#11 うごめく暗雲、しなる風
「アラト、無事なのか!?天狗は!?」
私はアラトの肩に掴みかかって尋ねる。
「落ち着いてください!
話を聞いてくださいよ!」
アラトに怒られてしまった。
「す、すまない…焦っていた。
その、天狗を見つけたというのは本当か?」
「正確には天狗の目標地点がわかった、ですね。」
「目標地点か。
それは確かな情報なのか?」
「はい。天狗による被害地を洗い出し、
地図上に表してみたところ、
規則性を持って動いていることが判明しました。
間違いないかと思います。」
「幸か不幸か、これまでに犠牲になってきた
人々のおかげ、というわけか…」
腹立たしい…!
大妖怪天狗、この200年で
どれほどの人を手にかけた。
必ずや、私がその首を取って見せる!
「それで、天狗の目標地点と到達予測は?」
「まず、目標地点はまさにここです。
そして到達すると考えられるのは…」
ーーーーーーーーーー
(カグラさん速すぎるだろ!
全然追いつけないんだけど!)
俺はまだ森から抜け出せずにいた。
これでもかなり飛ばしてる方なんだけどなぁ。
まだカグラさんには遠く及ばないってことか…
俺がそんなことを考えていたとき、
近くから女性の悲鳴が聞こえてきた。
「誰かぁ、助けてぇ…!」
俺は声のする方へ駆け出す。
(カグラさんには申し訳ないけど、
今はこっちが優先!)
「お姉さん、大丈…」
俺が助けを求める女性に声をかけた瞬間、
突如として女性の体は上半身と下半身が
真っ二つになった。
切断された体が力無く地面に倒れ、
赤い血が勢いよく吹き出す。
(なんだ、これ…今何が起こった?
誰かに切断されたのか…?
でもそんなそぶりは一切見えなかった。
今、誰が、何をした…?)
俺がそんなことを考えていたとき、
背後から下駄の音が聞こえてきた。
不気味な足音が徐々に近づいてくる。
俺が振り返ると、そこにいたのは、
白い長髪の男だった。
背中には大きな翼が生えていて、
緑色の扇を持っていた。
そしてその男からは、
オロチと似たような気配を感じる…
(小僧、覚悟を決めろ。
今日ここで、お前は死ぬやもしれんぞ。)
俺の頬から冷たい汗が流れる。
俺は固唾を飲み込んで刀の鞘に手を当てる。
「ん?誰だお前。」
「俺は、山口ナオト、妖伐隊の三番隊の一員だ。
この人を殺ったのはお前か…?」
「ああ、俺だ。その女の知り合いか何かか?」
その男はにやけながら尋ねてくる。
俺のことを心底見下しているような、悪党の目だ。
「なんで、この人を殺した!
この人が何をしたんだ!」
「あん?別に何も?美味そうだっただけだ、
何が悪い。お前ら人間も家畜を殺して食うだろ?
それと一緒さ。俺にとってお前ら人間は
栄養価の高い肉塊でしかない。」
「人の命を、なんだと思ってる…!」
「何度も言わせんな、頭の弱い奴だな。
飯だよ飯。」
そいつは悪びれもしない。
目の奥から邪悪なものを感じる。
この前の村長とはまるで違う、
善意が一欠片として見つからない、
濁りに濁った悪意だ。
「聞きたいことはそれだけか?
だったらそこをどけ、肉の鮮度が落ちる。」
「おおかた予想はついてるけど、一応聞いておく。
お前は、誰だ…」
「ふん、聞いて驚け、恐怖で眠れ!
この俺こそ、大妖怪の天狗様だ。」
だろうな。
まさかこんなにも早く相対することになるとは。
「俺はお前を許すわけにはいかないんだ。
お前のせいで、苦しい思いを
してきた人が大勢いる。
俺がここで、お前を退治してやる…!」
俺は刀を引き抜き、風妖術を纏わせる。
天狗はため息をついて告げてくる。
「呆れたな、この俺様に風で勝負しようってのか?
その心意気だけは認めてやるよ。
今の時代の妖術師も、大概捨てたもんじゃねえな。」
「舐めるなよ…!」
俺は地を強く蹴って接近し刀を振るう。
「"風凪流三閃 嵐翔斬"!」
俺の渾身の斬撃を、天狗は扇で軽々と受け止めた。
少しも動揺する様子を見せずに…
「ほう、なかなかの剣技だな。
思ってたよりかは強いみてえだが、
俺よりは遥かに下だな!」
俺は力で押し返される。
刀を構え直して次の攻撃を仕掛けようとしたとき、
天狗は扇を振り上げ、力強く振り下ろした。
すると鋭すぎる強風が俺を襲う。
あまりの強さに俺の体は吹き飛ばされる。
「ぐあっ!」
俺の体は何度も木に叩きつけられるが、
その度に木々は薙ぎ倒されていく。
風の勢いが弱まったと思ったら、
すでに天狗が見えないところまで飛ばされていた。
今の一振りで、骨が何本もいかれたらしい。
全身が痛い…
(おいおい冗談じゃない…
なんだよこのデタラメな威力は、
俺が今食らった風は、奴にとってはただの一振り、
こんなバケモノと、どう戦えば…)
(前より少しは強くなったようだ。
だが余にとっては誤差の範囲内だな。)
(だったら代わってくれないか?
