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6-2-2.

 わたしが一番に飛び込んだのは、ちょっとした意地のようなものだった。

 あれだけの啖呵を切ったからには、まずわたしが動かなくてはと思ったのだ。

 飛び込んだ闇の中は、頭の中がぐるぐると回る不思議な感覚だった。

 少し気持ち悪くなってきた頃に、ふわりと身体が浮き上がる感覚があって、わたしはぽんと闇から飛び出した。

「クリスお嬢様!? いったいどこから……?」

「あ、執事さんただいま! ちょっと急ぐからまた後でね!」

 どうやら飛び出したのは、クレイマスター邸の玄関先だ。

 居合わせた執事さんにざっくりした挨拶を投げて、わたしは自分の部屋に走っていく。

 エル兄様とシェリル姉様も次々に飛び出して、わたしと同じように自室へと走っていく。

「よし、これがあれば……きゃあ!?」

 自分専用のエンチャント装備を手に取ったところ、で大きな衝撃があった。

慌てて、自分専用のエンチャント装備であるロッドを支えにして、踏ん張った。

 窓から外を覗くと、城塞都市の南門がこじ開けられて、そこからわらわらと鎧に身を包んだ兵士たちが入ってくるところだった。

 わたしは大急ぎで、部屋を出て走る。

「こんなぎりぎりのタイミング!? ダークナイトおじさん、話長すぎだよ!」

「それは悪かったな」

「わあ、聞かれてた!? どうしてここにいるの!?」

「お前さんたちだけ送り込んで、俺は来ないとでも思ったか?」

「ごめんなさい、そう思ってた……」

「ふん。精霊も含めて全員、下に集まっている。行くぞ」

 玄関に戻ると、エル兄様とシェリル姉様、ソニアたちに加えて、エアさんやソルトたちも集まっていた。ヘヴィーレインさんも来てくれている。

「いきなり部外者の俺が話すのもなんだろ。どうぞ、クリスティーナ・クレイマスター殿?」

「これだけの人数を立て続けに転移させたんですもの。魔力切れ寸前で、立っているのが精いっぱいだと素直におっしゃってはいかがかしら? 正直に告白できたら、ご褒美に私が膝枕で介抱してさしあげてもよろしくてよ?」

「……そんな晒し者は勘弁願いたいな」

「あら残念、照れ屋さんですこと」

 ふたりのかけ合いを眺めていたい気持ちはあるものの、今は本当に時間がない。

 ここに風の軍勢がやってきているなら、神樹の森にも火の軍勢が到達しているだろう。

 わたしは、ざっと現在の状況をエアさんたちに伝えた。

 嫌な予感がしていたとはいえ、エアさんたちも、信じられない気持ちに違いない。

 これまでにない怒りを、エアさんからも、ソルトたちからも感じる。

「わたしとソニア、エアさん、ソルトは一緒に急いで神樹の森へ。できれば、ヘヴィーレインさんも来てほしいかな」

「あら、私をご指名くださるの? ダークナイトおじさまの方がおもしろくってよ?」

「ダークナイトさんは、すぐ動けないんでしょ? だからここで休んでてね」

 ぐ、と何か言いたそうにしたものの、ダークナイトさんは結局何も言わなかった。

 ヘヴィーレインさんが言った通り、転移魔法はかなりの力を消費するらしい。

 転移してきてから、明らかにダークナイトさんの顔色が悪い。

「エル兄様、シェリル姉様とスノー、ヒートはこの町を守ってほしいの。スノーとヒートは神樹の方に行きたいかもしれないけど……お願いできる?」

 スノーはエル兄様に懐いているし、ヒートはよくシェリル姉様にひっついている。

 相性がよさそうだからこの組み合わせにしたのと、ヒートはレイジングフレアの外法から逃げてきた経緯もある。再びそれと対峙させるのは、酷だと思った。

「わたしたちに、どこまでできるかはわからない。でも、このタイミングでわたしたちが戻ってきていることは、さすがに向こうも知らないはず。ここで食い止めて戻れば、レイジングフレアとハリケーンの横暴と不正をたたきつけられる! クレイマスターと神樹を守りたいの。みんなお願い、力を貸して!」

「やってやりましょう! クリスお嬢様!」

「僕たちのクレイマスターで、好きにはさせない!」

「怖いけど、頑張るよ。ヒーちゃん、私に力を貸してね……!」

 ソニア、エル兄様、シェリル姉様がそれぞれ応えてくれる。屋敷に残っていた執事やメイドのみんなも、歓声をあげた。

 言いがかりでしかないおかしな話で、大事なものを奪わせたりなんて、させてたまるものですか。わたしは、自分の腕につけた腕輪と、手にしたエンチャント装備のロッドをギュッと握りしめた。


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