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金欠冒険者と用心棒  作者: ビーデシオン
第一話 流れ着いた男の子
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4 野草とパンと干し肉のスープ


 パチパチと何かが鳴る音で目を覚ます。

 まず感じたのは、自分が何かの上に寝ているようだということ。

 背中に広がる柔らかさの下に、少し不安定な硬さを感じた。


「うっ……あぁ……」


 どうしようもないだるさに襲われながら身を起こす。

 目を開けると、ぼんやりとした視界の中に、白い何かが目に入った。


「目が覚めましたか」


 白い何かが俺に語り掛けてきた。

 言葉の意味は……理解できる。

 目の焦点を合わせ、よく見れば、それは人だとわかった。


 折れた倒木のようなものに腰かけているのは、茶色と灰色の混ざった帽子と、白い上着を身に付け、白い……というよりは、銀色の髪を伸ばした女性のようだ。

 身長は低めで、年齢はかなり若いように見える。

 俺がじっと見つめていると、彼女はこちらへ微笑んだ。


「いいでしょう? そのかばん。一緒に背負える布巻が、簡易的な寝床にもなるんです。あなたも冒険者なら、こういうかばんを持ち歩いて見るといいかもしれませんよ」


 銀髪で、青い目の女性が、優しい声でそう言う。

 振り向くと、先程まで俺が寝ていた場所には、布が敷かれていた。

 少し湿っている布の先には、袋のようなもの。

 おそらく、布をまとめれば、あの袋の上に乗り、背中に背負うことができるのだろう。


 だがしかし、先程女性は気になる事を言っていた。


「冒険者……?」


 俺が聞きなれない単語を口に出すと、女性はきょとんとした表情になった。

 すぐに微笑むような笑顔に戻ったが、その顔は少し申し訳無さげにも見える。


「あなたの装備、旅人にしてはしっかりしてたので、てっきり冒険者なのかなって思ったんです。違っていたならすいません」


 どうやら、冒険者と呼ばれたことに対して、俺が不満を表したように聞こえたらしい。

 結局疑問は解消されなかったが、これ自体はそこまで重要なことじゃない。

 今はそれよりも……頭が痛む。


「えっと、あの……ここはどこだ……? 俺は……どうしてここにいる?」


 2つ目は、俺がするべき質問ではなかったのかもしれない。

 女性は少し困ったような表情になってしまった。


「えーっと……ここはエイビルムの北東にある海岸です。私は依頼でここに来た冒険者で……小舟の上で気を失っていたあなたを見つけたので、荷車に乗せて運んでから、ここに寝かせました」


 今の話から察するに、エイビルムというのは場所の名前か何かで、冒険者というのは何かしらの役職なのだろうか。

 周囲を見渡すと、荷車というのも、俺の背後に見つかった。

 荷車には大量のガラクタが積まれているのが気になるが、それはそうと、船の上で気を失っていたということは……


「俺を……助けてくれたのか?」

「船から降ろして、火を起こしただけですけどね。上着もそろそろ乾いてるはずですよ」


 そうやって、女性が手で指した方を見る。

 焚き木の横には、三本の枝を組み合わせた物干しがあり、その物干しに、何かが掛けられているのも見えた。

 毛皮でできた上着のようなものと……灰色の帯のようなものが見える。

 彼女の言い方からして、あれは俺の物なのだろうか?


 ……ダメだ。さっきから何も思い出せない。

 思い出そうとしても痛みが頭を襲い、うやむやになってしまう。

 どうして何も思い出せないんだ?

 俺は何をしていたんだ?

 というか、そもそも俺は……?


「えっと……とりあえず、お腹空いてませんか?」


 頭痛と考えが纏まらない不快感でうずくまりそうになった瞬間、女性の声が頭に届いた。


『ぐうぅぅぅぅ』


 正確には、腹に届いたと言った方がよかったかもしれない。

 余程長い間意識を失っていたか、意識を失う前の俺は十分に食べていなかったのか。

 どちらにせよ、先程までは感覚が麻痺していて気付かなかったが、意識した瞬間、猛烈な空腹感が俺を襲った。


「やっぱり」


 音は女性にも聞こえてしまっていたようだ。

 女性は少し笑った後、立ち上がった。

 女性の右手には、先端にツノのようなものが付いた木製の杖。

 女性はその杖の先と、左の素手をたき火に向けて静止する。


「私に従い、動き出せ」


 一瞬、俺に向けられた言葉かと思ったが、すぐに違うとわかった。

 女性が何かつぶやき終えた途端、たき火の中から黒い塊が飛び出した。

 俺があっけにとられている間に、黒い塊はふわふわと浮遊しながら移動し、敷かれた布が途切れた先の、砂の上に着地する。


「そして休め。そして、動き出せ」


 女性がそう言い終えると、着地した黒い塊の上の、蓋のようなものが開いて浮きあがった。

 蓋はそのまま横にずれ、黒い塊の中身が露わになる。


 どうやらこの塊は、鍋のようなものだったらしい。

 湯気のたった無色のスープに、いくつかの具材が浮いている。

 緑の野草のようなものに、黒い干し肉のようなもの。

 同じく黒色の丸いものは、小さなパンかなにかだろうか?


「そして休め」


 蓋が鍋の縁に当たって落ち、金属音が鳴る。


「どうぞ食べて下さい。簡単なものですし、量も少ないですけど、暖かいですよ」


 やはり鍋の中身は食べ物で間違いないらしい。女性の言う通り、簡単な料理ではあるのだろうが、俺の食欲を刺激するには十分だ。

 だが、そんなことがどうでも良くなるほど、気になることがある。

 一体何が起こったんだ?

 何故この鍋はたき火から飛び出し、浮遊した?

 彼女は何者で、一体何をした?


 痛む頭では、なかなか適切な言葉が出て来ない。

 それでも一つだけ、思い付いた言葉を上げるなら……


「魔法……?」

「はい、そうですが……もしかして、魔法を見るのは初めてですか?」


 初めてかどうかはわからない。

 そういうものが存在するということは、覚えている。


 しかしそうなると……ますます大丈夫なのだろうか。

 俺は彼女がこのスープを作ったところを見ていない。

 それはつまり、何が入っているのかわからないということだ。

 もちろん、野草とパンと、干し肉のようなものが入っていることはわかるのだが……俺が想像したのはもっと別のもの。


「えっと、あなたは魔女……なのか?」

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