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Phase.8 『冥王』の実力

 それからまた同じSUVに放り込まれ、ぴったり元の通りで降ろされたときは、本当に悪夢を見ていたかのようでした。


「準備が整ったら電話しろ。おれがすべて片を付けてやる。お前だけで来い。立ち会え」


 帰り際の言葉が音声付きでしっかり、頭に刻みつけられていました。あー怖かった。どうにか戻っていくと、スクワーロウさんはやっぱり同じ姿勢で居眠りしていました。


 次の日、わたしはロイくんに連絡し、ホープとそのいじめっ子を呼び出してもらいました。ローゼンに連絡を済ませると、二人はすぐにやってきました。人目につかない街の裏通りです。


「おいロイ!約束の物をさっさと渡せ。分かってるだろうな!ホープさんに逆らったら、ただじゃすまねえからな!」


 嵩にかかっているコヨーテは、いじめっ子の方でしょう。ハーレーで乗り付けたホープは腕を組んで、満足気にその様子を眺めています。


「いやだ」

「なんだと!?」

 コヨーテは、ロイくんの胸倉を持ちました。わたしは、手を出しません。これはロイくんが解決すべき問題なのです。

「僕は何も悪いことはしてない!脅迫するなら、やってみろ!母さんの仕事は、僕が守るんだ!」

「この野郎!」

 コヨーテに一発殴られましたが、ロイくんは眼差しでひるみません。こうなったら人は強いのです。

「おっ、お前ふざけんなよ!ホープさんに逆らう気か!?」

 さあここで向こうの真打の登場です。大牛は、鼻息荒く出ていきました。

「お前、おれに逆らうとはいい度胸だな。この辺は、おれたち『牛角』が仕切ってんだ。お前もお前の親も、表も出歩けないようにしてやろうか!?」

「あ、ちょっと待ってください。お話し中すみません」

 わたしはそこで、しれっと割って入りました。

「なんだお前は!?まさか、こんな小リスの女がお前の助っ人か?」

 ホープはちんまいリスのわたしを見て、思い切り嘲笑いました。

「いや、そう言うことじゃなくて。さっきからホープさん、威張ってますけどここ、あなたたちの縄張(シマ)じゃないみたいですよ?」

「おい!ふざけたこと抜かすとお前から、畳んじまうぞ!」

 ホープが威勢よく、啖呵(たんか)を切ったそのときです。


 通りのあらゆる場所から出るわ、出るわ、防弾使用のバンに、黒塗りの高級車です。そこから自動小銃(アサルトライフル)を持った黒スーツの『本職』のマフィアたちが山のように出てきて、取り囲みました。たぶん百名以上いたと思います。気づくともはや、蟻のはい出る隙間もありません。


 ずらりと向けられた銃口に、さすがのホープも腰が抜けそうになっていました。

「なっ、なんだ…なんだこれは…!?」


 やがて、その奥から戦車のような防弾装甲を施したひときわ立派なリムジンが横に乗り付け、後部座席から、五十口径を引っ提げたローゼンが降りてきました。


「おい、こいつはおかしいな。クソ溜めみてえなひでえ匂いがしやがる」

 ローゼンは鼻をひくひくさせると、ホープの頭に大口径を突きつけました。

「冗談だろ!このおれの縄張(シマ)に、薄汚えバイカーの牛野郎がいやがるぞ!?」

「いったい何なんだてめえは…?!」

 吠えつきますが、ホープはがたがた震えてもはや泣き声です。

「ここは、おれたち『牛角』のしっしま…」

「今なんか言ったか若造。ここは昔から、おれのもんだ。てめえがズボンに小便のシミ垂らしてる頃からずっとな。このローゼン・コルベッティ様のな」

「ろっ、ローゼン…!あっ、ああああんたがあの伝説の…!?」

 伝説のマフィアの顔は見たことはなくても、この状況を見れば、本物なのは一目瞭然です。いくら腕自慢のバイカーだって、軍隊並みのマフィアの武力にはかないません。

「よく知ってるじゃねえか。…じゃあ当然、おれの仇名(マスコットネーム)は知ってるよな?…おれは『冥王(プルートゥ)』こいつはかつて、一番最後に名付けられた惑星の名だった。どう言う意味か知ってるか?おれに会ったらこれで終わり、ってことだ」


 銃口を突きつけたまま、ローゼンは強烈なボディフックを牡牛に叩き込みました。さらにお腹を抑えて下がったあごを狙って、ダメ押しのトゥキックです。崩れ落ちたバイカーの両脇を、すかさず屈強なシベリアンハスキーの用心棒たちが抱きかかえます。


「始末しとけ。跡形もなくな!そいつも、その目障りなバイクも、くそったれのバイクチームどももな!!」


 一片の情けもありません。ローゼンはめっちゃ怖いです。あのホープはどこへ連れて行かれるのでしょうか。これ以上は、考えたくありません。


 でも『牛角』はこれでおしまいです。ロイくんはもう、ホープたちから脅迫を受けることはありません。ローゼンの言う通り、一気に片はついたのです。


「おい!まだいたのかこのゴミムシが。さっさと消えねえと、あのクソ牛みたいにサイコロステーキにしちまうぞ!」

 残ったコヨーテの足元にも、ローゼンは容赦なく五十口径をぶっ放しました。

「ひっ!ひい!こっ、殺さないでぇ!ごめんなさあああい!」


 いじめっ子は、這いつくばりながら路地を逃げて行きました。まーたぶん、百人のマフィアに殺されそうになったと言っても、誰にも信じてはもらえないでしょう。


「おい、小僧。てめえ、あんなクソどもにいいようにされてんじゃねえぞ」

 すべてが終わってローゼンは、ロイくんの方へ向き直りました。銃はなしです。しかし、その眼光はナイフみたいに鋭いです。ロイくんは思わず目を逸らしてしまいました。

「だがさっきはよく吠えた。それに免じて、おれを知っても始末しないことにしてやる。その代わり、後でここに来い」

 ローゼンは、はっとして息を呑むロイくんの制服の胸ポケットに、何かメモを入れました。そして、一件落着でほっとしているわたしを怒鳴り付けました。

「てめえも来い!いいな!?」

「はっ、はいい!」

 なんて言うかこの人、なんか面倒くさいです。





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