#03 嵐幕府の将軍
俺たちは城の前までやってきた。嵐という国を象徴する桜の木が何本も生えており、花びらが風と共に美しく舞い散っている。そして俺たちは、その立派な天守閣の中に入る。
「カグラさん、将軍様ってどんな人なんですか?」
マタタビが尋ねた。
「将軍様は聡明なお方だ。嵐の平和を第一に考えておられる。優しさの中にほのかな厳しさも兼ね備えている、まさに将軍に相応しい方だよ。」
「だったら、ナオトのこと許してくれますか?」
「それはわからない。ただ、できる限りの擁護はしよう。」
カグラさんのその言葉に俺は救われる。
でも安心はできない。カグラさんの言う通り、将軍様は嵐の平穏に一番な重きを置いている。そしてそれに最も相反する存在こそ、オロチを宿す俺なんだ。
(そう怯えるな。なるようになるさ。)
オロチは楽観的に言った。
(誰のせいでこうなってると思ってんだよ!)
俺とオロチが問答を繰り返していた時、カグラさんが立ち止まって告げた。
「ここだ。この襖の向こう側が、将軍様の御前だ。
心して入るようにな。」
俺は一呼吸ついてから襖に手をかけ、ゆっくりと開ける。そこにいたのは桃色の髪、緑色の目の女性だった。
「この度はお越しいただきありがとうございます。
あなたが、大妖怪オロチを身に宿す者、山口ナオトですね?」
「はい、俺がナオトです。」
この嵐幕府の将軍、"嵐宮サクラ"。
人々は彼女を、紅桜の羽衣、と呼ぶ。
「えっと、どうして俺は呼ばれたんでしょうか…」
俺は恐る恐る尋ねる。
「そうですね。早速本題に入りましょうか。」
将軍様は淡々と告げる。
「単刀直入に言います。山口ナオト、あなたを処刑させていただきます。」
(やっぱりな。ここまでわかりきった流れなんてないだろ。)
「待ってください!ナオトは何も悪いことしてません!いきなり処刑だなんて…」
マタタビは声をあげて反論してくれたが、将軍様は落ち着いて答える。
「それは重々承知です。ですが、彼に取り憑いたオロチとは、200年前に封印されるその時まで、何百年と人々を恐怖に陥れてきた悪夢です。私は将軍として、この危険因子を排除しなければならないのです。」
ぐうの音も出ない。殺す理由には十分すぎて、何も言い返せない。
「でも、でも、ナオトは…」
マタタビは食い下がろうとしてくれたが、その努力虚しく、将軍様は続ける。
「全ては嵐の安寧のために、お願いします。」
「しかし将軍様、彼は…」
カグラさんも俺のことを守ろうとしてくれている。
俺はただ、黙って俯くことしかできない。
俺は、どうしたら…
(代われ小僧、余が将軍と交渉する。)
どうしようもないと思った時、オロチが手を差し伸べてくれた。
(暴れたりしないでくれよ。)
俺はオロチに体を明け渡す…
ーーーーーーーーーー
小僧と入れ替わり、余は将軍と対峙する。
「オロチ…!最悪のタイミングで…!」
「焦るな女、余は交渉に来ただけだ。それに、お前がつけた傷のせいで余は暴れられないんでな。」
「あなたがオロチですね。直に見えることができるとは。」
将軍は余のことを警戒している様子だ。
まあ当然だろうな。
「あなたの望みはなんでしょうか。」
「貴様ら将軍家が保有している余の"宝玉"を渡せ。
そうすればこの国から出て行こう。」
「お断りします。あなたを生かす選択肢はありませんので。」
「将軍様…!」
「じゃあわかった。以下の三つを約束しよう。
一つ、余はこの小僧の許可がない限り表には出てこない。二つ、貴様ら幕府の利益のために動く。三つ、これらの約束を破った瞬間に首を差し出す。これでどうだ?」
「妖怪の言葉を信じろと?」
「信じる必要はない。これは取引だ。
余と小僧は処刑を免れる、貴様は利益を得られる、
これは互いに有益な取引だ。余が条件を破れば貴様はこの小僧ごと余の首を切り落とせ。ただ利用価値があるかどうかで考えればいい。」
「具体的に、あなたは私たちにどのような利益をもたらしてくれるのでしょうか。」
「貴様の依頼には必ず答えよう。戦力として扱うのもよし、他国を滅ぼす兵器として扱うのもよしだ。
国の治安維持のために働いてやってもいい。」
「あなた自身が治安を乱す原因では?」
「そう思うならば、小僧に監視でもつけろ。
余が貴様に逆らったとて、今の力で貴様らを敵に回すのは得策ではないからな。」
「あなたを抑えられる存在なんて、この国には…」
「私がやります。力を失った今のオロチであれば、私なら勝てます。」
風凪カグラが言った。
「しかし、もしあなたに何かあれば…」
「将軍様!」
将軍の反論を遮って、風凪カグラは主張する。
「ここでオロチを処刑することはすなわち、
