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Phase.3 敏腕弁護士エリザ・ギンスバーグ

(ハードボイルドな案件…)

 しかし、後から考えてみると、だんだん、やる気が出てきました。ついにこのわたしも、ハードボイルドな事件を任せられるときが来たのです。がんばらなくちゃ。これはスクワーロウさんが激励してくれた通り、びしっ!とキメてくるしかありません。


 とは言え、相手が弁護士さんなのに、ハードボイルドとは、どう言うことなんでしょう…?もしかして、怖い弁護士さんなのかな。わたしくらいの若輩リスが行くと、「小娘が!おととい来な!」とか言われて追い返されたりするのでしょうか。


 で、訪れたのは、わたしたちの事務所から数ブロック離れた一角にある法律事務所です。わたしたちのボロ…いや、年代物の事務所と比べるとやっぱり立派な三階建ての事務所で、立地も裁判所の近く、よくみると一等地です。


 こうしていてもカバンを持ったスーツ姿の人たちがひんぱんに出入りして行きます。ボスがいて、沢山の弁護士さんをあわただしく使っている。流行っている法律事務所の典型的な姿です。


 そんな中、わたしはスクワーロウさんからもらった資料ファイルを入れたカバンを抱えながら、行き来する人たちの顔ぶれをうかがっていると、いきなりわたしの目の前にぬっと、白いキツネの手が差し出されました。


「あなたね!ようこそ、わたしエリザ・ギンスバーグ、あなたがクレアさんね?」

「は、はい!よろしくお願いいたします!」


 わたしは、思わず、あわててしまいました。

 高価そうなスーツに身を包んだエリザさんは、どこからどう見てもハイスペックなビジネスウーマンと言う表現が似合う人でした。


 ふかふかの毛並みは、抜かりなく手入れされていて雪のように真っ白です。切れ長の瞳の動きの鋭さは、同性のわたしでも思わずどきっとしてしまうくらいかっこいいです。


「スクワーロウさん、お怪我されたんですってね。大変ですね。…申し訳ないけど、これからすぐお仕事に出たいの。用意はしてきてくれたのかしら?」

「は、はい。スクワーロウさんからは一応、引継ぎは受けてますけど…」

 エリザさんは上から下までわたしを値踏みするように周到に眺めると、

「OK…じゃあ、遅れないようについてきてね」

 と言って、あとは後ろも振り返らずに歩き続けます。

「さ、タクシーを拾うわよ」

「くっ、車に乗ってきましたけど!」

「そんなもったいないことしないで。そう言う契約だからいいの!」

「ひっ」

 わたしは、あっという間に荷物と一緒にタクシーへ載せられてしまいました。


 それからは裁判所、検事局、警察、そして依頼人や関係者、同僚の弁護士さんとのミーティングなど、小刻みなタクシー移動の連発、ほぼ分刻みのスケジュールは、ぱつんぱつんでした。


 エリザさんは五人分くらいの仕事を目まぐるしくこなし、十人分くらいしゃべっています。もちろんその間、無駄話は一切なし。わたしの仕事と言えば、スクワーロウさんに渡された書類の中身を言われたまま、差し出すだけです。


 お昼は車内でテイクアウトのサンドイッチとコーヒー。しかも食べながら出来るお仕事をこなします。

「初日から大変だねえ、助手のお姉ちゃん」

 タクシーの運転手さんは慣れっこなのか、どこへ行っても決まった時間にぴたりと戻ってきてくれます。

「わたしの助手じゃないの。スクワーロウさんの」

 エリザさんはコーヒーをすすりながら、言いました。

「ああ、じゃあ探偵さんか。じゃ余計大変だ、この人のお守りは」

 わたしは目を丸くしました。

「お守り?」

「ああ、まだ依頼内容を話してなかったわね。ごめんなさい」

 と言うもののエリザさんは仕事に集中しだして、いつまでも、本題に入る気配がありません。

「…わたしってまだ、お仕事してなかったんですか?」

「役には立っているわよ。警察官の経歴があって、中々出来る人だって聞いてたから。さすが、スクワーロウさんの紹介ね」

「わたし、何もしてませんけど…」

 やったことと言えば、カバンから書類を取り出すことぐらいです。

「大丈夫。ゆっくり話す時間は、出来るから。十八時まで待って。ボスとはそう言う契約なのよ」

「十八時…ですか?」

 わたしは時計を見ました。確かに怒涛の勢いでここまで来てしまいましたが、言われてみればほんのあと一、二時間程度です。

「夕方は、お店を予約してあるのよ。息子を紹介したいから。お近づきのしるしにも、ぜひご馳走をさせて」

 エリザさんはにっこりと笑うと、あとは元のようにハードワークに戻りました。





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