チュートリアルみたいなもの
この作品は、基本『語り手』を使って話を進めますが、たまに『主人公視点』に切り替わる事があります。
なので、前書きに『語り手』なのか『主人公視点』なのかをその都度書いておきます。
因みに今回は、『語り手視点』です。
「う・・・んん・・・」
海が目覚めると、そこは見覚えのない部屋だった。
「ここは・・・・・・」
キョロキョロと周囲を見回し、寝る前の事を思い出そうと考え込む。
それから数秒後、
「!! そうだ、確か俺・・・女神に『別世界行き』を頼んで・・・」
完全に思い出した。
寝る前に何があったのかを。
それはもうハッキリと。
「・・・っつー事は・・・!!」
すると今度は、何を思ったのかガバッと布団を思いっきりはぐり、再度周囲をキョロキョロと見回す。
さっきのが『状況確認のキョロキョロ』だとすると、これは『何かを探しているキョロキョロ』だ。
やがて、自分の求めている物を見つけた彼は、
「・・・あった。」
と、言って、それに近付いていった。
衣料品売り場とかに置いてある『全身鏡』である。
恐らく女神が『若返らせる』とか言っていたので、本当に若返っているのか確かめたかったのだろう。
早速彼は、鏡に掛かっている布を剥ぎ取り、銀色の鏡面に自分の姿を映した。
「おお、確かに若返っている・・・・・・高校生の時の俺だ!!紛れもなく!!」
面白みもクソも無い、普通の反応である。
まあ、こいつはリアクション芸人じゃあ無いので、そこは仕方ねえか。
若返りを確認した海は次に、女神様のこの台詞を思い出した。
「向こうの世界の貴方の家に、『第二の人生のしおり』と書かれたものを置いてるから、それをよぉ~く読んでね。」
「そうだ、しおり・・・・・・」
海、三度キョロキョロ!!
するとここで、机の上に本のような物が何冊も置かれてある事に気付き、近付いてみると・・・
「『第二の人生のしおり』・・・これだ。間違いない!!」
それがあった。
なので早速、ページをめくって中を確認し始めた。
《●はじめに この冊子は、貴方が『第二の人生』を送るにあたっての、いわば『取扱説明書』みたいなものです。一回読んだからと言って捨てず、その命が尽きるまで取っておいて下さい。》
「まあ、元から捨てる気は無かったが・・・・・・気を付けよう。この世界に慣れた辺りで、ポイしちゃいそうだからな。」
《●この家について 貴方が今いるこの家は、『貴方の所有物』です。家賃を払う必要はありません。住所は以下の通りです。》
すぐ下に住所と郵便番号が記載されている。
何分個人情報なので、ここは伏せさせて頂く。
《●治安について 元の世界と変わりません。いや、場合によってはこっちの方が良いかもしれませんね。》
《●貴方の家族について この世界での貴方の両親は、『仕事で海外を飛び回っている』という設定になっています。『両親は既に他界している』という設定より、こっちの方が都合が良いからです。ついでに、『お姉ちゃんもいる』という設定にしておきました。(こっちは、仕事で上京している美人さんという設定です)》
何故か『美人さん』の部分だけ、フォントが太いものになっており、強調されている。
よっぽど重要な設定なのだろうか。
これには海も・・・
「美人の設定・・・いらなくね?」
と、ぼそっと呟いた。
そもそも元の世界で『姉がいた』からと言って、こっちの世界の家族設定にわざわざ『姉』を追加する必要は皆無な気がする。
《●近所の人について 女神の力で、『貴方(及び家族)は昔からこの地にいた』と思い込ませています。会話する事があったら、上手く話を合わせるように。》
「ええ・・・」
再び、声を漏らす海。
文章を読み、億劫に思ったのだろう。
まあ、元々口が上手く、人と話すのが好きというタイプじゃあないので、無理も無い。
《●生活費や授業料について 基本、自分で何とかする事。とはいえ、この世界に慣れるまでアルバイトは難しいと思うので、最初の半年間はこちらで支給します。因みに18万円。高校の授業料は公立なので無料。ただし、教科書代といった諸々の費用は必要。》