山口ナオトを殺すことでもあります。彼は善良で無実な嵐の民の一人です。ここはどうか、彼を救うために条件を呑んでいただけませんか?」
将軍はしばらく考えた後に答えた。
「…わかりました。その条件を呑みましょう。
ですが、こちらからも条件を提示させてもらいます。」
「いいだろう、言ってみろ。」
「私と山口ナオトで御前試合を行います。山口ナオトが勝てば処刑は取り消しにします。」
「待ってください!それはナオトには荷が重いのでは。それになぜナオトと…!」
「オロチの実力は試すまでもありません。そしてオロチの意思は先ほど聞きました。あとは依代となっている山口ナオトの意思だけです。彼が生かす価値のある人間であるなら、私は喜んで処刑を取り消しましょう。」
「しかし…」
「口を挟むな女。いいだろう。だが、今すぐにというのは小僧に勝機はない。少し時間をもらうぞ。」
「構いませんよ。期間は三ヶ月でどうでしょうか。」
「二ヶ月で十分だ。」
「わかりました。ならば二ヶ月後、城の前で落ち合いましょう。それでは、去りなさい。」
余は小僧に交代する。
(さて、この小僧をどこまで育てられるだろうな…)
ーーーーーーーーーー
将軍様との謁見を終えて、俺たちは拠点に帰ってきた。とりあえずは希望が見えてきたことを喜ぶとしよう。
「本当によかった、ナオトが助かって。
私怖くて何も言えなくなっちゃったよ。」
「無理もない。将軍とオロチの会談、私もヒヤヒヤしたからな。」
「カグラさんありがとうございます。
あんな風に庇えてもらえて、嬉しかったです。」
「いいんだよ。さあ、改めてよろしくな。
ようこそ三番隊へ。」
俺は正式に、妖伐隊の三番隊に入隊することになった。まあ御前試合に負けたら意味ないんだけど。
「ナオト、期間は経ったの二ヶ月だ。すぐに修行を始めるぞ!」
カグラさんはかなり乗り気な様子だ。
「カグラさん、私はどうしたら…」
「マタタビにはミコトの手伝いを頼みたい。
お願いできるか?」
「はい!任せてください!」
マタタビは嬉しそうに屋敷の中へ入っていった。
俺はカグラさんに中庭に連れられ、早速修行が始まった。
「御前試合のためではあるが、お前は将来的に妖怪と
戦っていくことになる。そのために必要な、"妖術"を身につけてもらうぞ。」
「妖術…俺まだあんまりわかってないんですけど、どんな力なんですか?」
俺は何気なく尋ねてみる。
「妖術とは、人間が持つ妖力を使って発動する術のことだ。炎、水、岩、風、雷の5つの属性があり、その適性は人それぞれだ。だからまずは、ナオトの適性を調べなきゃな。」
「適性ってどうしたらわかるんですか?」
「拳を出してみろ。」
俺が言われた通りに拳を突き出すと、カグラさんは拳を合わせてきた。すると何か、ぞわぞわとした冷たいものが俺の中に入ってくるのを感じた。
「カグラさん、これって?」
「ふむ、反発しないか。ならナオトは風の適性があるようだな。」
「えっ、なんでわかるんですか?てか今何したんですか?」
「拳から風の妖術を流し込んだ。私の妖術が反発せずに体内に入ったということは、私と同じ、風属性に適性があるということだ。」
「はぇ〜、なるほど、わからないっすね。」
「まあその辺はいい。風の妖術が使えるということだけわかっておけばな。それにしても、運がいいな。自慢じゃないが、私よりも風妖術の扱いに長けているものは、ゼルファリア大陸全土でもいるかどうか。」
「カグラさんってすごいんですね。」
「そんなことはない。お前だって修行すればすぐに追いつけるぞ。」
「頑張ります!それで、どうしたら風妖術を使えるようになるんです?」
「手を貸してみろ。」
カグラさんはそう言って俺の手を取り、再び妖術を流し込んできた。
「今手から感じる感覚を忘れるな。それを自分で作り出すイメージだ。」
「なるほど!わかりません!」
「わかるまで頑張れ。」
「そんな無茶な!?」
それから30分ほど続いたが、ちっとも感覚は掴めなかった。
「うん、まだ最初だからな。今日はここまでだ。」
「えっ、もう修行終わりですか?」
「そんなわけがないだろう。"妖術は"終わりだ。
次は体を鍛えてもらうぞ。」
やっぱり避けては通れないか。
「さあついてこい。私が目一杯面倒を見てやろう!」
俺はそう言うカグラさんについていき、次の修行に取り掛かる。この時の俺はまだ知らなかった。これから地獄の修行期間が始まることを…
終
読んでいただきありがとうございました!
今回は将軍サクラとの対談、そして修行開始といった内容でした。
次回は修行がさらに苛烈なものになっていきます。果たしてナオトは将軍に勝てるのでしょうか。
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