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エピローグ

「よしっと、こんな感じかな」

「クリス、こんなところにいたの? 今日はダークナイトさんが来る日でしょう?」

「あ、お母様。そうだった! すぐ行くね!」

 わたしはやっていた作業から手を離して、隣で作業をしていたシェリル姉様と一緒に立ち上がる。

 サディアスとドリスがクレイマスターに攻めてきたあの日から、数カ月が経った。

 ふたりは魔法が使えないどこかの塔に幽閉されて、おそらくそこで残りの人生を過ごすことになるそうだ。

 魔法が使えない塔なんてあるんだこわい、と気にしたわたしに、知らない方がいいこともあるものだと、ダークナイトさんが例によってものすごく悪い顔をして教えてくれた。

 闇属性秘伝の魔法が、きっと転移魔法以外にもあるのだろう。詳しくは、聞きすぎないようにしておこう。

 レイジングフレアとハリケーンの公爵家自体がどうなったかといえば、これが意外にもというべきか、幽閉を言い渡されたふたり以外は、本当に寛大な措置が取られた。

 どちらも、サディアスとドリスの親戚筋にあたる人たちが領地と爵位を継いだらしい。

 入念なヒアリングとか、国と陛下への忠誠を改めて誓うとか、だいぶ強めの警告はされたみたいだけど、六大属性体制は今までどおり維持された形だ。

 ここで火と風の地位を下げてしまえば、それをよしと思わない勢力との内戦になりかねないからだ、とこれまたダークナイトさんが教えてくれた。

「あくまで表向きは、ですわね。クリスちゃんもご存じの通り、パワーバランスはかなり変わっているでしょう? ぜひともクレイマスター家とは、今後も仲良くさせていただきたいですわね」

 すっかり仲良くなったヘヴィーレインさんが言うには、表向きには六大属性体制を維持しているものの、火と風の発言権は風前の灯で、権威を回復できるかどうかは、これからのふるまい次第らしい。

 ちなみに最近は、ダークナイトさんもヘヴィーレインさんも、公爵家の一員として、色々と意見を言うようになってきたそうで、お父様も「正論ばかりなだけに、なんとも強敵だよ」と笑っていた。

