第12話:独りで過ごす時間(上)
来賓部屋に到着すると、二人の守衛の男が扉の両脇に立っていた。
直立したまま前方を黙って見据え、呼吸をしていなければ二体の精巧な彫刻だと錯覚しそうになるほど悠然と構えている。近づいても彼らは毅然とした態度を崩さなかった。
「ご苦労様です」
「ど、どうも……」
トウコとカンナの挨拶にも仕事に忠実な守衛の二人は無表情の敬礼を返すだけで、必要以上のコミュニケーションを取る気はないように見えた。どうにも気後れしてしまい、視線を合わせる度胸は無かった。
トウコが専用キーを使うと電子音が鳴り、荘厳な造りの扉が開かれていく。
「カンナさん。さあ、どうぞ」
「はい。お邪魔しま~す……」
おそるおそる、扉の奥に足を踏み入れていく。
中はカンナの想像した通り、高級ホテル並みに豪華な部屋だった。要人が宿泊するような風格を漂わせおり、入ってすぐの居間部分だけで教室ほどの広さがある。
「わあ……」
洋風に彩られた室内は貴賓室と呼んでも遜色なく、見るからに高級そうな家具が並んでいた。タツマの「特別待遇で扱われる」という言葉を憶えていなければ、今ごろ部屋の入り口で呆然と立ち尽くしていただろう。
「この部屋の中の物は全て、ご自由にお使い下さいね」
「は、はあ……」
ご自由にと言われても、この無駄に広すぎる部屋を一人でどう使えば良いのか見当がつかなかった。
トウコから部屋の設備の説明を受ける途中、後で食事が運ばれてくる事を知らされた。言われてみれば、この星に来てから水以外のものを口にしていなかった事にようやく気付く。
文化的な側面に未だ触れておらず、懐古的な地球という心象が拭えないのが理由なのだが、自分が他の星にいるという事実をつい忘れがちになってしまう。
(適応力が足りてないのは、仕方ないのかな)
カンナはこれまでのノーヴァが残した実績に少しだけ感謝した。先駆者である彼らが文明を現代の地球に寄せていたからこそ、ここでの生活を違和感なく受け入れていけるのだと。
「──では、明日の朝、迎えに伺います」
「はい。本日は色々とありがとうございました」
説明が終わり、カンナはトウコに感謝の意味を込めて深く礼をした。
「いえいえ。ゆっくり休めるといいですね」
それじゃあね、とトウコは穏やかな表情のまま手を振った。部屋を出て扉が閉まる音を確認すると、カンナはベッドの上に腰を下ろした。
「──ふぅ。この部屋で朝までか」
一人で寝るには大きすぎるベッドに大の字になり、身体を預けていく。ゆっくり体が沈んでいく感触が何だか心地良い。
ようやく落ち着けた所で、一日の疲れが一気に押し寄せた気がする。
やがて扉をノックする音が聞こえ、局員がカートワゴンで食事を運んできた。
(あ、絶対落ち着いて食べれないやつだ……)
卓に並べられたのはカンナが食べるには多すぎる量のコース料理だった。
丁寧に骨抜きされた舌平目のムニエルやフィレ肉などの高級料理を出されても、作法もろくに知らないカンナは戸惑うだけで、ナイフとフォークを丁寧に扱うことだけを心掛けて食事をする。
この星で初めて口にした食物は美味いはずなのだが、代わる代わる出てくる料理にゆっくり味わう余裕も無く、すぐに満腹になってしまい、全部食べる事が出来なかった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
よろしければ、感想の投稿、☆☆☆☆☆の評価をお願いします。
毎日更新できるかは不確定ではありますが、お付き合いくださると幸いです。