愛
僕は、愛が欲しかった。
親に捨てられて行き場を失っていた僕を、おじさんは可愛がって育ててくれた。
「まるで息子が出来たみたいだ」なんて言って笑って、本当に息子のように世話をしてくれた。
楽しい日々だった。毎日が暖かかった。
しかしそんな時間は永遠には続かなかった。
いつからか、僕を可愛がってはくれなくなっていた。
一緒にいてくれる時間が減っていった。
手作りだったご飯が簡素なものになっていった。
おじさんの仕事が忙しくなってきたのだろう。
僕のワガママなのは分かってる。
でも、それでも。
頭を撫でて欲しい。一緒に遊んで欲しい。
外へ連れ出して欲しい。僕を、愛して欲しい。
胸が苦しくなるのをぐっと堪える。
すると、玄関の方で鍵を開ける音が聞こえた。
今日はだいぶ早いな。
もしかして仕事が早く終わったのだろうか。
やった!久しぶりにおじさんと遊べるぞ!
大急ぎで玄関へ向かった。
しかし、おじさんは玄関の扉を開けてまた出かけていくところだった。
呼び止めようとしたが間に合わず、無情にも扉が閉まる。
なんだよ、忘れ物でもしたのかな。
おじさんはうっかりさんだなあ。ははは...
...やだよ。独りにしないでよ。
扉に向けてワン、と鳴いた。
響く声もすぐ雨音の中に消えていく。
僕は、愛が欲しかった。






