1、根幹解除
スラム街を颯爽と駆け抜ける影が一つ。
外套を羽織り、フードを目深に被っている。
彼の名前はリーク=アイリス。呪われし存在の彼が今、外に出ているのには事情があった。
それはつい、数時間前に遡る。
いつものように、リークは山の麓にある小屋の中で、机に向かっていた。
机上には円に複雑な模様が描かれた、いわゆる魔法陣がある。これはリークがこの12年間に渡り、組み上げた大魔法であった。
己の呪いを解く魔法。リークはそれを完成させようとしていた。
「何だ…何が足りない……!」
完成間近。なのに、何かが足りない。
見つけろ!探し出せ…!!
目を皿のようにしながら探すが、答えは見つからない。仕方なく、魔法陣から意識を外し、他の事に取り組むことにする。
リークはもうすぐセラーク魔法学院の受験を控えていた。この国は16になる年、魔力を持つ者は魔法学院への入学が義務付けられていた。それは悪たるリークも例外ではなく、名門セラーク魔法学院への入学を目指していた。
セラーク魔法学院は大きく三つの部に分かれている。
魔法剣、
魔法術、
そして、セラーク特有の魔法銃。
魔法座学も存在するが、そちらは主に一般生が受ける。
また、これもセラーク特有の制度である、特待生制度。基本、入試の結果で不合格者・合格者を分けた後、能力や才能によってさらに上の三つの部に分けられるのだが、そこに存在するのが特待生制度。成績上位者20名のみ、この全ての教育を受けることとなる。一学年120名しか取っておらず、そのため高倍率な上、特待生はさらに倍率がグッと高い。
セラークが名門たる由縁も、この特待生制度にある。まぁ、リークが目指しているのは特待生などではなく只セラークに入れればそれでいいのだが……。
入試内容はこの四つ全てを問う。油断は禁物なのだ。
只、そこに立ちはだかる大きな壁が一つ。リークは呪われた身。つまり、力が最大限に引き出せていない。このままだと落ちてしまう可能性が濃厚…と言うことだ。
どうしたものか……。
また魔法陣の作業に引き戻される。依然、一体何が足りていないのか分からなかった。
そこでピンとくる。
媒介だ。
自分自身の呪い、そこには自分も対象に含まれるため、自身も傷つけてしまう可能性が非常に高い。
魔法陣には不備がない。となると不備があるのは……俺自身か。完成の為には、呪いと自分を隔て、橋渡しをする媒介のような物が必要なのだろう。
媒介…媒介……。これは大魔法と呼ばれる大規模な魔法だ。(何より人体に作用する魔法はほとんどが大魔法の類に類する)そんな魔法を使うには自分魔力を込めつつ且つ、巨大な魔法にも耐える、ゴリッゴリに耐久度が高い物でないとダメだ。
となると……。
それには覚えがあった。
そうして今、俺はその場所へ向かっている。
そこは、俺が落ちた場所だった。
街も森もスラム街も抜けた先、そこにあるのは誰にも分からないよう隠蔽がかけられたた白一色の建物。
確かここの最上階の部屋に、水晶があった筈だ。子供の頃、一度だけ見たことがある。
誰にもバレないように自分に隠蔽を掛け、転移で部屋に侵入する。
ここに居られるのはせいぜい1〜2分だろう。そもそも本当はここに侵入できる者などいないが……。
ちょっと緩くないか?
急いで探索で水晶を対象にする。数多ある棚の中から水晶を取り出し、そそくさと部屋から出る。その間たった5秒のこと。
外套を羽織り直して小屋へと急行する。
小屋へ着くと水晶を取り出し、素手でぶち壊す。壊した破片の一つを都合の良い飴玉サイズに変形させ、口に放り込んで丸呑みする。
残った水晶の破片をまた一つに変え、魔法陣の上に置くと、水晶に魔力を込める。
水晶は青白く輝き出す。
「我の思いに応えよ。根幹解除!!」
どっと、身体に魔力が押し寄せる。それは胃の中のミニ水晶に集束し、一気に解放する。
「くっ…ぐあっ……!!」
押し寄せた魔力の波に飲まれながらも、強く耐えるリークの脳裏に映像が流れ込む。
「な…んだ……?」
その時、彼は本能で理解した。
自分は、今まで死んでいたのだと。
魔力の波は引いていき、リークは水晶に映った顔を見つめる。それが、自分のものだと理解するのにそう時間はかからなかったが、驚きを隠せなかった。
黒い髪に深い色の赤眼
赤色の目を持つものは、この世には存在しないはずだった。
つまり、それこそが彼の『記憶』が本当だと、暗示していた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「これは……面倒だなぁ…………。」
そしてリークは極度の面倒臭がりでもあったため、今の事が面倒でならなかった。
だが、魔力は戻ったし顔も分かるし、何より生き返った身体にリークは満足だった。
早速リークは試し撃ちと称し、森を破壊の尽くにした事は、まぁ、ここでは関係ないのでいいだろう。ちゃんと元に戻したし。
書きながら頭がぐっちゃになるのは仕方あるまい…(汗)