久美沙織 『新人賞の獲り方おしえます』
久美沙織先生は『丘の家のミッキー』シーリズやドラゴンクエスト4・5・6の小説版など、主にティーン向けで活躍していた作家さんです。少し前に『劇場版ドラゴンクエスト』で主人公の名前が無断使用されたことでワチャワチャやっていましたね。
『新人賞の獲り方』シリーズは全部で3冊出ています。しかし最後の本は本屋にも図書館にも置かれていなく読めていません。1998年出版ですからね。諦めています。
『新人賞の獲り方おしえます』は久美先生の小説指南講座(全十回)を文字起こししたものです。
基本的には課題(15分間)を与えて、そこでできた文章を添削していくというかたちで進められます。視点の切り替えなど、かなり基本的な内容です。久美先生は新人賞の選考委員をやっていた経験から「最低限のことが出来てないものがほとんど」と話しています。新人賞からハードルが大きく下がりますが、一次選考で弾かれない作品は書けそうな気はしてきます。
久美先生はこの本の初版で「あなたの原稿を無料添削」という特典をつけました。そしてこれが想像の10倍ほど届いてしまうという、予想外の地獄を味わうことになります。しかも講義内容を全く無視した最低限未満の原稿だけという有様。そこで『もう一度だけ新人賞の獲り方おしえます』を出すことになります。
そういった経緯でできた本なので、2冊目も基本的には同じことが書いてあります。雑談が多めで、読み物としてはこっちの方が面白いです。
作家としての常識。やってはいけない、ビギナーの描写。選考委員はどこを採点基準として読んでいるか。
あとは心構え。書き続けること、それを人に読ませること、調べものがあるなら徹底してやること。
巻末には主要新人賞担当編集者へのアンケートがあります。時代的に相当古いですが、なかなか面白いです。
さて、ここまで3シリーズ6冊のハウツー本をざっと紹介しましたが、久美沙織先生の2冊目が一番良かったです。この本にも私が求める表現力育成はありませんでした。しかし「とりあえず一次選考突破」という地に足の着いた目標と、それに対する基礎の徹底はお見事です。
因みに本書を読んだ瀬名秀明さんが『パラサイトイブ』を書いて、日本ホラー小説大賞を受賞し小説家としてデビューしました。ハウツー本としては数少ない例なのではないでしょうか。今時のハウツー本をamazonで見ても「おかげで最終選考まで残れたので☆5です!」とかないですもの。