#19 バトルオブトレイン
汽車に乗ってかれこれ数時間、
ルミエリアまであと一時間といった頃、
俺とマタタビは昼寝から目を覚ました。
どうやら辺りが騒がしい。
何かあったのだろうか。
「すいません、何かあったんですか?」
前の座席に座っていた夫人に尋ねてみる。
「なんだ、聞いてなかったのか?
さっき駅員の報告で、
汽車の上空を低級妖怪が飛行していると言われてね、
乗客は皆不安になっているのさ。」
「そうなんですね。
でも、なんで妖怪が汽車に?」
「この辺の線路はそもそも、
妖怪の出没数が多い地域らしい。
それが原因だとは思うが、
今回みたいなことは初めてだ。
何か理由があるのかもしれないね。」
夫人は平静を装いつつ答えてくれた。
「情報提供ありがとうございます。
俺実は妖術師なので、ちょっと行ってみます。」
俺は刀を持ち戦う用意をする。
「マタタビ、荷物を見ててくれ、すぐ戻る。」
「合点承知!」
マタタビに荷物の見張りを任せて
俺は汽車の連結部分から上空の様子を確認する。
確かに夫人の言う通り、
羽の生えた妖怪が数匹飛び回っている。
わざわざ汽車の速度に合わせている様子だ。
(一体一体は大したことなさそうだけど、
どうしたものか。
遠距離攻撃は習得してないし、
風で飛び上がったら汽車に置いてかれそうだ。)
俺が四苦八苦していたとき、
向かい側の車両から一人の男がやってきて、
俺に話しかけてきた。
見たところかなり若そうだ。
年は俺の二つか三つ上くらいだろうか。
「おい君、君もあの妖怪共を処理したいなら
協力してくれないか?
いかんせん面倒くさそうだからさ。」
俺は向かいの車両に移り、
その男と会話してみることにした。
「えっと、あなたは?」
「俺は"カナタ"、仕事でルミエリアに行かなくちゃ
ならないんだけど、妖怪が出たって言うんでね。
なんとかするかと思い腰を上げたってわけ。」
「カナタか、俺はナオト、山口ナオトです。
よろしくお願いします。」
「そんなに他人行儀にしなくてもいいよ、
俺にはタメ口で接してくれて構わないよ。」
「あ、ああ、わかった。」
カナタの服装は見たことがない。
嵐の人ではないな。
背中には大きな槍を背負っている。
「さぁナオト、あの妖怪たちを討伐したいんだけど、
何か策はあるかい?」
カナタは投げやりに聞いてきた。
何か作戦があって俺に話しかけてきたわけ
じゃないのね。
「それが何も、俺の刀と風妖術じゃ
汽車の上で戦うのはちょっと…」
俺が躊躇いながら言うとカナタは頷きながら答えた。
「確かに、風妖術は閉鎖空間では厳しいかもね。
それに相手は空の上だ、
下手したら汽車から落っこちるしな。」
カナタはフォローしてくれたけど、
依然解決策は思いつかなかった。
「ルミエリアに到着するまで
このまま行くしかないか…」
「いやいや、あんな奴らの真下にいちゃあ、
せっかくの汽車の旅が台無しだ、
なんとかしようぜ。」
「そうしたいのは山々だけど、
完全に手詰まりじゃあ…」
「おいおい、君一人では厳しいかもだけど、
俺の妖術も合わせればどうかな?」
カナタはそう言って手のひらから
紫色の電気を生み出した。
「これって…」
「ああ、俺の雷妖術だ。
風と雷、この二つの属性を
合わせればなんとかなりそうだよ?」
カナタは胸元から薄い金属片を
複数取り出して見せた。
「これでどうしろと?」
「俺がこの金属片に電気を纏わせる。
それをナオトが風妖術で飛ばせば、
簡易的な飛び道具の完成さ。
かなり強めの電気を流すから、
怯ませて地面に落とすくらいはできるかもね。」
「よし!それやろう!」
俺たちはさっそく連結部分に戻り、
作戦に取り掛かる。
俺は妖怪たちの真下で上昇気流を作り出す。
カナタは何枚もの金属片に電気を纏わせる。
カナタがそれらを上昇気流に向けて投げ込むと
電気を帯びた無数の金属片が妖怪たちに突き刺さり。
妖怪たちは地面に落とされ、
あっけなく妖怪騒動は解決した。
「いやぁ、こんなに上手くいくとは。
君、なかなか強そうだね。」
カナタは不敵な笑みを見せて言った。
俺は一瞬怯んでしまう。
「お前、何者なんだ…?」
俺が警戒しながら尋ねると、
カナタは気さくに笑いながら答えた。
「そんな警戒しないでよ。
俺はただの、しがない傭兵さ。」
「そ、そうか、脅かすなよ。」
「ごめんごめん、戦いが大好きな性分でね。
強者を見つけると気になって仕方ないんだよ。
大丈夫、君とやり合うのは然るべきとき、
然るべき場所でだ。」
「なんだよそれ。」
妖怪退治を通して俺はカナタと仲良くなった。
そしてマタタビが待つ座席に戻り、
三人でルミエリアに向かうことになった。
どうやらカナタの行き先もルミエリアらしい。
「カナタさんはなんでルミエリアに?」
「仕事だよ仕事、妖怪が闊歩するご時世、
傭兵の出番は絶えなくてね。
こうして外国からの依頼も来るってわけさ。」
「なんか大変そうだな。
妖怪退治は俺たち妖伐隊も頑張ってるんだけどな。」
「お互いに大変だな。」
そんな世間話をしているうちに、
ルミエリアの首都、"ラクシミール"が見えてきた。
観光用の冊子を読んで知ったのだが、
ラクシミールは大陸全土の経済の中心地であり、
各国から大勢の商人が集まってくるそうだ。
かつて繁栄と契約の女神"ラクシュミ"が
栄えさせたことから、
その名にちなんだ都市名になったそうだ。
人々はラクシミールを、金のなる都、と呼ぶ。
「二人はその服装からして、嵐から来たんだろ、
ルミエリアは初めてか?」
「ああ、嵐を出るのはこれが初めてなんだ。」
「そうか、なら俺が案内しようか?
