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幼馴染のナツシリーズ

帰り道の傘

作者: リィズ・ブランディシュカ





 喧嘩して引っ込みがつかなくなった時、皆は何してる?

 ほとほりが冷めるまで待つとか、それとも自分から謝罪するとか、相手に謝罪させるとか色々あるよね。

 私の場合は、……というか私とナツとの場合は。




「だから、お前みたいな不細工がモテるわけねーだろ。結果わかりきってんのに、こんなとこ来んなブス」

「はー? 彼女いない癖に偉そうな事一点じゃないわよ。馬鹿ナツ。ブスって言ったお前の方が百倍ブース」

「は? お前の方がブスなんですけど?」

「うっさい黙れブース」


 低レベルな口喧嘩を繰り広げた私達は、今まで合コンしていたカラオケ店の外へ飛び出す。


 お互い、反対の方向を向いて夜の町を歩いていく。


 帰れば良いんでしょ?帰れば。


 友達に付き合って合コンの会場にいったら、まさかの馬鹿幼馴染ナツと遭遇。


 それで、喧嘩になって今この通りだ。


 友達には後で謝らないといけないな。


 私ははあーっと、重たいため息をつきながら、近くの公園に立ち寄る。


 時刻は夜の9時。


 遊ぶ子供なんていやしないから、贅沢にブランコを独り占めだ。


「はぁー、小さい頃は愛嬌があって可愛かったのに、いつのまにあんなすれた大人になっちゃったんだか」


 幼馴染のナツとは、昔からの付き合い。


 子供の頃はそれなりに仲が良かったけど、今は顔を合わせる度に喧嘩してる。


 だったら合わなくちゃいいんだけど、なぜか行くところ行くところ、ナツと遭遇してしまう。


 お互いに似たような会社に入って、似たような時間帯に働いて、似たような趣味を持っているからだろう。


「はぁー、もうまじ最悪」


 ため息を吐く私は、ブランコを漕ぎながら空を見つめる。


 星なんてない真っ暗な空。


 重たい雲が街の灯りに照らされて今にも雨が降ってきそう。


「なんて思ってるうちに雨が降ってきたんですけど」


 まじさいあく。


 泣き面に蜂状態だ。


 心の中で悪態をつきながら、ブランコから離れる。


 雨は強くなる一方で、早く雨宿りしなくちゃいけないんだけど、急ぐ気にはなれなかった。


 そのままとぼとぼと歩いていると、ふいに雨が途切れる。


 上を見たら、傘があった。


 私は傘を持ってきてないので、一人でに傘が浮いていないといけないんだけど、ここはファンタジーではないのでそんなはずはない。


 つまり傘を差しだした人間がいる。


「何? 謝る気になったの? 馬鹿ナツ」

「うっせー、そんなわけねーだろ」


 私達はそのまま互いの顔を見ずに家に帰る。


 子供の頃から、雨が降った日はいつもナツの傘に入れてもらいながら家に帰っていた。


 学校にいたと時も、会社にいた時も。


 私が傘忘れっぽいから、入れてもらうのはいつもナツの傘。


 家に帰るまでのこの時間は変わらないのに、心とか立場とか、関係とかいろいろなものが変わってしまっている。


 仲良くおしゃべりしているか、喧嘩しているか。


 学生服を着ているか、スーツを着ているか。


 傘を差しながら帰るまで一緒に歩く、これだけは何でか変わらない。


 やがて家に到着すると、ナツは無言で背中を向けた。


「馬鹿ナツ。こういう時だけ優しくしないでよ」


 別に好きなんかじゃにないけど。


 合コンなんて本気で参加したんじゃないんだとか。


 傘の事はすごく有難いと思っているとか。


 私はそれらの言葉をのみこんでナツの背中を見送った。


 仲良くお喋りしながら傘をさして帰っていた関係は終わった。


 でも、まだ私達は一緒にいる。


 喧嘩しても傘を差せば仲直りできる、なんてそんな関係。


 永遠に続くわけがないのに、一歩踏み出す勇気がない私は曖昧なままだ。

 


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