五臓六腑の染み渡るンゴ
剪定と統制の暴力
「Root of Control」金なるエルヴェティティス
エルヴィティティスは、戦慄していた。
どこからともなく、無帰湖に現れたヒト型らしき生物があの、そう最悪と謳われた最古の蜘蛛をいとも簡単に滅ぼしたのである。
あの蜘蛛は恐ろしく陰湿な罠という罠で相手を翻弄する技に長けていた。
高速に迫る爪や牙ももろともしない甲殻に全身覆われ、ほぼ300度近くの全域を見通す視野。
高確率で発生し時には糸に混ぜられる麻痺毒、接触すると岩石ですら猛スピードで溶かす溶解液、捉えた獲物に対し卵を産みつけ大量の仲間を生み出す産卵器官、それに加えほぼ重力無視で森を縦横無尽に飛び回る回避能力を併せ持つ。
トドメに、500年間の『最古』の狡猾な知恵を持つため、直接対峙だけは避けるようにしていたのだ。
あの蜘蛛には何度も何度もトラウマを植え付けられていた、追い詰めたと思いきや蜘蛛の巣に捕らえられ麻痺状態のまま、子蜘蛛にかじられ続けたり。
巣を焼いて消し炭にした時には、1週間永遠と追い続けられ、逃げても逃げても必ず目の前に蜘蛛が立ち塞がり、餌という餌を全て奪いとられた挙句に目の前で喰われたのだ。
さらに飢餓状態の自分にこれでもかと言わんばかりに、残飯に溶解液をかけて満面の笑みで立ち去ったのである。
なんとも性格の屈折しきった蜘蛛野郎であることか。
しかし、それをいとも容易く、接近を許しただけで殆どの攻撃を無傷とすると堅牢な殻を溶かし『再起不能』としたのだ。
単純な脅威度で言えば、蜘蛛以上であるという点でエルヴィティティスなぞ相手にならないものが現れた、というのが彼の理解であった。
「くそ!くそ!くそが!
今までの俺の苦労が!準備が!時間が全て無駄だ!
こんなことならさっさと蜘蛛のやつを殺しておくべきだった!
これで勢力図が変わっちまう!
あいつらが。
恐怖が、脅威が、最悪が、地獄が、破壊が、災害が....全部動き始めちまう!」
森の勢力図は、5匹の化け物の睨み合いの状態にあった。
内2匹は、森の支配などに興味はなく自分達を脅かすものをただ排除するという一点にしか興味がなかった。
しかし、今は亡き蜘蛛とエルヴィティティス、もう1匹の3匹の中では、互いに森の支配者を決めんとばかりに熾烈な争いを日々繰り広げていた。
蜘蛛がいなくなれば、確実にあいつは動き出す。
あいつにとって蜘蛛以上の脅威は、白以外に考えていないからな。
こうなったら、どの勢力に付くかで『生存』の可能性が大きく変わる。
赤は脳筋バカだし、白は争い自体に興味がない。
問題はあいつだ、紫ことアンティカス。
蜘蛛がいなくなったとなれば、十中八九で紫と戦うことになるだろう。
アンティカスは言うなれば、実態のない蛇であることは分かっているがそれ意外全て謎なのだ。
エルヴィティティスにとって、情報が少ないということは勝てる可能性が極端に低くなるということを意味する。
本体が捉えれないとなると尚更直接の対決は敗色の濃い戦いにしかならない。
となると、赤か白と組む意外に勝率を上げる可能性はない。
ではどうするか、俺は選ばれるじゃない『選ぶ側』のエルヴィティティス。
ならば、それ以上の脅威である新興勢力を取り込んでしまえばいいではないか。
蒼以上の脅威ならば自身の能力で取り込んでしまえば、あとは紫を倒し、赤、白を個々に撃破出来れば王としてなる日も遠くはない。
『選ぶ』のは俺だ。
『あいつら』では決してない。
決して。
ならば目の前のこいつを絶好のチャンスと捉えるか、最悪と捉えるかは自分次第なのだ。
こうしてエルヴィティティスは、ヒト型への接触を試みるのであった。