表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/19

#10 淡い記憶

私はナオトと木刀で組み手をしていた。

ナオトの成長速度はめざましい。

御前試合の時よりもさらに強くなっている。


「はあっ!」


「いてっ!

ちょっとカグラさん、強く叩きすぎですよ…」


「そ、そうか…?すまない…」


「カグラさん、最近怖いですよ…

修行中は一切笑わなくなりましたし。」


「そうなのか…?」


気づかなかった。

私は、そこまで追い込まれているのか…?


「やっぱり、天狗のせいですか?」


「…!!」


「その、この前夜ご飯の時に

ミコトさんから聞いたんです。

天狗はカグラさんの両親の仇だって…

気を張り詰めるのは仕方ないと思いますが、

時には緩めることも大事だと思いますよ?」


「そう、だな…」


すまないナオト、

それはできないんだ。

だって私はこれまで、

天狗を倒すために生きてきたんだから…


私はよく夢にみる。

今から12年前、私が7歳だった頃の淡い記憶を。



ーーーーーーーーーー



私は農家の両親のもとに生まれた。

城下町からは少し離れ、辺りには畑が広がる

こじんまりとした民家で生まれ育った。

私の名前、カグラは、祭祀に使われる舞、

神楽からきている。

農家とは無縁で、強く、美しく育ってほしい、

という願いが込められているそうだ。


「お父さん!私もお手伝いする!」


「カグラ、よーしわかった、

ならお願いしようかな。」


「やったぁ!お母さん、行ってきます!」


「はーいいってらっしゃい。

気をつけてね。」


両親は優しい人たちだった。

私のわがままにも嫌な顔一つ見せなかった。

決して裕福な生活とは言えなかったが、

幸せに暮らせていたと思う。


毎年夏になると収穫した野菜を城下町に売りに行く。

両親が荷台にたくさんの野菜を乗せて、

町まで引いて運ぶ。

私はよく荷台に座ってナスやキュウリを食べていた。

両親の野菜は評判が良く、毎年売れ行きはよかった。

野菜を売ったら城下町のうどん屋さんに

寄るのが恒例行事だった。


「カグラ、そんな急いで食べなくても、

うどんは逃げないぞ?」


「まったく、こんなにこぼしちゃって。」


両親が作った野菜の味、

毎年のように食べていたうどんの味は

まだ忘れられない。


7歳の誕生日、両親は城下町で布地を買って

着物を作ってくれた。

私はそれが嬉しくて嬉しくて、

飛び上がって喜んだものだ。

この時の嬉しさが忘れられなくて、

今でも同じ柄の羽織を着ている。


この時、母は第二子を孕っていた。

妹か弟かはわからなかったが、

立派なお姉さんになるんだ、

と張り切っていたのを覚えている。


誰がどう見ても、私たち家族は幸せな家庭だった。

私もいつかは農家を継いで、

両親に親孝行をしていくものだと思っていた。

だがこんな幸せは長くは続かなかった。


その夜、畑の方から物音がして、

両親は確認に行った。

私も同行しようとしたが、

両親は体が冷えるから、と家で待つように言った。

私は特に気にすることはなかった。

ただ猪か何かが来ただけなのだろうと思っていた。


しかし、どれだけ待っても両親は帰ってこなかった。

私は不安に思って

扉の隙間から外の様子を確認した。

するとそこには、真っ赤な血に染まった両親と、

白い長髪と翼を持ち、山吹色の眼を持つ男がいた。

私は瞬時に理解した。

両親はもう二度と帰ってこないのだと。


「男も女も肉付きがいいな。

さすがは農家、と言ったところか?」


その男は両親の腕を引きちぎり口に運ぶ。

私は恐怖で動けず、息すらできなかった。

泣きたい気持ちを必死に堪え、

ただ見つからないように、

見つからないように祈っていた。


しばらくしてその男は翼を羽ばたかせ、

空をかけていった。

私は両親の死体に駆け寄る。

二人の体は冷え切っていて、

ピクリとも動かなかった。


私は一晩中泣いた。

涙が枯れるまで。

二人の周りは私の吐瀉物と涙で

ぐしゃぐしゃになっていた。


こんな酷いことがあっていいものか、

どうして両親がこんな目に

遭わなければならなかったのか、

私は世界の理不尽さに絶望した。


この後私は、駆けつけた幕府の兵士に拾われ、

剣士になるべく修行を積む生活を送ることになる。

剣を学んで2年、天狗という大妖怪の存在を知った。

特徴はあの日私が見たままだった。

私の両親は、天狗によって殺されたのだ。


それから現在まで、私は死に物狂いで修行を積み、

妖伐隊の三番隊隊長になるまでに至る。

私の想いが揺らいだことは一度たりともない。

あの日両親が受けた痛み、苦しみ、絶望を

天狗にも味合わせる。

その想いだけが私を今日まで生かしてきたのだ。



ーーーーーーーーーー



「カグラさん、カグラさん?」


「えっ!?あっ、どうした?」


「大丈夫ですか?上の空って感じですけど…」


「あ、ああ、すまない。

続きをやるか…」


ここ最近、カグラさんの様子がおかしい。

前まではもっと感情を見せてくれる人だったのに、

今はまるで、人が変わったようで…


「カグラさん、やっぱり休んだ方がいいですよ。

肝心の天狗戦のときに調子を崩してたら

元も子もないですよ。」


「私は大丈夫だ、心配無用だぞ。」


「いいから!休んでください!」


「ああっ!ちょっと…」


俺はカグラさんの背中を押して強引に部屋まで送る。

このままじゃカグラさんは壊れてしまう。


「ナオト、私は平気だから…」


「今は平気でもこれから

どうなるかわかりませんから!