 お父様は、国内の道路と建物の整備を一任されて、本当に忙しそうだ。エル兄様を連れて、国中を駆け回っている。

 エル兄様は神樹と精霊の守り手も兼任しているから、よくスノーに乗って遠征をしている。

 神樹のところには、最低ひとりの精霊がいればいいし、神樹の力もだいぶ戻ってきているから、大丈夫なのだとか。

 人前に姿を現さないはずの精霊たちは、すっかりクレイマスターと一緒に行動するようになっていて、みんなの意識も少しずつ変わってきている。

 手の届かない、姿も見えない伝説のような存在から、実在して神樹経由で恩恵もくれるありがたい存在として、認知されつつあるのだ。

 神樹がクレイマスター領内にあるとはいえ、それを独占するつもりはまったくないので、神樹の雫などの各地域への供給についても、整備が進んでいる。

 クレイマスターが、これまでみたいに足元を見られるようなことは完全になくなった。産業も農業も潤ってきているし、領内も今までよりにぎわうようになっている。

「よお、きたなクリス」

「ダークナイトさん、こんにちは!」

 応接間で挨拶をして、近況報告を聞く。

「また都市内を改装したのか? ほどほどにしておけよ」

「あ、気付いてくれた? かわいいでしょ?」

「かわいげはどうか知らんがな、局地的にやりすぎると、いらん恨みを買うぞ。なにしろ物がいいからな」

 はあい、と返事をしておく。

 最大級に褒めてくれているのだと、今ならわかる。ダークナイトさんは不器用なのだ。

「それから、王都で押しつけられた嘆願書だ。こっちはクリスに、こっちはシェリルの分だ。エルドレッドは……まあ、いないよな」

「こないだより、増えてる……?」

「おお。適当に目を通したら、捨てていいぞ」

 わたしたち兄妹は、神樹と精霊を救った奇跡のお子様として、すっかり有名人だ。

そのせいで、色々な依頼やら縁談やらがひっきりなしに届く。

 お手紙だとか、使者を立てるだけでは飽き足らず、ダークナイトさんやヘヴィーレインさんがクレイマスターに行くと聞きつけては、嘆願書を押し付けてくるのだ。

 超飛び級で国の要職に勧誘されたり、婚約者候補として同年代の男の子のプロフィールが入っていたり、魔法学園の臨時講師を依頼されたり、内容は本当に様々だ。

「さすがクリス、私の倍くらいあるんじゃない?」

「ダークナイトさん、これ全部捨てていい?」

「こいつとこいつはおもしろそうじゃないか? お前さんの魔法も活かせるかもしれん」

「ううん、申し訳ないけどわたし、他にしたいことがたくさんあるから」

「エンチャント装備を、おしゃれにしてるんだもんね」

「おしゃれに……?」

 ダークナイトさんの微妙な表情に、くすくすとシェリル姉様が笑い、わたしは大きく頷く。

「そうなの! 結晶のカットを頑張って宝石みたいにしているのと、台座になるアクセの方もシェリル姉様と一緒にデザインして、すっごくオシャレにしようとしてるんだ!」

「貴重なエンチャント装備をそのような……宝の持ち腐れにはなっていないんだろうな?」

「それはもちろん。こないだもヒートに火力を調整してもらって、制御はしやすいままで、結晶を十個つけられるようになったんだよ」

「あれ、すごかったよね。クレイマスター領の端から端までひとっとび!」

「……お前さんたちは、まったく」

 ダークナイトさんが、深いため息をつく。

 どうせまた、強すぎる力は狙われるとか、いらない疑いをかけられるとか、お説教をしたいのだろうな。

「三個以上重ねたものは外には出していないし、セーフティロックをかけてあるから大丈夫」

「そのロックをかけるのは、風の精霊エアなんだろう? 精霊をこき使うなよ、不敬だぞ」

「それも大丈夫。エアさんに教えてもらって、わたしも土魔法式のロックをかけられるようになったから」

「お前さん、なんでもありか……悪いが、めまいがしてきた。おいとまさせてもらおう」

「そう? お大事にね、ダークナイトさん!」

 ダークナイトさんはひらひらと手を振って、ふらふらと出ていってしまった。

 急に体調が悪くなっちゃうなんて、大丈夫かな。

「さてと。じゃあシェリル姉様、いよいよだね!」

「ええ、行きましょ」

 わたしたちが作っていたのは、軽くて丈夫な土で作った、前世の車のような乗り物だ。

 ソルトたちの背中に乗せてもらったり、バフ魔法重ね掛けのエンチャント装備を使ったりすれば、わたしたちは領地中を駆け回れるけど、他のみんなはそうはいかない。

 ちょっとした速さで移動できる、電車のような乗り物があったら便利だと思ったのだ。

「シェリル姉様、ちゃんと乗った?」」

「うん。ああ、緊張してきた……!」

 とりあえずは、クレイマスター邸から発車して、南門の手前まで、石で作ったレールを引いて、その上を走るように作ってみた。

 レールは地面から少し高くして、モノレールのようにしてある。交通ルールが前世とぜんぜん違うから、事故を起こさないように、地面の道とは干渉しないようにしたのだ。

 今日はこの乗り物を、本格的な風魔法の結晶をセットして走らせてみる、お披露目の日だ。

 みい、と一声鳴いたソルトがひらりとやってきて、隣で腰を低くする。

その後ろには、シェリル姉様を心配そうに見つめるヒートもいる。

 どうやら、一緒に走ってくれるらしい。

 ぴんと尻尾が立っているから、新しい遊びだと思っているのかもしれないけど。

 ちゃんと完成したら、クレイマスター邸の前にホームを作りたいけど、今のところは、二階からどーんと発車する形だ。

 ざっと見渡すと、屋敷の外にはなんだか人だかりができていた。高さはあるし見慣れないし、目立つのは目立つよね。

「ここに突風を起こす風魔法の結晶をセットして……念のためエアバッグ的な風のクッションがわたしたちの前にできるように、別の結晶をこっちにこう」

「クリス、エアバッグってなあに?」

「あはははははは、風の袋みたいな感じ?」

 危ない。この世界にエアバッグっていう単語はなかったんだっけ。

「それじゃあいくよ……!」

 サクサクっとごまかしてから、後ろに設置した魔法結晶に手をかざす。

 いってらっしゃいませ、とソニアが頭を下げるのを横目に見たか見ないかのところで、一気に身体が後ろに持っていかれる。

 前世で子供のころに乗った記憶のあるジェットコースターも真っ青の、ものすごい加速だ。

 これはもしかして、発車というより発射なのでは?

「あはははは、止まらない!」

「やばーい! クリス、どうしよう!」

「レールから外れそう! ヒート、左側にいるからね!」

「おっけー!」

 耳に残る鈍い音を立てて、車体が宙に投げ出される。

 わたしとシェリル姉様は、オープンカーのような車体から飛び出して、すぐさまソルトとヒートの背に乗った。とってもふかふかでもふもふだ。

「車体回収……っと!」

 どこかに落ちてしまう前に、土魔法で絡めとってから、結晶化を解除する。

 わたしたちふたりが楽々乗れるくらいの車体が、砂に戻ってさらりと風に消えていく。

 集まってくれたみんなに手を振って、「ごめん、失敗しちゃった!」と叫ぶ。

 レール沿いに、南門のところまで人だかりは続いていて、ちょっとしたお祭りみたいになっていた。というか実際、屋台のようなものまで出ているじゃないか。

 わたしたちが手を振って応えると、歓声と拍手が巻き起こる。

「一瞬びっくりしたが、さすがはクレイマスター家のお嬢様たちだ!」

「精霊様の背に乗って空を駆けるお姿、なんて素敵なの!」

「見たかい、あの鮮やかな魔法!」

 流れていく色々な言葉を聞きながら、ソルトの頭を撫でる。

「助けてくれてありがと」

 ソルトは、ごろごろと喉を鳴らして応えてくれた。

 どこまでも青くて、吸い込まれてしまいそうな空だ。

 自分でもわかる。

 わたしはきっと今、これでもかというくらいの笑顔になっているはずだ。

 まだまだやってみたいことも、行ってみたい場所もたくさんある。

 きっとこの世界で、みんなと一緒なら、全部叶えられる。

 そんな確信を胸に、わたしはソルトの背中の上で、うんと大きく伸びをした。


 了


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