「(18万・・・・・・確か一人暮らしの人間に必要な生活費は、平均で13万ちょいって聞いた事があるから・・・・・・5万も多く支給してくれるのか。有り難い。)」
《●保険について こちらで勝手に加入させました。ついでに、学校の保険にも入るように手続きしてあります。備えあれば憂いなし。毎月その分の費用がいるから注意してね。》
「ああ、だから5万も多くくれるのか。保険の内容にもよるが、基本月数千円は掛かるもんな。」
文章を読み、相槌を打って納得する海。
月にいくら掛かるのかまでは、載っていない。
《●転移前の財産について お金は、全てこの世界の通帳に入れ替えました。貯金箱や財布のお金もこの中に入っています。家や土地は、全部貴方の物且つ他に家族がいらっしゃらなかったので、全て売却しました。そのお金も通帳に入っています。手数料は通帳のお金から貰いました。》
「通帳・・・・・・これだな。」
机の上を見て、それっぽい物がある事に気付き、それを手に取る。
こういった物は、金庫にしまうか何かして、厳重に保管しておく必要があるのだが、とりあえず今は机の引き出しにしまっておく事にした。
因みに、文章の下には暗証番号らしき数字が記載されているのだが、こちらも例によって伏せさせて頂く。
そして、通帳の横には、かなり膨らんだ封筒があるのだが、これが何なのかはすぐに分かる事となる。
《●転移前に確認した転送物及び売却金について 既に段ボール等に入れて転送済みです。(あまりにも大きい物は、そのままの状態で転送しています。)売却金は、前述の通帳に・・・と、思ったのですが、間に合わなかったので、封筒の中に入れて近くに置いておきます。》
どうやらこの中には、その売却金が入っているらしい。
結構ずっしりしている。
「ああ、これか・・・・・・結構入っているな・・・後で確認しよう。さて、次は・・・」
そう言って、手に取った封筒をまた机の上に置き、視線をその下の項目に移す。
するとそこには・・・
《●お供について》
と、書かれていた。
「んん?」
『お供って何だよ』と、言いたげな表情をする海。
その瞬間、廊下の方からドタドタと走る音が聞こえて来た。
しかも、こちらに向かって来ているようで、徐々に大きくなっている。
・・・と、思ったら、急に部屋のドアがバァン!!と開いた。
「ゲゲゲェェェーーーーーーーーーーッ!!」
「!?」
入って・・・いや、飛び込んで来たのは、『オオガラゴ』という動物だった。
「な・・・何だこの猿・・・・・・いや、猿なのか!?猿で合ってるのか!?」
猿で合ってるよ。
「ギャラララララララララ!!ゲヴァッ!!ゲヴァッ!!ゲヴァッ!!ヴァヒャヒャヒャヒャ!!」
けたたましい笑い声を上げ、ぴょんぴょん飛び跳ねながら彼に近付くオオガラゴ。
おまけに目の焦点が合っておらず、左右別方向を見ている状態。
見るからにヤバそうな奴である。
するとここで、
「距離を詰めすぎですよ、ギャンゴ。初対面の人とは、適度な距離で話しかける・・・これがマナー。女神様から、そう教わったでしょう。」
どこからか別の声が聞こえて来た。
落ち着いた紳士って感じの声だ。
「!? だ、誰だ!?この家にもう一人誰かいるのか!?」
突然の追加人物に、慌てながらキョロキョロと周囲を確認する海。
本日、四度目のキョロキョロである。
「『一人』?それは違いますね・・・そこは、『もう一匹』と言うのが適切でしょう。」
「!?」
そう言って、彼の目の前に出て来た紳士声の主は・・・
「お初にお目にかかります。この度、貴方様の『お供』として、この家に住まわせて頂きます、オオスカシバの『スカシ』で御座います。」
・・・緑と白のカラーリングが特徴的な蛾だった。
「(虫!?猿の次は虫・・・!?どういう事だ!?)」
頭の中がパニックになる海。
まあ、無理も無いだろう。
いきなり目の前にイカれた猿と喋る蛾が現れたのだから。
しかも、そいつ等が自分の『お供』になるというのだから。
そんな彼をよそに、スカシは相方のオオガラゴの紹介をする。
