#03 全てを知るという事
注:この作品はファンタジーです。
前世で誰かが言っていた、我々が認識している世界はホンモノと呼べるモノなのか、と。
我々が世界と呼んでいるモノは、五感で感じ取り脳が認識した『ソレら』を世界と認識しているに過ぎないのではないか、と。
別の誰かが言っていた、我々の住んでいる世界は人類では想像もつかない程の規模の量子コンピューター上に創造された仮想世界なのではないか、と。
人類が認識出来ない部分が、常に我々が世界と呼んでいるモノの傍らに存在している可能性。
四次元より上の次元、人類が五感で感じる事の出来ない高次元の存在……
……つまり何が言いたいのかって?
『鑑定』を鑑定した結果、ボクの脳が認識出来ない筈の存在を、抽象化した形で認識……もっと具体的に?
普通に生きてたら不可能な高次元の存在を認識した、もしくは高次元そのものに接続してる最中。
正直割とファンタジーな異世界かと思ったら唐突にトンデモSFぶち込まれて困惑中です。
それが具体的にどういうモノなのかっていうと、あえて名称を付けるとすれば……『全てを知る存在』? いわゆる『アカシックレコード』とかそんな所? 知らんけど。
高次元だの余剰次元だのは理論上あるかもしれないけど人間の五感で認識出来る筈が無いから、恐らく此処は仮想空間、若しくはボクが「誤認する」って形で高次元そのものを認識しているのかも。
まさかあの世界で『鑑定』だと思われていたスキルの正体が此処に辿り着く為の鍵みたいなモノだったなんて誰が想像出来るだろうか?
これ前世で例えるとインターネットで『世界』の全て、文字通り「何もかも」分かってしまうみたいな事態なんだけど、ヤバすぎじゃない? 学者や研究者が絶滅する。
とはいえ、あの異世界の常識を持っている人間ではまず辿り着けない。此処に辿り着く為に突破しないといけないプロテクトが厳重過ぎて、純粋な現地民だとまず条件を満たせない。
……そう、どうやら居たみたいなのだ、かつて此処に辿り着いて厳重なプロテクトを仕掛けた『誰か』、あるいは『ナニカ』が。
この場所の危険性を正しく理解して、非常に厳しい条件を設定して、仮に辿り着いたとしても扱い方を誤れば此処で潰えるように仕掛けた『ナニモノ』か。
それが何なのかまでは、流石に怖いから調べない事にした。恐らくボク程度じゃ逆立ちしたって太刀打ちできるようなモノじゃないだろうから。
因みに、あの銀色の本は『ボク』だった。図形としては読めない文字で綴られている、けれど読もうと思えばちゃんと読めた。
そこには『ボク』の全てが綴られていた。
それはそうだ、コレはボク自身、ボクそのものなんだから。そう、全てだ。過去、現在、未来、ありとあらゆる可能性が綴られている。
ただし、あくまでもボクが『ボク』である可能性のみが集約されていて、『ボク』がボク以外の『別人』である可能性は綴られていなかった。
つまりボクはどう転んでも『ボク』でしかなく、つまりそれはどこまで行っても『名無しで銀色の毛並みをした狐の獣人少女』でしかないという事で。
けどそんな話は正直もうどうでも良いんだ。どこまで行っても『ボク』に名前が無い事に変わりはないし、むしろ名前が無い方が好都合だって知っちゃったし。
全く酷い話だよ、結局欲しい物は手に入らず仕舞いの上、知らなきゃ良かったかもしれない事まで知ってしまうなんて……ただ、今後の人生を真っ当に生きたいなら此処に辿り着けた事に意味はあるけど。
あぁ、本当に最悪だ。あまりの悍ましさに真っ先に隷属の刻印魔法は術式の根っこも残さず消去してやった。復讐しようとまでは思わないけど……本当にやりきれない。
此処は知識の宝庫なんて言葉じゃ生ぬるい場所、「世界の全てを知っている」のだから何でも知れる。流石に此処の何もかもまでは理解出来てないし出来なさそうだけど。
