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第十五話 診療所からの贈り物

 ここは冒険者ギルドのすぐ隣。広間と違って内装まで、重厚感のある石造りで建てられた、報酬受け取り窓口のあるスペース。カウンター側と待合側を仕切る一枚の鉄板の中にある、会話用の小さな格子窓の前で。


「あなたが、今回の依頼を達成した冒険者さんですね」


 数多くの心配事を胸に抱えつつ、ひとまず報酬金の額を見てから考えようとした私たちへ、中にいるギルド職員さんらしき人がそんな風に声をかけてくれました。


 格子窓の中は薄暗く、中性的な声の主の姿は見えません。

 その代わりにカウンターのすぐ上の、報酬受け渡し用の横穴の中から、すっと何かがスライドするように、こちらへ向けて差し出されました。


「今回の依頼主様より、文書を預かっております」

「文書?」

「端的に言えば、手紙です。ご確認ください」


 言われた通り、私が手紙を受け取って封蝋を解こうとしたところで、また受け渡し窓の方から何かが出てきます。……その際、中にいるはずのギルド職員さんの手は、人差し指の一本さえも見えませんでした。

 なんだか不気味ですが、そういうこだわりでもあるんでしょうか?


 わかりませんが、なんにせよ私の前に姿を現したのは随分と平べったく、先にいくほどすぼんでいくような形の、小さな小さなナイフのようなものでした。

 鞘には繊細な金糸細工と、何かを挟んでおけるようなピンがついていて……なんというか、随分な高級品に見えます。


「これは……レターオープナーですか?」

「ええ。使い方はわかりますか?」

「一応は。えーっと……よいしょ」


 私が封筒の角に切っ先を差し込み、すっと横に滑らせてやると、驚くほどに抵抗なく、封筒のフチが開いていきます。


 一瞬、切れ味が良すぎるせいで中の手紙まで傷つけてしまうんじゃないかと思いましたが、全くの杞憂だったようです。

 中に入っていたのは一枚の羊皮紙。それも、予めこの封筒のサイズに合うように、カットされたような跡のある、長方形の手紙なのでした。


「拝啓。冒険者どの。今回の依頼の件について、少々お伺いしたいことがあり、筆を執らせて頂きました。つきましては、エイビルム冒険者区の大通りを、南へ行った突き当たりにある、我らが診療所を、お尋ね頂きたく存じます。お忙しいところ大変恐縮ではございますが、特別な紅茶とお茶菓子を用意してお待ちしておりますので、何卒宜しくお願い致します。敬具」


 そんな風に、紳士的でありながらもどこかお茶目な手紙からは、どこか薔薇にも近いような、魅力的な香りが漂っています。

 一瞬、そちらに意識を持っていかれそうになりましたが、私はすぐに集中を取り出し「我らが診療所」の場所にアタリをつけるため、差出人の名義を探しました。


「グルーマー診療所……所長、アーフル・グルーマー?」

「そのお方が今回の依頼主で間違いありませんよ、カヤさん」

「あ……はい」


 私の名前、知ってたんですね。なんて尋ねそうになってから、いつの間にやらカウンターの上に戻ってきていた、私の冒険者登録証に気が付きました。そういえば私は、依頼の報酬を受け取るにあたって、この登録証を見せているはずですから、考えてみれば当たり前のことではありました。


「要件はわかりましたけど……その」

「報酬は、対面にて自分の手で渡したい。とのことです」

「え、ええ……?」


 どうしてわざわざそんなことを。私たちの仕事ぶりに、どこか不満でもあったのでしょうか。それともひょっとして、急な事情が入ってしまって、報酬をお支払いできなくなってしまった、とか言われたり……。


「どうかご心配なさらないでください。あの方は、間違いなくあなたの仕事ぶりを認めてくれているはずですし……何より、万が一、報酬が支払われなくなってしまったとしても、最低限、こちらで預かっている契約金はお支払い致します」

「そうですか……?」

「もちろん。それに……追加と言うわけではありませんが」


 カウンターの中から響く中性的な声の主は、どこか改まったような様子で咳払いを一つした後に、また何かをカウンターの中から差し出してから言いました。


「そのレターオープナーは、彼からあなたへの贈り物です。こちらはその保証書」

「え、ええ!?」


 驚いた勢いで眼を剥ければ、これまた小さな長方形をした厚紙の中に、誰かの署名らしき文字が。手元の手紙と見比べてみれば、確かに内容も、筆跡も同じ「アーフル・グルーマー」のサイン。


「どうしてわざわざこんなものを……?」

「さあ? 私にはわかりかねます」

「ですよね……」


 そりゃあ、ギルドの職員さんが、全てを把握できていたら怖いですけど。

 取りあえず、貰えるものは貰いますが……正直ちょっと不気味です。


「そうご心配なさらずに、彼は決して、悪いお方ではありません」

「そうなんですか?」

「……おっと、口が滑りました。守秘義務がありますので、お忘れください」


 そんなことを言われても、聞いてしまったものは仕方が無いのですが。なんて私が考えながら、どこか批判的な眼差しを向けていたせいでしょうか。

 カウンターの向こう側にいるはずのギルド職員さんは「それでは、またのご利用をお待ちしております」なんて言いつつ、もろもろの品々を受け渡すための小窓を、ぴしゃりと閉めてしまいました。


「もう、なにがなんだか……」


 正直、今日だけで随分な量のイベントをこなしてしまっているせいか、ちょっとだけ頭が痛くなってきてしまいました。

 とりあえず、さっき返してもらった冒険者証と同じ、ギャンベゾンの中の縫い目の中に、先ほどの保証書と、レターオープナーの鞘に付いたピンを挟み込みます。


「いろいろと、終わったのだろうか」


 そうして私が振り向けば、待合室の中に四つ並んだ長ベンチから、その腰を上げた男の子が、私の方へ向かい合います。


「終わりはしましたが……正直、また用事が増えちゃいましたね」

「どんな用事だ?」

「今回の依頼主さんが、会いに来てほしいらしくって……」


 私がそう言って苦笑いを浮かべたら、男の子は目を丸くしつつもポンと手を打って「なるほど、それは好都合だな」と呟くように言いました。


「どういうことですか?」

「依頼主のところへ行けば、俺の剣も取り戻せるかも」

「……ああ!」


 そういえば、その通りかもしれません!

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