「そして、彼はオオガラゴの『ギャンゴ』で御座います。基本、彼は笑い声でコミュニケーションを取ります。どうぞ、お見知りおきを。」
「ゲヴァヴァ!!へへへへへ・・・ヒャッハハハハハ!!」
『よろしく』と言わんばかりに挙手し、イカれた笑い声を発するギャンゴ。
何を言っているのか、さっぱり分からない。
ついでに、どう反応したら良いのかも分からない。
そんな困惑している彼に、スカシが『助け舟』を出す。
「『よろしくお願いします』と、言っています。」
「お前、分かるのかよ!?」
「長い付き合いですから。」
どうやら、昨日今日で組まされたコンビではないらしい。
とりあえず海は、
「(何なんだ、こいつ等・・・・・・何で女神様はこんな奴等を俺のお供に・・・)」
続きを読む事にした。
《●お供について 別世界での貴方の動向が非常に心配なので、貴方の『サポート』兼『お目付け役』として、私の部下をそちらに送りました。オオガラゴの『ギャンゴ』とオオスカシバの『スカシ』です。》
「(え!?俺、こいつ等に一生目ぇ付けられるの!?めっっっちゃ嫌なんだけど・・・)」
二匹を一瞥し、嫌そうな顔でそう思いながら、続きを読む。
《ギャンゴは、一見イカれているように見えますが、かなりの秀才で何でもこなす事の出来る『万能マン』です。》
「(えぇっ!?・・・あんなのが?)」
今度はギャンゴオンリーに一瞥。
それに気付いたのか、ギャンゴが『ん?』と顔を向けて来たので、すぐに視線をしおりに戻した。
《スカシは、真面目で几帳面な性格なので、堅実に貴方をサポートしてくれるでしょう。少々、口煩いですが。》
「(口煩いのか・・・厄介だなあ・・・勉強中に色々言って来なきゃあ良いんだが・・・)」
そう思いながら、スカシに一瞥。
彼は、ギャンゴのように勘が鋭くないのか、海の方を向く気配は無い。
その代わり、ギャンゴが特徴的なギョロ目で見て来た。
「(・・・まあ、良い。続きを読もう。)」
『お前じゃあねえよ』と、心のどこかで思いつつ、海はその下の項目を読むことにした。
《●貴方が通う高校について 貴方が通う高校は、『山茶花工業高等学校』です。しおりの近くに学校案内書等の資料を置いています。制服や体操服は、クローゼットの中にあります。》
「工業高校か・・・前は普通科だったから、新鮮な気持ちで通えるな。」
《場所は、この家から歩いて十分~十五分の所にあります。入学前に、予め場所を確認しておくこと。》
「近いな・・・前は電車通学だったから、歩いて通うのは中学の時以来だ。」
《入学式は、4月6日です。》
「まあ、大体6日か7日だよな・・・」
ここでふと、今日が何月の何日なのか気になり、五度目のキョロキョロ。
しかし、この部屋にはカレンダーやそういうのが表示してある物が何も無かったので、
「・・・ところで、今日何月の何日だ?」
と、二匹に聞いた。
それに対し、スカシが答える。
「今日は、4月の5日で御座います。」
「何ィ!?」
まさかの入学式の前日!!
『前日はさすがに無いだろう』と、思い込んでいた海は、脳天をハンマーでカチ割られたような衝撃を受けた。
そしてすぐに、
「入学式、明日かよ!?・・・・・・ええい、クソッ!!こうしちゃあおれん。とりあえず、学校の場所を確認しに行かねえと・・・」
しおりを机にポンと投げ置き、部屋を出て行った。
「あっ、では我々も・・・行くぞ、ギャンゴ。」
「ゲゲゲェェェーーーーーーーーーーッ!!」
二匹も彼に続いて、部屋から出て行く。
「お前等も来んのかよ!?」
「ええ、サポート兼お目付け役ですので。」
「チィ・・・ッ!!」
見るからに迷惑そうな顔をする海。
さっきまでいた部屋は二階だったので、ドタドタと階段を駆け下り、目と鼻の先にある玄関から外へ飛び出した。
まあ何はともあれ、永林寺海の別世界生活及び『第二の青春』は、こうして幕を開けたのであった。
大変申し訳ありませんが、この小説は不定期更新でございます。
メインに書いてる小説の都合によって、かなりの期間を空ける事になるかもしれません。
夏までに一話はアップ出来るように頑張ります。