#16 嵐去る 桜舞い散り 恋芽吹く
アルデバランが去った後、
俺たちは町に戻り後始末を始めた。
俺とマタタビは拠点での待機を命じられたため
部屋で休んでいた。
「ナオトお疲れ様、もう大丈夫だよ。」
マタタビはいつものように治療してくれた。
笑顔を保っているがかなり心配していたようだ。
「ありがとな、マタタビが無事で良かったよ。」
「安心して。私、足手纏いになんてならないから。
だからこれからも一緒だよ?」
マタタビは抱きついてきた。
俺がマタタビと戯れあっていたとき、
プツンと意識が途切れ、
オロチの精神世界に誘われた。
「ちょいちょい、びっくりするだろ。
急に呼び出すなって。」
「そんなことはいい。
お前、よくも宝玉を渡してくれたな?」
オロチは口角を上げつつも目は笑っていない。
めちゃくちゃ怖い…
「いや、だってさ、ああするしか
なかったじゃんか…」
俺は弱々しく言い訳することしかできない。
「ふん、まあどうでもいいがな。
だが今回やられた分は
いつか帳消しにせねばならない。
今後一等星とも戦っていくことになるだろう。
それを弁えておけ。」
「はい、すみません…」
「よし、もう戻れ。
今晩の修行は無しだ。
ゆっくり休め。」
「案外優しいんだな。」
「ぬかせ、余にも非があったからだ。
あいつの目的を見誤った。
だから次はぶちのめす、いいな?」
オロチはどこか虚ろな目をしていた。
口ではこう言ってるけど宝玉を取られたことを
あまり気にしていない、
むしろ興味がないというか…
「おう!」
そして俺は現実世界に戻された。
ーーーーーーーーーー
戦いの後始末を終えて、
私は自室で休息を取っていた。
すでに日は落ちて静かな夜になっていた。
私は明かりをつけて久々の読書に勤しんでいた。
こんなにも穏やかな夜はいつぶりだろうか。
心が休まるのを感じる。
読書中、何度も何度も、
ある言葉が頭の中でこだまする。
「俺がここで逃げたら、
カグラさんが殺されるでしょ。
そんなの嫌だ!」
ナオトの言葉と笑顔が頭から離れない。
そして胸がざわつく。
「〜〜っ////」
天狗への憎しみとは全く異なる、
別の感情が所以で、
私はなかなか寝付けない夜を過ごすのだった。
ーーーーーーーーーー
三日後、再び修行の日々が始まった。
いつも通り私は隊員たちの修行を監督する。
いつも通りのはずなのに、
なぜかナオトから目が離せない。
「ぜぇ、はぁ、ぜぇ…」
ナオトはあまりの鍛錬の厳しさで倒れてしまった。
全身汗だくで、手足が震えている。
筋肉が限界を迎えているのが見て取れる。
私はナオトに近寄って話しかける。
「な、ナオト、限界なら今日は休んでも…」
私が何気なく言うと、ナオトは目を見開かせた。
「えっ!?どうしたんですかカグラさん、
前までは、限界が来たらその3倍頑張れって…」
「そ、そんな頭の悪そうなこと言ってないぞ!」
言ってない、言ってないはず…
「俺もそれ言われました。
死にたくなりましたね。」
山下まで言ってきた。
私はそんな酷いことを言っていたのだろうか。
みんなはそんな私をどう思うだろう…
私が少し凹んでいると、
ミコトがにやけながら私を呼び出した。
「カグラさ〜ん、ちょっといいですか〜?」
「あ、ああ…」
私はミコトの部屋に案内された。
部屋に入った途端にこんなことを言われた。
「カグラさん、ナオトさんに甘くなりましたね?
何かあったんですか?」
ミコトは私を揶揄うように聞いてきた。
私は突然の質問に戸惑ってしまい、
声が裏返ってしまう。
「そ、そんなことないぞ!」
「本当ですかぁ?
顔が真っ赤っかになってますよ?」
「〜〜っ!」
「カグラさん、私はカグラさんの味方です。
あらかた検討はついてますが、
カグラさんの口から聞かせてください。
何か悩み事でもあるんですか?」
ミコトは依然いたずらな顔で聞いてくる。
顔が熱くなるのを感じる。
私は恐る恐る話し始める。
「最近、変なんだ。
ナオトの言葉や顔が頭から離れない。
そしてナオトを見ると顔が熱くなって、
心臓の鼓動が早くなる…
私は、体調が悪いのだろうか…」
私の言葉を聞いて、ミコトはやっぱりな、
とでも言いたげな様子で頷き、
私にその事実を告げた。
「カグラさん、それは恋です。」
それを聞いてさらに顔が熱くなる。
恋…?この私が…?
色恋沙汰とは無縁な人生を送ってきた、
この私が…?
「ち、違う///」
私は思わず否定してしまう。
しかしミコトはちっとも信じてくれない。
「いいえ、今のカグラさんは、
ナオトさんのことが好きで好きで
たまらなくなってるんです。
恋する乙女です。」
「〜〜っ/// 違うぅ…///」
「カグラさん、顔に出過ぎです。
隠せませんよ?」
そんなに顔に出てたのか?
