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第十一話 かわいそうなヤツ

 ひゅうひゅうと音を立てて吹く木枯らしの中で、それでも確固として佇み続ける冒険者ギルドに向かい合い、心中に微かな望みを抱きつつ両開きの扉を叩きます。


 二階の窓にもはや明かりはついていませんが、もしかしたら、だれか一人だけでも起きていてくれているのではないかと、胸の前に手を組んで祈ります。


 それでも確かに耳をすませば、中からゆっくりと足音が近づいてきてくれて、思わず微かに息を呑んだ私の元へ訪れたその人が、ガチャりと冒険者ギルドの扉を開いてくれました。


「はあ……こんな時間になんの用だ、金欠冒険者」

「マスター……!」


 向かいあった途端、ため息を吐くように大きなあくびをして、それでも確かに私を呼んでくれた彼が、見知った顔であることに気付きました。もしかして、こんな時間までお仕事をこなしていたのでしょうか、あるいは寝ていたのかもしれませんが、なんにせよこれはとてつもない幸運だと言えます。


「依頼の報告なら別窓口だぞ」

「いえ、それはもう済ましていて……」

「……だったらなおさら何の用だ。あと、後ろのソイツは誰だ」

「えっと……その……」


 言われて目をやれば、ここまで一緒についてきてくれていた例の男の子が、眠たげな眼でうつろうつろと、立ったまま船を漕いでいるのがわかりました。流石に言及されたところでハッと顔を上げてくれましたが、彼ももう相当、限界が近いようです。


「えと、俺は……なんといえばいいんだ?」

「彼は今日、私を助けてくれた人なんです」

「そうか。それはよかったな」

「はい」

「…………」


 そうやって簡単なやりとりを終えたら、また沈黙。結局、今の状況をなんと説明したらいいのかと、頭の中で思考を巡らせていたら「はぁああ……」と、とんでもなく大きなため息が聞こえてきました。それにつられて顔を上げてみればマスターが片手で目元を覆い隠すように、頭を抱えているのが見えました。


「まあ、大体察しはついてるが、本当にお前は病気だな」

「びょ、病気……!?」

「どうせお前あれだろ? そっちのもじゃもじゃに恩があるから~とかなんとか言って、宿を探してやろうとしたんだろ?」

「もじゃ……いやいや、それはちょっと……違うというか」

「何が違うんだ、言ってみろ」

「えーっと……」


 本当にどう説明すればいいものかと、頭の帽子をわしゃわしゃしていたら、頭を抱える私の横に沿うように男の子が並んで来てくれます。


「俺から言っても、いいだろうか」

「……お願いします」

「任せてくれ」


 結局私は情けなく、男の子に現状について話してもらうことになってしまいます。彼も海岸に流れ着いてから、相当疲れているはずなのに……。

 ありがたくはありますが、大変なことを任せてしまったような気がしています。


「簡単に言えば、俺とこの方は、依頼? を……一緒にこなしたんだが」

「ああ、それで報告したんだろ」

「その通り。だけど、ここに来るのが遅すぎたせいで、少しだけ厄介なことになってしまったんだ。なんでも、空いている宿がない? んだったか?」

「え、ええ……その通りです」


 なんでしょう。彼に説明を任せていると、首筋に冷や汗が伝う様な感覚に襲われてきてしまいました。いや、間違ったことは言ってないんですけどね? 実際私はそう説明したはずですし、彼は何一つ間違ったことは言ってないんですけどね?


「おい、金欠冒険者」

「……はい、なんでしょう」

「見栄を張るのも大概にしろ。この辺りの冒険者向けの宿は夜遅くまで空いているはずだし、空きが無いってことも基本ないはずだよな」

「っ……そ、う、ですね」


 まずいです。この淡々とした口ぶりに、細められた眼差しからして、マスターにはなにか察せられてしまったようです。胸の前に腕を組み、その上にある人差し指をとんとんと動かして、マスターは真っ直ぐに私を見ています。


「それに第一、お前には自宅があるはずだな? 詳しい場所は知らないが、街から離れた森の中だったか?」

「は、はい。その通りです」

「だったらなんで、宿がないなんて嘘ついた?」

「っ……そのぉ……」


 度重なる的確かつ冷淡な追求。私は思わず息を詰まらせて、細く息を吸いながら目を泳がせて、それでも変わらない強いまなざしに射貫かれ続けていて。

 私はもう冷や汗が止まらなくなってしまっていましたが、それでもなんとか、声を震わせつつ、質問に答えようとしてみます。


「依頼を終えた後、知り合った冒険者さんにご飯に誘ってもらったんですけど……せっかくの機会だからたくさん食べたら……思ったより高くついちゃって……奢ってくれるっていうのも、流石に悪いって、こ、断るじゃないですか」

「おう、当然だな」


「……それでもまあ? 依頼の報告が済んだら、ある程度はお金が入るはず、だったんですけど、か、確認が必要だから、支払いは後日らしくって、私、そのこと知らなくて」

「ああ。今日の昼、俺と確認したはずだよな」


「あ、の……今から帰ろうにも、この時間じゃちょっと、遠いなって思って……」

「言い訳はいい。結論を言え」


 隣に立つ男の子が、どんな表情をしているんでしょうか。

 もはや怖くて、確認することもできません。

 けど、それでも滲みだした視界の向こうに立つマスターは、まあ、ちょっとこわいですけど、一応、話は聞いてくれて、いるので……。

 あの、ほんとに恥ずかしいんですけど……。


 いうしかないので……。

 だから、わたしはいいました。


「おかねがなくて、つかれてて、かえれなくなっちゃったので、ひとばんだけとめてくれませんか……」


 われながらなんてなさけないこえ。

 それをきいてとんでもないためいき。

 となりからきこえる、あぜんといったようすのいき。


 ああ……。

 はずかしいなぁ、は、は。


「……俺の書斎を貸してやる。さっさと寝て明日、事情を聞かせろ」

「ありがとうございます……」


 わたしは、ますたーのいうとおり、きょうはもうねようとおもいました。

 

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