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4-1-1.

「クリス、五歳の誕生日おめでとう!」

「みんな、ありがとう!」

 屋敷の玄関を補修したあの日から、あっという間に半年が経って、わたしは五歳になった。

 笑顔と歓声、拍手に包まれて、なんだか緊張しながらお礼を言う。

 クレイマスター邸の庭には、お父様、お母さま、エル兄様、シェリル姉様はもちろん、ソニアをはじめ、屋敷で働いてくれているみんなが勢ぞろいしていた。

 こんなに大勢にお祝いしてもらうのは、前世を通しても初めての経験だ。

 嬉しいやら照れくさいやらで、視線をどこに向ければいいかわからない。

 顔が熱いのが自分でもわかるから、きっと真っ赤になっているに違いない。

 ひとしきりお祝いの言葉をかけてもらってから、庭でそのまま、いつもより豪華なランチをみんなで食べた。

 いつかのパーティーほどとはいかないけど、色々な料理を並べて好きに取り分けるビュッフェ形式の立食パーティーだ。

 わたしがどうしてもとわがままを言って、いつもは別々に食べているソニアたちも一緒だ。

「私たちからのプレゼントは、注文していた杖だ。どうにか間に合ってくれてよかったよ」

 お父様とお母様から手渡されたのは、木箱に入ったシンプルなデザインの杖だ。

 わたしはここまで、借り物の杖で魔法の勉強も屋敷の補修もやってきた。

 杖は魔法式を描く時の補助的な役割なので、個人的にはそれでもいいと思っていたし、不自由もしていないつもりだった。

 でもそれは、三カ月くらい前に専門のお店に行って、間違いだったとわかった。

 基本的な魔法を色んな材質で試して、一番しっくりくるものを選ばせてもらったのだけど、材質によって魔力の操作感が全然違って、すごくおもしろかった。

「僕たちからはこれ、ノートが入るサイズの鞄だよ」

「わ、かわいい! エル兄様、シェリル姉様もありがとう!」

 わたしは、ソニアと一緒に出かけた先でも、ノートを開いてあれこれとメモするようになっていた。持っている鞄は小さなポシェットだけだったから、エル兄様とシェリル姉様は、ノートを抱えて走り回るわたしの姿を見て気にしてくれていたんだね。

 領内のあちこちを駆け回っていたのは、他でもない。

 みんなが改良版の魔法式を覚えてくれている間に、次にどこを優先的に補修していくべきか、他にできることがないかを考えるためだった。

 簡単な補修ならわたしがやってしまえば早いと思っていたけど、屋敷の外での改良版魔法は、お父様から禁止されている。

 半年前に、お父様が王都でこの魔法のことを報告してからというもの、色んな人がクレイマスターにやってくるようになったからだ。

 最初にやってきたのは闇のダークナイト公爵と水のヘヴィーレイン公爵率いる使節団だ。

 特にダークナイト公爵は、ことあるごとにわたしに鋭い質問をぶつけてきて、ひやひやする場面も多かった。

 二十八歳の前世モードで回答できなくはなかったけど、それをしてしまうと、それこそ怪しすぎる。愛想笑いでやりすごしている内に、気付いてくれたお母様がかばってくれた。

 王都公認の使節団以降も、城塞都市全体が前より明らかに賑わうようになって、中にはちょっと怖い目つきの人も見かけるようになった。

 何かあってはいけないからということで、シェリル姉様とわたしは信用のおける人の前以外では、魔法を使ってはいけないルールができたというわけ。

 ちなみにノートに改良版魔法式を書くのは、外でも禁止されていない。

 理由は簡単、わたしが描く改良版魔法式は、他のみんなには落書きにしか見えないからだ。

 何を描いているかはよくわからんけど、小さな子供が頑張ってお絵描きしているな、としか認識されない。嬉しいような悲しいような、ちょっと複雑な気持ちだ。

 とにかく、みんなが基本的な魔法を覚えてくれてからは、城塞都市全体も屋敷も、見違えるほど綺麗になった。

 新しい魔法の公表と、城塞都市やクレイマスター邸の整備を受けて、クレイマスターに対する世間の評判は少しずつ変わりつつある。すべてが順風満帆ではないものの、きっと少しは、わたしもみんなの役に立っているよね。

「クリスお嬢様、私たち一同からはこちらを……ですが、本当によろしいのでしょうか?」

 おそるおそるの様子で、ソニアをはじめ屋敷で働くみんなが、いくつかの本を差し出す。

「ソニア、これは……ゴシップ誌に冒険者の手記、こっちは商人の旅行記かな? 子供の読むものではないだろう!?」

 お父様が横から覗き込んで、苦い顔をする。

「お父様、これはわたしがお願いして集めてもらったの。クレイマスターが外からどう見られているか、書かれている読み物がほしいって」

 クレイマスターにやってくる人が増えて、実際に城塞都市や屋敷を目にした人は、噂は本当だったと驚いてくれる。

 しかし、他の領地や王都の評判までは、ここには入ってこない。

 自分の魔法がどれくらい特別なのか、気を付けて使わなければならないのかを再確認したかったし、どれくらいみんなの役に立てているか、第三者の意見を聞きたかった。

「魔法のお勉強だけじゃなく、幅広くお勉強したいの。だって、五歳になったんだから!」

「しかしだな……五歳で読むには少し早すぎるんじゃないか?」

「公爵家の一員として、早くから世間を知ることも必要だと思うの」

「どこでそんな難しい言い回しを覚えてきたんだ……ううむ」

「魔法のお勉強も応援してくれたし、頑張りたい気持ちを大事にしてくれるお父様、大好き」

「そ、そうかい? うん、頑張っているクリスは父さんも大好きだよ! はっはっは!」

「わあ、ありがとう! お母様も心配しないで、ソニアたちが選んでくれたものだけにするし、変なものを読みたいわけじゃないの」

 自分でやっておいてなんだけど、お父様が甘すぎて心配になる。

 反対に、その様子をとても冷静な笑顔で眺めていたお母様には、改めて説明をしておくことにする。ここで禁止にされちゃったら、頑張って集めてくれたソニアたちにも悪いからね。

「わ、ソルト! ソルトもお祝いしてくれるの?」

 自分用のごはんをすっかり食べ終えたらしいソルトが、肩にひょいと乗って甘えてくれる。

 傷が癒えるまでの期間限定のつもりだったこの子も、今ではすっかり家族の一員だ。

 もちろん、本当の家族探しをさぼったわけじゃない。ソルトを見つけた枯れた森やその周辺には、何度も足を運んできた。

 しかし、ソルトに似た獣の姿はもちろん、それらしい獣が生活しているであろう痕跡すら、どうしても見つけられなかったのだ。

 元敏腕冒険者のソニアが、「ここを縄張りにしている獣はいませんね」とギブアップするくらいだ。多分、間違いないと思う。

 どうしてあんなところに、ソルトがひとりきりでいたのかはわからず仕舞いになってしまったけど、確かめようがないのだから仕方ない。

 そういうわけでわたしは、きちんと世話をする約束で、ソルトと一緒に暮らせることになったのだ。

「今日は本当にありがとう! 忙しいのに時間を作ってくれて、すごく嬉しかった!」

 そうしてわたしは、これまでの人生で一番の誕生日を、最高に幸せな気持ちで過ごすことができた。


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