もしかして、ナオトはとっくに…
いやそんなはずない。
ナオトはこういうのに疎そうだしな、うん…
「まあカグラさん、恋愛小説好きですもんね?
いつかはこんな日が来ると思ってましたよ。」
「なんでそれを知ってるんだ…!」
恋愛小説を読むときは最善の注意を払っていたのに。
ミコトには何もかもお見通しらしい。
それにしても、これが恋、か…
まさか私が、誰かに惚れ込む日が来ようとは。
「カグラさんは多分、
こういうの不器用で苦手ですよね?」
「うぅ、ぐうの音も出ない…」
「大丈夫です!
カグラさんはとっても魅力的ですし、
ナオトさんも優しいですから。
私は応援してますよ。」
ミコトは胸の前に拳をぎゅっと寄せて言った。
ナオトは私のことを、どう思ってるのだろう。
もし私の気持ちに気づいてたりしたら、
ナオトの前でも顔が真っ赤になってたら、
恥ずかしすぎる…!
ーーーーーーーーーー
鍛錬の合間、俺は山下さんをはじめとした
先輩たちに何気なく聞かれた。
「ナオトはさ、カグラさんのことどう思ってんの?」
「それは、どういう意味で…?」
先輩たちは呆れたようにため息をついて言った。
「あのなぁ、天狗を倒してからの
ここ最近のカグラさんを見ろよ。
どう考えてもお前に甘いだろ。
それになんかタジタジだしよ。
どう見ても明らかだろ、お前に気がある。」
先輩たちは悔しそうに言ってきた。
いやそんな顔をされても…
「お前、気づいてないとは言わないだろうな?」
「えっと、まあ、なんとなくそうかなぁ〜とは
思ってましたけどね…」
カグラさんは明らかに変わった。
俺にだけ休憩を勧めるようになったし、
ご飯を食べるとき、前までは隣に座ってくれたのに
最近は離れた席で食べてる。
そして目が合うと慌てて逸らされる。
うすうす感じてた。
俺に気があるのかなぁとは…
「お前なんでそんなに冷静でいられるんだ!
あのカグラさんに惚れられてんだぞ!?
俺たちみんなの憧れ、艶やかな色姉だぞ!
俺だったら正気を保てねえな。」
「お前羨ましすぎんだろ!
あの色っぽいカグラさんだぞ!
俺も耐えられなくなるな。」
そんなこと言われましても…
とはいえ、流石に俺も嬉しい。
初めて会ったときからずっと
綺麗な人だと思ってたし、
なんだかんだ憧れてたし。
「なあナオト、あの感じもう確定だろ。
多分あの人色恋は苦手だから、
お前から言ってやれよ。」
山下さんはにやにやしながら言ってきた。
「いえ、俺はまだ、カグラさんの気持ちには
答えられません…」
俺はキッパリと告げた。
「はぁ!?なんでだよ!
断る理由なんかねえだろうが!」
それはそう。
俺だって、正直めちゃくちゃ嬉しいし、
カグラさんのこと、魅力的だと思う。
でも、でも…
「俺、姉さんが見つかるまでは答えられません。
カグラさんには申し訳ないですけど、
姉さんが今もどこかで
寂しい思いをしてるかもしれません。
そんなときに俺だけ幸せになるのは、
なんか違うかなって、思うんですが…」
俺が青空を見上げながら告げると、
山下さんが俺の頭を掴んで言ってきた。
「なぁ〜にかっこつけてんだ。
俺たちはお前のために言ってんじゃない。
カグラさんのために言ってんだ。
あの人はずっと、天狗への復讐、
その宿願のために生きてきた。
それが果たされた今、
カグラさんの新しい生きがいが
お前なんじゃないか?」
山下さんのその言葉を聞いて、
俺は何も言えなくなってしまった。
確かに、カグラさんの幸せを第一に考えるなら…
「まぁ、お前にはお前の事情があるからよ。
一概にこうしろとは言わない。
お前の考えが間違ってるとも思わない。
ただ、お前が考えてることを
ちゃんと伝えてやることも優しさだと思うぞ。
単なる口約束でも、カグラさんは喜んでくれるさ。」
山下さんはそう言った。
えっ、かっこよ。
俺もそんなこと言ってみたい。
山下さんの言い分、その通りだ。
カグラさんのためにもやっぱり…
「俺、カグラさんに俺の考えを伝えてきます。
そうしたら、カグラさんは待っててくれますよね?」
山下さんは満足そうに頷いた。
他の二人の先輩はというと…
「やめてくれ!俺に譲ってくれ!」
「安心しろ!お前が嫌なら俺がカグラさんを
幸せにするから!」
「ちょっ!嫌ですよ!
カグラさんは俺がもらうんですから!
俺もう行きます!」
俺はカグラさんの部屋へ向かう。
山下さんが二人の先輩を押さえつけているうちに。
部屋の中のカグラさんに挨拶しようとしたとき、
廊下の奥の部屋からアラトさんが出てきて言った。
「ナオト、将軍様からのお呼び出しだ。
すぐに向かうからついてきてくれ。」
なんという不運…
終
読んでいただきありがとうございました!
今回はカグラの恋が始まりました!
次回はカグラの想いが暴走しちゃって…?
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