Phase.5 脅迫者の構図
「その男は、いたた…ホープ、ベガス周辺を仕切る『牛角』と言うバイカーグループの幹部だよ」
「いっ、いたたホープ!?」
「クレア、徹夜しすぎだ。コーヒーを飲みたまえ。…ホープ・ロンブーゾ、この男も今、裁判で係争中だ。罪状はごくつまらないケンカなんだが、組織犯罪対策法についての嫌疑がかけられている」
スクワーロウさんはすでに、警察から資料を取り寄せていました。それによると、ホープが裁判で係争中の相手は、すでに別の罪状で逮捕されており、取り調べ中に司法取引に応じたそうなのです。
『牛角』が組織犯罪対策法に当たる犯罪グループと立証されたなら、問題はただのケンカではすみません。組織の構成員丸ごと、逮捕されてしまいます。ホープはこの法律から逃げるために、シルヴィオと手を組んだようなのです。
つまりホープがエリザさんの裁判を邪魔すれば、シルヴィオが裏に手を回して、ホープの邪魔者を拘留中に片づけてくれます。いわゆる交換犯罪と言うやつです。
しかし問題は、エリザさんとホープの接点です。エリザさんの働くどの場所にだってあんなむっさいバイカーは、出入りできません。出現しただけで通報案件です。常識で考えてホープにエリザさんを探ることは無理なはずなのです。
「その通りだ。だから今、君が推理したように、職場の線は消える。エリザの事務所には、大企業のボスからマフィアとだって渡り合う凄腕が揃っている。腕力だけのバイカーじゃ、返り討ちに遭うのがオチだ」
「と、なると、ますます接点なんてなくないですか…?」
「あるさ。…いたたたっ…エリザ本人や周囲からは、ホープの匂いは漂ってこない。と、なると材料はそれ以外だ」
「それ以外…?」
「ただ聞き返してないで、考えるんだ。私はもう君にはそれだけの力があると思っている」
スクワーロウさんは深いため息をつきながら、ウイスキーの水割りの残りで痛み止めを飲み下しました。
「私は結論に近いところに、たどり着いた。最初に言ったように、とてもデリケートな問題だ。要はホープが情報を得たい、と思った時、いったい誰に一番近づきやすいか」
「そんな人…いますかね?」
わたしはしばらく考えましたが、やっぱり出てきません。
「いつも私を見ているだろう。…いたたたっ…単純に考えてホープが使える手は、腕力と脅迫しかない。そこにはなんらかの事件性がある。私なら、まず誰に頼るかな?」
あっ、そうか。わたしは思わず、手を打ちました。
『困ったときの警察頼みか。クレア、お前さんも雇い主に似て厚かましくなったな』
電話するなり、直球の嫌味を言われるのには、もう慣れっこです。夜勤明けのダド・フレンジーを捕まえて電話で調べごとを依頼するのは、スクワーロウさんの得意技のひとつです。
『おととい来やがれ、と言いたいところだが、もう調べはついてるよ。さすがスクワーロウだ、何もかもお見通しだったよ。おれがしたのは、やつの推理の裏付けだけさ。すぐに資料をメールで送るよ』
「助かります!」
こうしてすぐに、メールで約束のファイルをゲットです。しかしまだ、わたしは気づいていませんでした。このファイルで判明したある衝撃の事実こそ、スクワーロウさんが抱えていた難問の正体だったのです。