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金欠冒険者と用心棒  作者: ビーデシオン
第一話 流れ着いた男の子
5/57

5 親切な魔女


 魔女。俺の頭に、咄嗟に浮かんでしまった言葉。

 森に住み、床ほどまである白髪を伸ばし、長杖で大釜をかき混ぜ、魔法を使って、怪しげな薬を調合する魔女。


「魔女……?そう見えますか?」


 目の前の女性は、肩の少し下ほどまでではあるが、銀の髪を伸ばしている。

 その上、大釜をかき混ぜられるほど長くはなさそうだが、木の杖も持っていた。

 魔女を連想するのに十分な容姿ではあるし、実際に魔法も使った。

 これで謎の薬でも持っていれば確定と言ってもいいかもしれない。


 とは思うものの、はっきり言って思い違いというものだろう。

 俺の記憶にある魔女は、平気で人を食べたりするというモノだったが、彼女が俺を食おうと言うなら、意識が無い間に済ませているはずだ。

 それに、悪人ならば、わざわざ俺を助ける意味も無い。

 かなりの確率で、俺は失礼な勘違いをしたと言える。


「いや、変なことを言った。その……ごめんなさい」


 俺は座り直して女性に謝ろうとしたが、謝罪の言葉で少し詰まってしまった。

 それでも気持ちが伝わればいいのだが。


「いえいえ、大丈夫ですよ。それにしても……魔女ですか……」


 女性は、許してくれたようだ。

 ……いや、むしろどちらかと言えば、嬉しそう……なのか?


「あっ、すいません。食器がないと食べられないですよね。待ってて下さい。今出します」


 女性がこちらに歩き出し、俺の後ろで止まって、そこにあるかばんから木製のお椀と少し大きめのスプーンを取り出す。

 その後、鍋を挟んで俺の前に座ると、スープと具材をお椀によそい、そのままスプーンもお椀に載せて、俺の前に置いた。

 俺の空腹も限界のようで、スープを見ただけで腹が鳴ってしまう。


「食べてもいいのか?」

「いえ、ちょっと待ってください。最後の仕上げに……」


 女性は、そう言って太ももに付けたポーチに手をかける。

 そこから布袋を取り出すと、お椀を手に持って……

 突然、謎の粉末を振りかけた。


「ッ!?」

「どうぞ」


 女性はお椀をスプーンでかきまぜた後、そのまま笑顔で手渡してくる。

 だがしかし、お椀に振りかけられた粉末ははっきり言って……怪しげな薬そのものだ。


 本当に彼女を信用していいのだろうか?

 本当に魔女ではないのだろうか?

 そもそも魔法を使う女性なのだから、魔女には間違いないのでは?


 様々な考えが頭を過ぎるが、その度に頭が痛む。

 脳を働かせるためにも、食べ物は必要だ。

 今逃げ出したとして、この霧の中で、運良く食料にありつけるとも思えない。

 それに、はっきり言ってもう空腹は限界だ。

 このまま何も口にしなければ、待っているのは飢え死にだろう。


 ……俺は覚悟を決めてお椀を持ち上げる。

 そのままお椀を口の前に持っていき、黒いパンのようなものと、謎の粉末のかかったスープを口に運ぶ。

 黒いパンは思ったよりも歯応えがあり、飲み込むまでに少し時間がかかったが、その間に、粉末のかかったスープの味が、俺の口の中に広がっていった。


「旨い……」


 パンを咀嚼しきり、飲み込んだ瞬間、俺は率直な感想を声に出す。

 スープを口に入れると少しの辛さと共に、旨味を感じた。

 足りなかった何かが満たされる感覚。

 これこそ俺の身体が必要としていたものなのだと、確信できる。


 極度の空腹状態だったとは言え、ここまで美味しく感じるものなのか。

 いや、ただ干し肉や野草を入れただけのスープで、こんな味を出せるわけがない。

 俺がかなりの空腹状態で、疲労していたこともあるだろうが、それ以外に心当たりがあるとすれば……


「えへへ、そう言ってもらえて何よりです。自分で調合したものなので、ちょっと不安だったんですけど、ちゃんとおいしくできたみたいで」


 調合、彼女は確かにそう言った。


「この粉に何かあるのか?」

「ええ、元々は獣除けの粉薬なんですけど、含まれる成分が人によってはピリ辛で美味しく感じるみたいで……私はちょっと苦手なんですけどね。他に味付けも無かったので、気に入ってもらえたなら何よりです」


 やはり秘密はこの粉にあったようだ。

 少しの辛みが感覚を刺激し、心なしか、意識がはっきりとしてきた気がする。

 もしかすると、気付けの作用もあるのかもしれない。


 どちらにせよ、一つわかったことがある。

 放っておくこともできた俺を助け、暖かいスープを与えてくれた。

 魔法を使ったり、薬を調合したりもできるようだが、彼女は俺の記憶にあるような、恐ろしい魔女ではない。


「親切な……魔女なんだな」

「私は……ただの冒険者ですよ。えへへ……」


 やはり彼女は嬉しそうだ。

 ひょっとすると、俺とは魔女という言葉の認識が違うのかもしれない。


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