
「遊びに行くんじゃないんだぞ?」
「わかってるもん。私だって役に立てるよ?」
「わかったよ。じゃあついてきてくれ。」
「うん!やったぁ!」
そして俺はマタタビを連れてミコトさんと合流する。
ミコトさんは小さな荷物と、大きなハンマーを持っていた。初めて見た。これが、ミコトさんの武器…
「二人とも、今度こそ準備はいいですね?」
「はい、お願いします。」
「しまーす。」
俺たち三人は事件が起きた村に向かって歩き出した。
俺にとって初めての妖怪退治の任務が始まるんだ。
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俺たちは嵐の城下町の駅にやってきた。
村の近くまで汽車で行くらしい。
「わぁすごい!私汽車乗るの初めてなんです!」
「俺も。こんなに大きいんですね。」
「ふふん。なら、私が先輩として色々教えてあげましょう!」
ミコトさんは任せなさい、とでも言うかのように胸を張って話し始めた。
ミコトさんの話を聞きながら、俺たちは駅で弁当を買って汽車に乗る。乗ってからしばらく経って、
車掌さんが切符を切りに来た。
「ありがとうございます。」
「いえいえ、短い間ですが、汽車の旅をお楽しみください。」
外の景色を見ながら俺たちは弁当を食べ始める。
「ナオトナオト、これすっごい美味しいよ。食べてみて。」
「どれどれ、おおっ、うまいな。」
「二人とも、お昼ご飯を楽しんでいるところ申し訳ないのですが、情報を共有してもいいですか?」
「はい、問題ありません。」
「では、早速説明しますね。
今回起こった行方不明事件は、現場での痕跡はなく、犯人の手がかりは一切ありません。なので、村長さんにお話を聞いたとしても、有益な情報は得られないかと思います。」
まじですかい。
退治しようにも見つけられないんじゃどうしようも…
「どうしようもないじゃですか!と言いたい気持ちはわかります。でも、マタタビさんのおかげで、捜査を有利に進められそうです。」
「マタタビのおかげで?
そう言えば、マタタビが一緒に来るってなった時も
すぐに認めてくれましたよね?
何か理由が?」
「それは私から話しますね。
私ね、妖怪の妖力を感じ取れるの。
だから、この事件の犯人の居場所もすぐにわかると思う。オロチみたいに妖力を抑えてるやつだったら難しいけど、そんなことできる妖怪なんてほとんどいないから、多分大丈夫。」
「そういうわけです。ですから、戦闘が始まるのは案外早いかもしれません。心の準備をしておいてくださいね?」
ミコトさんのその言葉を聞いて、俺は唾を飲み込み
改めて決心をする。
俺はもう、妖伐隊の一員として、妖怪と戦っていかなきゃいけないんだ。
この時の俺はまだ知らなかった。
この事件の解決は、一筋縄にはいかないということを。
終
読んでいただきありがとうございました!
今回はナオトの初めての任務が始まりました。
次回は本格的に任務が始まります!
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