今日はゆっくりしててください。

何かあったら俺たちが引き受けますから!」


俺はそう言って部屋の扉を思い切り閉める。

そしてミコトさんのもとに向かい、

カグラさんのことを伝える。


「やっぱりそうでしたか。

ありがとうございます、ナオトさん。

カグラさんは無理しがちですから。」


「今日だけに限らず、しばらくは

休んでもらった方がいいですかね?」


「いいえ、今日だけで十分だと思います。

何もしないと、かえって不安に

なっちゃいそうですし。」


「それもそうですね。」


俺とミコトさんが話していたとき、

山下さんが駆け寄ってきた。


「ミコトさん!屋敷の庭にこのカラスが!

こいつって…!」


「ええ、アラトさんので間違いないでしょうね。」


「カラス?アラトさん?なんのことです?」


「ああ、お前は会ったことないんだったな。

アラトさんは、三番隊の諜報担当を

務める幕府の忍者だ。

ここ数ヶ月ずっと、大妖怪天狗の

調査に出ていたんだ。」


忍者…!諜報…!かっけぇ!


「えっ?天狗の調査?」


「はい、天狗は嵐中を常に移動している妖怪です。

なのでアラトさんには捜索を

お願いしていたんです。

そしてこのカラスは、アラトさんが情報伝達のために

飛ばしてきたものと考えられます。」


ほんとだ、足に紙が巻き付けてある。


「ミコトさん、早く確認しましょう。

天狗の居場所が割れたのかもしれません。」


ミコトさんはその手紙を読み、

書かれている内容を話し出した。


「これは、アラトさんからの救援要請ですね。

天狗が見つかったようです!」


「マジですか!」


もう天狗と戦うことになるのか。

少し緊張してきたな…


「ナオトさん、山下さん、すぐに行きましょう!

千載一遇のチャンスです!」


「「はい!」」


「待て、当然私も行く。

異論はないな…?」


(か、顔怖え…

さっきの怒ってるのかな…)


「カグラさん、アルデバラン殿や

将軍様への報告は…」


「今は急を要する事態だ。

すぐにアラトのもとへ向かうぞ。」


「わかりました。」


そして俺たち四人はアラトさんの

カラスについていき、天狗討伐に向かう。



ーーーーーーーーーー



俺たちは城下町の南側にある森の中を走っていく。

もう町を出てからかなり時間が経ったが、

未だアラトさんらしき人は見つからない。

ていうか、そろそろ疲れてきたんだけど…


「ちょっと、カグラさん…

少し休みませんか…?

きついっす…」


「わかった、三人はここで少し休め。

私は先に進む。」


「ちょっ…!カグラさん!?」


カグラさんはさらにスピードを上げた。

俺たちを置き去りにして…


「二人とも、どうしたらいいですかね?」


「俺はすぐには無理だ、

二人はカグラさんを追ってくれ。」


「ダメですよ、こんな森の中一人なんて

危険すぎます。私も残ります。」


二人はそう言った。


俺は…


(小僧、風凪カグラを追え。

天狗とやり合うならば、

余とあの女が揃い立っていた方がいい。

あの女が死ねば天狗の討伐は絶望的だぞ?)


(マジかよ、でも二人を置いていくことは…)


俺がそんなことを考えていたとき、

山下さんが言った。


「ナオト、お前にまだ余裕があるなら、

カグラさんに加勢してやってくれ。

あの人は今、きっと苦しんでるだろうから。」


「私からもお願いします。

カグラさんを支えてあげてください。」


「わかりました、行ってきます!」


俺は二人に背を向けて再び走り出す。

ただの身体能力では追いつけない。

妖力で足を強化して…


俺は強く地を蹴り、さっきまでとは比べ物にならない速度で駆け抜けていく。

妖力を消費する以上、そう長くは続けられないが…



ーーーーーーーーーー



しばらく進んで、カラスが降り立ったところで

私も止まる。

そこはのどかな集落、とても天狗がいるとは

思えない雰囲気だが…


私が周囲を散策していると、物陰から何かが

飛びかかってきた。

私は刀でその攻撃を受け止める。

私に攻撃をしてきた者の正体は…


「お前、アラト…!」


「カグラさん…?

そうか、増援に来てくれたんですね。」






読んでいただきありがとうございました!

今回はカグラの過去が明らかになりました!

次回は天狗が登場!?


面白いと思っていただけたら、ブクマ・評価・感想をお願いします!毎週水曜日と土曜日の20時頃に更新予定です!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