前に少しだけ滞在したことがあってね、
そこそこ土地勘はある方だよ?」
カナタがそう言ってくれたので、
俺たちはありがたくその好意に甘えることにした。
大陸の中心都市に二人で行くのは不安だったから
かなりありがたい。
「ありがとうございます!」
マタタビもカナタと打ち解けた様子だ。
人付き合いがめちゃくちゃ上手いらしい。
紆余曲折を経て、
俺たちはラクシミールに到着した。
汽車を降りてすぐだというのに、
数え切れないほどの人々が横行している。
嵐では絶対に見られない景色だな。
「うわぁぁ、ナオト〜。」
マタタビは人混みに飲まれて目が回っているようだ。
そういう俺も動揺を隠し切れない。
これが、ルミエリア…
俺たちが目を回していたとき、
カナタが俺たちの手を引いて人混みの少ない場所へ
誘導してくれた。
「ありがとうカナタ、助かった…」
「ありがとうございます…」
「ははっ、二人とももみくちゃにされてたな。
どうだった、ルミエリア名物の人の波は?」
カナタは俺たちを揶揄うように笑いながら言った。
マタタビは頬を膨らませながら答える。
「もう!私たちのこと田舎者だと
思って馬鹿にしてますね〜!?」
「してないしてない、
俺も初めての時は苦戦したからさぁ、
なんか懐かしい気持ちになってさ。」
マタタビは口を尖らせて不満を募らせる。
駅の椅子に座って休憩しながら
諸々の身の上話をカナタにした。
姉さんが行方不明で再会するために
ルミエリアに来たこと、
大妖怪のオロチに取り憑かれていることなど。
カナタは神妙な面持ちで聞いてくれた。
まだ知り合ってそんなに経ってないけど、
カナタはいい奴だということがわかった。
「いろいろ大変だったな、まぁ気楽に行こうぜ。
そうだ、俺の行きつけの店を案内するよ。
ついてきてくれ。」
カナタの後について駅を出ると、
そこには見たことない景色が広がっていた。
嵐では考えられない高い建物がたくさん立ち並ぶ
綺麗な街並みだ。
「ここが、ルミエリア!」
俺は興奮を隠せなかった、
初めて足を踏み入れる外国の街に。
「二人とも、早く行こうよ〜!
遊びに行こ〜!」
マタタビは俺たちを置き去りにして行ってしまう。
「こら!迷子になるだろ、離れるなって!」
「早く行こう、何があるかわからない。」
俺はカナタと一緒にマタタビの後を追う。
右を見ても左を見ても目がチカチカしてくる。
マタタビは少し先のお店の前で立ち止まり、
看板を眺めていた。
「ナオト、ここ行きたい!」
マタタビが指差したのは料理のお店、
レストランと書いてある。
「おっ、見る目があるなぁ。
俺が連れてきたかったのはここだよ。
ここならルミエリアの美味しい料理を堪能できる。」
「ナオトナオト、お願い!」
マタタビは目をキラキラさせながら頼んできた。
かという俺もワクワクを抑え切れない。
「カナタ、行こう。
俺も気になる。」
「オーケー、楽しんでもらえると嬉しいな。」
そして俺たち三人は席につく。
カナタがおすすめの料理を教えてくれたので、
俺とマタタビはそれを頼む。
「俺パスタ食べるの初めてだ。
嵐にある外国料理店は見たことあったけど、
値段的にちょっと…」
「私も!」
「確かに、嵐では珍しいかもね。
でもルミエリアではパスタは民間料理だから
安く済むんだぜ?」
「はぇぇ。」
俺たちが駄弁っている間に料理が完成したようだ。
配膳されたパスタにワクワクを隠し切れない。
「わぁぁぁ、食べてもいい?」
「もちろん、たんとお食べ。」
マタタビはその言葉を聞いてすぐにがっつきだした。
恥ずかしいなぁ。
カナタは食事しながら何気なく聞いてきた。
「それで、この後はどうするつもりだ?
お姉さんを探してるって聞いたけど。」
「一旦、妖伐隊の拠点に行きたいな。
来る前に地図はもらったんだけど
全然わからなくて…」
「わかった、なら俺が案内するよ。」
こうした平和な会話からルミエリアでの
冒険は始まった。
しかしこれから俺たちは、
ルミエリアの命運を分ける戦いに
巻き込まれることになる。
終