で、だ。そんな『何でも知れる場所』だから当然のように「何でも知っちゃった」のだ。このままでは『ボク』は大変なことになると知ってしまった。知ったらどうする? 知らんのか、抵抗する。
そんなわけで、ボクは時間が許す限り此処に存在する『本』を片っ端から読み進めていた。生き残る為に。真っ当に生きるために。
此処は干渉しようと思えば過去・現在・未来のどこにでも干渉出来る、何せ時間の概念が存在しない、正確にはどの時間軸にでも干渉出来るだけなんだけど。
ただ、事象の改変はやりすぎると世界が破綻するし、過去に干渉したとしても無限に分岐した平行世界が存在するおかげで過去の改変も実質無意味。
でも現在から未来へ進む方向は選べる、ボクはまだ『現在』に居るから。『ボク』の意識が戻れる肉体はボクの認識で言う『現在』にしか存在しない、現時点でも肉体との繋がりは途切れていないから。
……肉体を失った上で此処に来れたら面白い事が出来そうだ。けどそうなった時恐らくボクは『ボク』じゃなくなっているんだろうな。とはいえ、その肉体も必要だったからちょっぴり弄ったけど。
便利だなぁ分割思考、損傷した脳の復元のついでに色々仕込んでみたけど、仮想人格とかも。ギャグ作品の脳内会議みたいなガチ討論とか、情報収集しながら雑念に耽ったりとか色々出来るの楽しい。
実態は分割思考は情報収集の超々効率化が目的で、仮想人格は正気を保つ為なんだけどね、そもそもこんな空間にずっと一人で居て気が狂わない方がおかしい。
いや、もしかしたらとっくの昔に狂ってるのかもしれない。けれど、仮に狂っていたとしても狂っていないと認識し続けている事に意味がある、意味は、ある。
あとは脳以外の部分も……そういえば、階段から落ちて倒れていたボクを見て即座に蘇生が試みられたみたいだ。けど、脈拍と体温を偽装したから誰もボクが死んだ事を疑わない。超高度な死んだフリ、しかも無傷、うーんこの。
……けど我ながら酷い絵面だったなぁ。鼻血垂れ流しながら目ぇ見開いて痙攣って、いくら転生して人生二度目とはいえ我女の子ぞ? いや色々手遅れなんだけども。
せめて埋葬する時は身綺麗にして欲しいところだけど、どうせ穴を掘ってそのままポイのハズだから期待はしないでおこう。
あの屋敷では奴隷が死んでも特に葬式みたいなモノは執り行われず、すぐさま共同墓地と称した屋敷の敷地の裏手にある荒地に埋められる。
これほどの扱いに誰も疑問を感じないのは、生まれた時からそういう風に教育されているからだ。誰一人として違和感を覚えたりはしない。
それじゃなくても隷属魔法で欲求を抑制されているんだ、よほど強い感情を覚えるような事でもない限り、隷属魔法の精神抑制からは逃がれられない。
隷属魔法は主人に対して強い恩義を感じるようになり、同時に主人に対するマイナスな感情だけ特に強く抑制する。けれど、それ以外の感情にはあまり強く作用しない。
だからボクの「自分の名前を知りたい」という強い欲求は無事だった。どちらの範囲にも入らない感情だったから。
何よりボクには前世の記憶がある。転生した影響なのか前世が何者だったのかすらワカラナイほど擦り切れてしまっているけれど、ボクのアイデンティティを失わずに済んだのはこの記憶があったからこそだ。
昔の自分に関しては調べるのが大変そうなのでやらない、この本に記されていたのは『ボク』となったボクの事だけだったから。
調べられない事はないんだけど……少し本棚が遠いみたいだから、いずれ機会があれば、かな。
……うーん、分割思考と仮想人格もどうにか若葉マークがとれそうだし、そろそろ起きるか。
注:この作品はファンタジーです。
大事なことなので2回言いました。
ツッコミ所さんしかないけどよろしくお願いします。