正直、次同じのを食らったら
生きていられる気がしない…)
(ダメだ、余が出られるのは1分間のみ、
勝ち筋を見出してからだ。)
(勝ち筋も何も、ここで死んだら元も子もないだろ。)
(あいつにとって、余は天敵とも言える。
余が出るのは風凪カグラと合流したときだ。
案ずるな、これほどの大規模攻撃は
そう連発できるものではない。
そしてこの異変をあの女が察知できないはずがない。
なんとか持ち堪えろ。)
俺はオロチとの作戦会議を終えて、
再び刀を握り直す。
天狗はさっきの女性を抱え、腕を引きちぎり
口に運びながら現れた。
「ふむ、思っていたより味が悪い。
だが、存外無駄でもなかった、
お前という大物が釣れたわけだしな。」
「大物…?」
「ああ。お前、日々体を鍛えているな?
肉付きがいい人間ほど好みでな。
お前は相当美味だろう。
この俺がしっかりと味わってやる、
感謝しろよ?」
そう言って天狗はその女性を近くの池に投げ捨てた。
女性の体が沈んでいくと同時に、
池の清水は赤く濁っていく。
「…知り合いから聞いたんだけどよ、
お前、大妖怪オロチに負けたんだって?
かの伝説の、最強の大妖怪の実力は
どうだったんだ…?」
天狗は一瞬怯んだように顔を歪めた。
「俺のことを、よく知ってるみたいじゃねえか。
確かに俺はあいつに負けた。
あいつの力は異常だった。
この世界の理を超えた外れ値、
それがオロチだ。
だが結果はどうだ?
俺は生き延び、あいつは封印された。
出る杭は打たれるのさ。」
「生き延びたとか言ってるけど、
生かされたの間違いじゃねえのか…?
殺す価値のない相手と思われたんじゃねえの?」
そうだ、これでいい。
煽り続けろ、少しでも長く時間を稼ぐ。
その間にカグラさんが駆けつけてくれれば、
俺たちの勝ち…
「口の回るクソガキだな。
あいつが甘かったのさ。
その甘さが、あいつが負けた理由なんだろうぜ。
安心しな、俺はちゃ〜んと殺してやるからよ。」
わかりやすい奴だな。
明らかに苛ついている。
俺は続けて尋ねる。
「命の女神イザナミが去り、
オロチが封印された今、
嵐で一番強いのはお前なのか?」
「だろうな。
嵐にはオロチ以外に大した妖怪はいなかった。
この国で俺に勝てる奴なんていねえのさ。」
「へっ!鼻高々に言ってるけど、
結局は自分より強い奴が
いなくなるまで待っただけだろ?
自分で勝ち残ったみたいに言ってんじゃねえよ。」
「…今までにも腹が立つ人間はいたが、
お前が最も俺を苛つかせる。
もうお前は終わりだ、殺す!」
天狗は再び扇で強風を吹かせる。
俺は風妖術を正面に発動してぶつける。
だが俺の妖術では威力を殺しきれず、
俺の体は再び吹き飛ばされ、
背後の岩の壁に叩きつけられた。
「があぁぁぁあ…!」
俺の体は岩にめり込んでいく。
指先すら動かせない。
この風、どうすりゃいいんだよ…
「この世で最も愚かな存在は、
自分の力を過大評価し、
何者かになれると過信しているやつだ。
まさに今のお前だな。
お前ごときが俺を倒せるとでも思ったのか?」
天狗は動けない俺の目前まで近づいてきて、
俺の顎を掴んで告げる。
「初撃を食らった時点でお前は負けてたんだよ。
足掻けるとでも思ってたのか?」
これはまずいな、このままじゃ本当に死ぬ…
(オロチ、もう限界だ、本当に死ぬ!)
(仕方あるまい、目を貸せ。)
オロチがそう言うと、
俺の右目が熱くなるのを感じた。
どうやらオロチが目だけ俺と交代したらしい。
オロチが睨みつけると天狗は思わず後退り、
俺に扇を向けて警戒する。
「なっ、なんだ…!
お前今、何をした…!」
「なんの、ことやら…」
天狗は俺の中のオロチに気づいたのだろうか。
さっきまでの威勢はどこへいったのやら。
(今の一睨みで奴は相当怯んだだろう。
隙を逃すな、一撃くらい決めて見せろ。)
俺は即座に刀を握り直し、風妖術を纏って接近する。
「"風凪流四閃 風鬼の翠"!」
「ぐっ!」
天狗は首を傾けて回避したが、
少し掠っていたようで、
天狗の頬から一筋の赤い血が垂れる。
「このクソガキ…!」
天狗は激昂して俺に襲いかかる。
その扇で俺に斬りかかってくるが、
俺は刀で受け流していく。
「"鞍馬演舞"!」
天狗の流れるような連続攻撃をいなしきれずに
体を斬りつけられた。
「がっ、あ…」
俺は膝をついてしまう。
もう力が入らない。
限界、だな…
「ははっ!なんだ、びびらせやがって。
これで終演だ!」
俺が死を覚悟したとき…
「"風凪流二閃 疾風斬り"!」
カグラさんが駆けつけてくれた。
カグラさんの剣技でさえ、
天狗には受け止められてしまう。
「今度はなんだよ!この力、何者だお前は!」
「風凪カグラ、お前を殺す妖術師だ!」
嵐内最強の大妖怪天狗と、
嵐内最強の妖術師カグラさんの戦いが、
ついに始まる…!
終
読んでいただきありがとうございました!
今回はついに天狗が登場しました!
次回は一体どうなるのか!
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