Phase.2 任せられたハードボイルド
まず初めに行ったのは、スクワーロウさん担当のお仕事の整理です。スクワーロウさんは現場第一、信頼と実績のハードボイルド探偵ですから、着手中の案件は山ほどあります。
この中からどうしても無理なものはやむを得ない事情をお話しして一時、キャンセルを入れますが、わたしで用が足りる仕事なら片っ端から、報酬にしていきます。
調査のお仕事などのいくつかは、もう報告書を上げるだけのものがいくつもありますから、これはわたしの得意分野です。
「よしっ、今晩は徹夜です!」
これで報酬化していないお仕事は、みんな片付きました。契約業務の終了と、月末までの支払日を依頼人に確認して、ホワイトボードから消していきます。
ここだけのお話ですが、書類仕事が苦手なスクワーロウさん、すぐ仕上がるのに現金化していないお仕事が、割りとありました。これで入金が確認できれば、今月はうちの事務所も少しは楽になるはずです。
「ほら!やりましたっ、黒字ですよ、スクワーロウさん!」
「ああ…ありがとう…クレア、でも、あんまり頑張りすぎなくていいぞ…」
「そんな、スクワーロウさん!たまにはわたしを頼ってください!」
わたしの尊敬するスクワーロウさんなのです。スクワーロウさんの言うハードボイルドのことは、まだちょっとわたしには分かりにくいですが、わたしに出来ることから、こつこつと、なのです。と、わたしの目にスクワーロウさんが抱えているファイルが目に入りました。
「それ、なんですか…?」
「いや、これは…君が担当しなくていい。デリケートなケースなんだ」
と、わたしを気遣ってくれるスクワーロウさんですが、見ていると気の毒なくらい、まだ腰が痛いみたいです。
「それにこの件は、待ったなしだから、私が進める。ベッドの上でも出来ることはあるからね…いたたたっ、背中痛っ…クレア、ページをめくってくれないかね?」
「もうっ、無理しないでください」
わたしは丸ごと、スクワーロウさんの手から事件ファイルを取り上げました。うわっ、すごく重いです。よく見たらこれ、公判資料の山じゃないですか。
「依頼人は弁護士なんだ、クレア。この件は、中々頬袋にナッツを詰めていけば、解決する問題じゃないんだ」
「わたしは、ナッツなんか詰めませんよう。…でも、スクワーロウさん、わたし、弁護士さんとなら何度かお仕事はしたことがありますから!」
ここへ来る前、わたしは警察官として勤務していました。当然、判事さんや弁護士さんとのお仕事にも経験はあります。それにこう言う仕事なら、書類仕事が重きをおいてくるはず。わたしが猛アピールすると、スクワーロウさんもようやく折れてくれました。
「…それなら、やるだけやってみるか。裁判が絡んでいる事件は、待ってはくれないからね。君の腕試しだ」
「弁護士さんとのやり取りなら、経験があります」
と言うと、スクワーロウさんは悩まし気に眉をひそめて首を振りました。
「私たちは警察官じゃないんだ、クレア。ただの裁判の仕事じゃない。これは実に、ハードボイルドな案件なんだよ」
「ハードボイルド…ですか?」
わたしは、目を丸くしました。
「そうだ。ハードボイルドだ。君も私の相棒なら、びしっ!とキメてきたまえ」
「は、はあ…」
よく分からないながら、わたしはうなずきました。