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3-1-2.

「よし、次は壁の紋章だね。まずは一回綺麗にしちゃおっと」

 ひび割れて欠けた紋章を、例によって結晶化解除でさらっと平らにした。

「うええ!? く、クレイマスターの紋章が!?」

「ごめん、びっくりさせちゃった? すぐ作り直すから心配しないでね」

 ソニアに謝ってから、紋章作成の魔法を発動する。

 目標は、わたしが記憶を取り戻したパーティーでお父様とエル兄様が作ってみせた、あの完成度だ。

「てええい!」

 空中に荘厳な紋章を作り出し、接着モードの結晶化スキルで、ぱあんと壁に貼り付ける。

「ね、大丈夫だったでしょ?」

「本当ですね、クリスお嬢様は大丈夫でした。ところで、私は大丈夫ですか? ちゃんとまっすぐ立っていますかね?」

「え、大丈夫だと思うけど……本当に体調悪いとかじゃないんだよね?」

 ぽかんと口を開けたまま壁を見つめるソニアは、やっぱり少し変だ。

 体調が悪いのを押して、わたしに付き合ってくれているのかな。

 ソニアのためにも、なるべく早く終わらせられるように頑張らなくちゃ。

「よおし。スピード上げてこ!」 

 マットな質感を心がけた床とは違って、紋章は完璧に、キラキラのつやが出るようにしたい。ギュギュッと結晶化の力を集めて、紋章を磨きあげていく。

「紋章はこんなところかな。次はノートの出番だよ、今日のために考えてきたんだ」

 置いておいたノートを開く。

 前世からの趣味、ジェルネイルのデザインを参考にして、紋章の周りに流線形の模様をあしらってみたラフ絵だ。

 元々の荘厳な雰囲気はそのままに、現代日本風のデザインを加えて、斬新な形にしたい。

わたしはデザイナーではないから、受け入れてもらえるかどうかは出たとこ勝負だ。

 それでも、せっかくなら、前世ではなんとなく周りに流されてできなかった、本当にわたしがやりたかった形に挑戦したい。

 紋章を囲む流線形の模様はマットな仕上がりにして、紋章が際立つ質感になるよう気をつけた。荘厳な紋章から力が溢れるように、それでいて落ち着いた雰囲気を崩さないように、わたしが今もっているすべての力を注ぎ込む。

「……できた!」

 もうすっかり日が高い。何度も描きなおしたし、いくつかのデザインを試したので、思ったより時間がかかってしまった。

 屋敷にまったく人がいないわけではないのに、場はしんと静まり返っていた。

 自分の鼓動と、肩に乗るソルトの温かさだけが、静かな興奮を伝えてくる。

 キラキラに輝く紋章と、それを彩る模様。ほどよい光沢の石床。

 玄関に飾られた彫刻はまだそのままだけど、ここまではいい感じに仕上がったと思う。

 みい、とソルトが一声鳴いて、わたしはハッとする。

 背後に、いくつも気配があることに気付いて振り向いた。

「みんな……!」

 そこにはソニアだけではなく、屋敷に残っていた執事やメイドたちが、固唾をのんでわたしの魔法を見守ってくれていた。

「お見事です、本当に」

「素晴らしいデザインですわ」

「クリスお嬢様に、このようなお力が……!」

 ゆっくりと、時間が動き出したかのように、みんなが口々に感嘆の声をあげてくれる。

「ありがとう。大丈夫かな、変じゃない?」

「とんでもございません! このソニア、膝から崩れ落ちそうなほどの感動を覚えております……!」

「ソニアは大袈裟なんだから」

 号泣しているソニアは、専属メイド補正がものすごくかかっていそうだけど、少しだけホッとした。

 少なくとも、この場にいるみんなは、新しい玄関を気に入ってくれたみたいだ。

「よおし、じゃあ残りの彫刻も……」

「さすがに少し、休憩なさってください!」

「まだ大丈夫! 今日中に玄関を全部綺麗にしたいんだ」

「皆様がお帰りの際に、クリスお嬢様が倒れでもされていたら、私たちは全員怒られてしまいます」

「そっか……そうだね、ごめん」

 集中すると周りが見えなくなってしまうのは、悪い癖だ。

 魔法の勉強を始めた時も、部屋にこもりすぎて心配させてしまったものね。

 みんなに促されてお昼休憩をはさんでから、わたしは残りの彫刻の欠けた部分も修復した。

 彫刻は、同じものを作り直す自信がなかったので、欠けたところやヒビの入ったところを、なるべく同じ質感になるように補強して、全体的に軽く磨いておいた。

 ついでに、玄関を出たところの石床や、そこから続く外の階段も、玄関内の石床と同じ要領で綺麗にする。


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