第十六話。
セイレーンの魅了の歌に引き寄せられ、湖に墜ちるように着水した、三段飛行空母、”朧月。
普通の船のように水に浮かんでいる。
艦の後部下層だ。
「艦に異常がないか調べてくれ、ニール機関長」
カイラギは、背の低い男性に声を掛けた。
がっしりとした体形であごにひげをたくわえている。
ドワーフだ。
「分かった艦長、まあ、丈夫な艦だ、問題ないだろう」
シタデル構造を持つ頑丈な船だ。
ちなみに、”シタデル構造”とは、艦の大事なもの、(例えば、”ヘリウムガス発生装置”や、”術式モーターの集中制御用の術式陣”など)を一カ所にあつめ、分厚い装甲で囲う構造のことを言う。
艦の点検整備のためにしばらく湖にとどまることになった。
「頼んだよ」
カイラギは外部通路に出た。
キイ、キイ
ポチャン、ポチャン
遠くにある小島に座っていたセイレーンが、声を出しながら慌てて水の中に逃げる。
セイレーンは、アルテやリリスの魔力を感じて近づいてこないようだ。
「泳ぐ気にはなれないなあ……」
きれいな湖だ。
時々5メトル近い怪魚が泳いでいたりする。
釣り好きの隊員が釣りがしたいと言ってきたが、セイレーンが釣れたら困るので禁止しておいた。
「そうだ、艦長」
外部通路でいるとニール機関長に声を掛けられた。
「しばらくしたら艦を浮かべてくれ」
「?」
「メインローターを調べたい」
そのまま後ろをふりかえった。
艦の尾部、船で言うとスクリューが出ている所から、主推進用のプロペラが出ているのが見えた。
左右二本のシャフトにそれぞれ前後二つのプロペラ。
湖面にプロペラの半分が出ているのが見える。
「プロペラの羽が湖面に叩かれて歪んでるかもしれん」
ラフな着水をしたのだ。
「うん、わかった」
返事をした後、艦橋に向かった。
しばらくした後、整備長から連絡があったので、
「ヘリウムガス充填、艦を浮上させろ」
ザバア
艦を空に浮かべた。
何枚かのプロペラの羽が歪んでいる。
オーラ―イ、オーラーイ
歪んだ羽を、収納式のクレーンで取り外し第一甲板にあげる。
叩いて直せるものは直し、無理なものは新しいものに変えた。
◆
ひと段落したら、アルテ王女とリリスさんに声を掛けられた。
「魔力の耐性が無さ過ぎます」
「そうですね~、セイレーンの魅了に掛かるのは、小さな子供かお年寄りくらいですからね~」
人族の魔力耐性がである。
魔力は世界を侵す力。
人族が魔力に触れると興奮したり、ハイになる。
”魔薬”の効果でもある。
また、人族が魔法を使うと、瞳孔がヤギになったり下半身が蛇になったりするのだ。
魔法の秘密結社の女幹部は下半身が蛇だそうである。
「……というわけで、この船を私の巣にしてもよろしいか」
リリスが言う。
上位サキュバスの巣、縄張りともいう。
”愛の巣”だ。
「魔法から守れますよ~、特に幻惑系は~」
サキュバスは淫乱な夢を見させる淫魔だ。
精神系の魔法が得意な種族である。
「ファイヤーボールとかは無理ですけど~」
「……わかりました、お願いします」
カイラギが頭を下げた。
「うふふ」
リリスがあやしく笑った
リリスは違うが、サキュバスの、”愛の巣”は男女関係なく精力を吸い上げる逆ハーレムだ、ということをカイラギは知らない。
サキュバスの、”愛の巣”と化した船を見て、良識ある魔族に眉をひそめられるのはまた別の話である。
「開本、終わりのない物語」
伝説級の魔導書である、”終わりのない物語”は、無限のページの特性を持つ。
リリスが白紙のページを開く。
ビリッ
無造作に本のページを破った。
スッ
という感じでページが再生した。
事実上、無限の魔法を書き込むことが可能である。
破いたページに、”リリスの所有紋(サクラギの首にあるものと同じ)”を描き込み、艦橋の壁に貼った。
これを全艦に施す。
飛行艦、”朧月はリリスの、”愛の巣”になった。
「念のためですよ~」
さらに子供やお年寄り用の簡単な魔除けの護符を作り、隊員全員に配った。
当面の魔力の対策は整ったのである。




