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第二十話 説明とお詫び

 ぼやけていた視界が瞬きの度に鮮明になっていき、目の前の風景が明らかになりました。

 高級感のあるローテーブルの奥に二つの一人掛けソファー。片方にはアーフルさんの姿があり、先程までとさして変わらない風景のはずであるのに、どこか違和感がありました。

 なぜならそれは、先程まで少し遠くの方で話していたはずのシャラさんが、空いていたはずの向かい側、もう一つのソファーに腰掛けており、その瞼を閉じてゆったりと眠るように脱力していたからでした。


 私がその姿を認めた直後に、彼女はカッと目を開いて叫びます。


「ハッ! ひょっとしてアタシ、寝ちゃってた?」

「相変わらず演技がヘタだな。事情はどうせ知ってるくせに」


 そんな声をかけたのは、私の座る場所から男の子を挟んでもう一つ隣。長ソファーの端に、いつのまにやら腰かけていたエンデさんでした。

 彼の言葉の差すところはわかりませんが、合わせてシャラさんが「バレたか」なんて言っているあたり、事情があることに間違いはないようです。


「んあ……? なんだ、めがかすんでる」


 私とエンデさんの間にいた、男の子も目を覚ましたようです。彼は脱力していた全身を伸ばすように身じろぎしつつ、その目をこすってこちらを見ました。「なにがおこってる?」なんて呟いてくれてはいますが、正直なところ私にも状況がわかりません。


「さてさて、全員お目覚めのようだね」

「アーフルさん、どういうことですか?」

「もう少しだけお待ちあれ。まだ演者が一人足りないだろう?」

「演者……?」


 どういうことですか、と尋ねそうになった私の耳に、バタバタと騒がしい音が響きます。どうやらそれは部屋の奥、丁度記先程は開きっぱなしになっていたはずの、扉の奥から響いているようですが……?


 なんて考えていたら――バァン!!

 と、とんでもない勢いで開いた扉。


「この詐欺クソマッドメガネ野郎! またやりやがったな!」


 聞いたことの無い声色で一瞬驚いてしまいましたが、間違いありません。マスターです。マスターがその額に青筋を浮かべながら、顔を真っ赤にして怒鳴り込んできたのです。

 彼はずいずいと勢いを止めずこちらへ歩んできた末に、アーフルさんの座るソファーの横までたどり着くと、丁度立ち上がったアーフルさんの胸倉を強く掴みます。


「おやおや、何をそんなに怒っているんだい?」

「とぼけるんじゃない。ここではむやみやたらに魔術を使わないと、以前約束しただろうが」

「もちろん。むやみやたらには使ってないよ。今回も三ヶ月ぶりくらいかな」

「だとしてもだ!」


 まだまだ状況は飲み込めませんが、どうやらマスターの言う通り、アーフルさんが何らかの魔術を使っていたことは確かであるようです。アーフルさんは胸倉を揺するマスターにも動じず、その顔に愉快そうな笑みを浮かべて、あくまで無抵抗を貫いています。


「カヤさん、一体何が起きてるんだ」

「わかりません。でも、待っていれば説明はしてくれそうですかね?」


 実際、そんな風にして目線を送って見たところ、アーフルさんと目が合いました。彼はマスターに掴みかかられたまま、ハンドサインをシャラさんに送ります。

 そうすると、シャラさんは「はいよー」と一つ頷き返した後に、私の方を向いて両手の人差し指でちょいちょいと、ローテーブルの上を指さしました。


「お二人さん、そちらにどこか違和感はないかな?」

「違和感、ですか?」


 そうやって私がテーブル上を確かめようとした瞬間に、隣で男の子が「あっ!」と驚いたような声を上げました。


「お菓子が減ってる。コップも、空っぽだ」

「ご名答」


 言われて確かに見てみれば、テーブル上に用意された三段の軽食は、そのほとんどを各々の取り皿に振り分けられていました。私や、男の子の取り皿には小さな食べかすのような物が残っているばかりで、紅茶が注がれていたはずのコップは微かに水気を残すのみとなっています。


「私たち、お菓子にはまだ、手を付けていなかったはずじゃ?」

「それも含めて説明しよう。シャラ、お願いできるかい?」

「アタシですか! ま、慣れてるんでいいですけどね」


 そう言ってシャラさんは一度奥の方へ引っ込むと、丁度先程エンデさんが紅茶を入れていた辺りから、一本のガラス瓶を持ち上げてこちらへ持って来てくれました。中には緑色の液体が注がれていました。気のせいでなければ、それにはどこか、見覚えがあるような?


「これね、何だと思う?」

「入り口でアーフルさんが持ってたフラスコだ」


 なるほど! と私が納得すると同時にシャラさんが「ご名答」と頷いて、フラスコの中にある緑色の液体を、クルクルとかき混ぜるように揺らしつつ、説明を続けてくれます。


「実は院長、結構珍しい魔術の使い手でね。ココの領主様公認の、夢を操る夢術師むじゅつしなのさ」

「夢術師? それって……幻覚を見せる、みたいな?」

「んー、ちょっと違うかな」


 全く聞いたことの無い魔術系統で、思わず質問をしてしまいましたが、私の理解とは少々違っていたようです。ほとんどおとぎ話のようにも思えますが、今までに起こったこと全てが幻覚だというのなら、納得感はあったのですが……。


「院長が操れるのはあくまで夢だけ。起きてる人にはなんにもできない。その代わり、一度相手が眠りに付けば、その後はどんなことでも自由自在でね?」

「例えば、近場で眠る全員の意識を繋げて、夢の中で一堂に会するようなこともできるし、本人らがそのことに気付かぬよう、眠る直前の記憶を、一時的に消し飛ばすことだってできる」


 いつの間にか、マスターの腕から解放されていたアーフルさんが「ありがとうシャラ。ここから先は私が」と言って、緑のガラス瓶を受け取っていますが……。

 勘違いでなければ、今この人とんでもないこと言いませんでしたか……?


「さてさて二人とも、院長の言葉を総合的に判断して、今回は何が起こったと思う?」


 シャラさんに言われて顔を見合わせる、私と隣の男の子。同時に部屋の中を見回して、不機嫌そうに頭を掻くマスターと、苦笑しながらこちらを見るエンデさんの姿を認めて。相変わらずの微笑み顔でこちらを注視し続けるアーフルさんと、心なしか楽しげに、返答を待っている様子のシャラへ向けて私たちは、もう一度頷き合って答えます。


「初対面でお菓子に薬を盛って……」

「俺たちに迷わず食べさせた、のか?」


 おずおずと答えた私たちへ向けて、目を細めてニッコリと笑うアーフルさん。

 彼はそのまま指を鳴らして、底なしに楽しげに言いました。


「いやあ本当にすまないね! でもおかげで君たちが底なしに純粋で、信頼できるとわかったよ!」


 瞬間、彼のすぐ隣にいたマスターが、とてつもない怒号を響かせたのは……まあ、当然のことだと思いました。


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