プロローグ 『ボク』の日常
初投稿です。
よろしくおねがいします。
「……よいしょ。よい、しょ……」
世界は絶対に平等じゃない、誰もが平等な世界なんてありえない。
本当に平等な世界があったとしたら……そこはきっと、様々な嘘で塗り固められた箱庭の中の話で、その箱庭の嘘は、箱の外に居るダレカにとって都合の良い事だけ、きっとそんな場所なんだと思う。
これは、生まれる前から持っていたボクの持論だ。
「……っと…………ふぅ、これで終わり……」
焼却炉の前に木箱に詰められたゴミを運び終えて一息ついた。
このお屋敷は広いから出るゴミの量もそれなりに多いため、朝のゴミ出しだけでも結構大変。
とはいえこれもボクの仕事なのだ、他にやりたい事だとかも別に無いし、文句は無い。
『ボク』は狐の獣人である。名前は未だ無い。わからない。ちなみに身分は『獣人奴隷』。
実は別の世界の記憶、いわゆる『前世の記憶』って呼べそうなモノも若干あったりするけど……その話は今は必要ないだろう。
奴隷と一言で言っても、労働環境はめちゃくちゃ恵まれてると思う。
生まれながらの奴隷で、暖かな寝床で眠れて、ちゃんとご飯もそれなりの量が食べられる、こんな恵まれた環境など他所の国の奴隷事情だと考えられない事らしい。
だからボクも他の奴隷達もみんなも『ご主人様』にすごく感謝してる。いやマジでありがたい話だよね、衣食住大事、絶対。そりゃあ受けた恩はちゃんと返さなきゃってなるよ。
あ、生まれながらの奴隷と言ったけど、血縁はここには居ない。というかどちらも既に故人。
父は真っ黒な毛並みの狐の獣人で、母は真っ白な毛並みの狐の獣人だったらしい。
肝心の死因だけど、父はボクが産まれる前に『ご主人様』を魔物の攻撃から庇って、母はボクを産んだ後、産後の肥立ちが悪くてそのまま、だそうな。
これは同じ屋敷に居る奴隷仲間の猫の人(女)が教えてくれた。本当かどうかは、神のみぞ知る?
そんなモノクロな毛並みの両親から生まれたボクの毛並みは白に近いシルバーブロンド、耳の毛先が黒で尻尾の先端が白いのがチャームポイント。因みに瞳は父譲りの金色の瞳。
先ほどの猫の人(女)曰く、成長したボクはどんどん母に似てきているらしい。
……自分で言うのもアレだけど、ボクの母ってめっちゃ美人だったんだなぁ。
父の方もお屋敷のメイド(人間)すら「獣人奴隷でさえなければ……」って残念がるぐらいのイケメンだったらしいし。
美男美女カップルか、そりゃ見た目は将来安泰だわ。素晴らしいな、だが無意味だ。奴隷だし。
んで、そんなボクは生まれも育ちも『ご主人様』のお屋敷の一角。獣人奴隷達の暮らす平屋の一室、そこが『ボクの城』だ。
まぁ、奴隷といっても既に何世代も前から繁殖され、扱いはどちらかというと労働力目当ての農用動物、要するに家畜に近いのだが。
魔法技術で国が登録情報の管理を徹底している、定期健診も予防接種も必須、繁殖に関しても時期やらを決めている、と言えばどういった扱いかは大体分かるだろうか。
あえて固有名詞で例えるとするなら……例えるとハリー・〇ッターでいう屋敷し〇べ妖精ポジション? うーん、微妙だな……
ちなみに、元を辿ると大本となるご先祖の大半は『獣人の国』の罪人達の中でも重罪中の重罪を犯した凶悪犯、とある国では死刑相当の犯罪奴隷だったそうで。
そんなヤバイ奴らだから、魔法による記憶操作に加え隷属の刻印式魔法を刻まれ……と色々徹底した処置を施した、要するに刑罰だったらしい。
よく他の国も受け入れたな、まぁ『獣人の国』だと逆の事が行われたらしいから、死刑の無い国で刑務所要らずの労働力の確保ってトコか、お~こわ。
ただ、その後に問題があった。奴隷達の間に生まれた子供達の処遇だ。
生まれた子供に罪は無いが、親は国が国なら死刑相当の罪を犯して命の代わりに奴隷に堕ちた者達。祖国には実質帰る場所も無く、身元を保証するものもない。
そういった犯罪者たちは当然被害者が存在する以上、相応に恨まれて、憎まれている。
仮に『獣人の国』が引き取ったとして……きっと『××をした奴の子供だ』と、後ろ指を指されたろうね。その後の人生がどうなったかなど想像もしたくない。
自分が被害者なら加害者を糾弾するのは分かる。けど、当事者以外の人間まで、ましてや罪人本人ではないその身内に対してまで「親の仇」と言わんばかりに騒ぎ立てるのは、何とも馬鹿げた話だよね。
まぁ民衆っていうか、群衆ってのはそういう生き物だ。自分勝手で馬鹿馬鹿しい、正義とは程遠い言葉を『絶対の正義』と信じて振りかざす愚者、そういうのはどこの世界でも変わらないみたい。
犯罪者の身内は決して犯罪者じゃないのにね。まぁ身内が犯した罪を隠したりすれば、その身内もまた別な罪を犯した犯罪者ではあるけれども。
閑話休題。
とりあえず以前読んだ本によると、なんやかんやあって「犯罪奴隷達の子孫を『獣人の国』で引き取っても、そちらの国に居るよりも酷い目に遭うだろうから、労働力として使ってやってほしい。ただし扱いはそれなりに丁寧にな」っていう取り決めがなされたんだってさ。
中には身分を隠して『獣人の国』に戻った子供も居るらしい。そういった場合だと『獣人の国』に戻った子供はこっちの国での公的な記録上は死亡扱いにしたらしいけど、その後がどうなったかは……やっぱり神のみぞ知るってね。
で、そんな歴史を辿って生まれたのが『獣人奴隷』という労働力なのである。
……なお本人たちの精神的なアレソレは勘定に入れないものとする。
ぶっちゃけ、感覚的には住み込みの雑用バイトに近いかな。賃金は一切発生しないけど。
でもホントにやりたい事もないし、この世界はちょっと外に出れば危険な魔物が闊歩してるし、典型的なインドア派の精神構造をしているボク的に、今の生活にさほど不満は無かったりする。
そもそもの話、この世界にはアニメもマンガもゲームもネット無いのだ――数万年前に滅んだ超古代文明の遺産にそれっぽいモノがあったっぽいけど――とにかく、今の時代には無いのだ。
お金があっても欲しいものが無いんじゃ貯める意味も無いし、強い魔物と戦ったり危険なダンジョンを冒険したりとかは正直ボクの趣味じゃないし。
かといって「無いなら作れば良い!」なんてのは、色々な想像は出来ても消費性抜群で生産性皆無の凡夫にはもっと無縁なのだ。
そーいうのは創作物のチート転生者系主人公達の領分だ、ボクには関係ない。だいたい、前世の記憶だって六割近く摩耗してるから覚えてる事の方が少ないし。
……流石にこの世界で知りたい事すら全く無いとまでは言わないけど、手段がこの世に存在しない時点でどうしようもないから、ね。
とまぁ、呑気で自覚も無ければ意気込みも無い、流されるだけの人生を歩んでいたボクは、今日も今日とて変わらぬ日々を過ごしている。
けど、この数日後に「転機ってのはドコに転がってるかわからないモンだ」と思い知らされる事になるんだけど……この時のボクは知る由も無かった。