復活
〜全話のあらすじ〜
玄人は狼五匹と戦ったよ。
でも命奪った罪悪感で吐いたよ。
そしてナヨナヨに萎えたよ。
...っと言った所でティムさんが通り掛かったよ。
...俺、こんなに「よ」とか言ってたっけ...
「てぃ、ティムさん...」
「む?おう、お主の後ろに落ちているのは全て、ハウルウルフかの?なるほどの、冒険者になって早々クエストを受け、成功させたのか。なかなかの腕じゃな。」
「あ、有難う御座います...でも、もう、俺...」
「...ふむ、何か事情が有りそうじゃな。...そうじゃ、お主が受けたクエストは討伐物か?それとも狩猟物か?」
「え?あ...狩猟です。」
討伐クエストは、目当ての魔物を倒して、その討伐証明部位を持っていけばクエスト完了になる。
何故なら討伐クエストの目的はその魔物が起こしている問題(街道を塞いでいるなど)の解決が目的で、魔物そのものは二の次だからだ。
「ほほう、してお主、このハウルウルフ達をどうやってルールリアンまで持っていくつもりじゃ?」
一方で狩猟クエストは、指定された魔物部位(皮や肉)を得るのが目的なのだから、当然魔物自体を持って帰らないといけない。
どうやって持って帰えるのか考えてなかったな...
一匹一匹が鼻先から尻尾の先までで二メートルは有りそうな狼が、五匹だもんな。
あ、ボスはそれよりも少し有りそうだし、あと、あの子供は......
...
「...まぁ、なんとかしますよ...」
「そう言うでない、儂が運んでやってやろう。」
「え?いえ、良いですよ。わざわざティムさんの手を煩わせるようなことでもありませんし...」
「そう言うでない、ささ、手伝え」
そう言うと、彼は一匹の狼を持ち上げて、空だった荷車に運んでいく。
...こりゃ抵抗するだけ無駄だ。
そう悟って、俺も狼を一匹持ち上げて、ティムさんの荷車に運んでいった。
とても、重い...。
ティムさんは何も聞いてこなかった。
ただ、俺が喋るのを待っていた。
そして、荷馬車の荷台に揺れながら、俺は喋った。
初めて魔物と戦った事を。
虫以外を初めて痛めつけ、殺した事を。
魔物たちが思っていたよりも遥かに生きていた事を。
それで、もう殺しは嫌で、冒険者をやめたくなった事を。
ティムさんは一度も喋らず、静かに聞いてくれた。
やがて、俺が語り終わった事を察すると、ティムさんはそっと話しだした。
「...儂は、冒険者じゃない。冒険者になったこともない、ただのしがない開拓民じゃ。じゃが、魔物を殺したことはある。いくら安全と思われた土地でも、いざ開拓してみると、必ず魔物は襲ってくるものだからじゃ。当然じゃ。人間は弱い。そんな餌が近くに住み着いたなら、魔物が襲ってくるのは当然じゃろう。」
最初にルールリアンの街まで送られた時、俺は遠く東の国から来たからこの国のことをよく知らないと説明したのもあってティムさんにに沢山の常識は教えてもらったけど、以外にもティムさん自身についてはあまり聞かなかった。
初めて聞く、ティムさんの自分語り。
「勿論、開拓当初は冒険者達も居て、魔物と戦うのを助けてくれる。じゃが現実的に良くて半年雇うのが限界じゃから、それ以降魔物が襲来したら自分達で村を守らねばならぬ。まぁ、今となってはそう言う間引きの殆どは村の狩人や若い衆が担当してくれるが、若い頃は儂も魔物と対峙していたもんよ。むしろ、動物より先に魔物を殺したかもしれんの。」
「今でも覚えちょる。最初に殺した魔物は、グレイラットっちゅうでっかいネズミじゃったわい。初めての開拓中に大群で押し寄せてきて、冒険者達も頑張っとったが、いかんせん数が多くての。当時は儂も若かったもんでの、桑を持って応戦したんじゃ。そして走ってきたグレイラットを桑で思いっきり横から叩きつけてやったんじゃ。すると、グレイラットは吹っ飛んで行ったわい。そして、一回地面で跳ねて痙攣しながら死んだ。」
「その時はびっくりしたわい。それまでは魔物とは恐れるべき魔性の怪物だと聞かされておったからの。なのに対峙してみれば、Fランクの魔物なんてただの生き物じゃったわい。桑の一撃で死に、その死を報いるかのように他のグレイラット達が狙いを儂に変えて向かってきた。その後の事はただ死に物狂いで暴れておったかだけだかららよく覚えちょらんが...後に残った儂が殺した数々のグレイラットの亡骸を見て、吐いたのは覚えちょる。」
...重いな...
でも、実際、魔物なんて動物とそう変わらないし...
精々、魔石を持って空気中から魔素を取り入れらるくらいの違いしかないらしい。
なのに、なんでわざわざ魔物を殺さなくちゃならねぇんだよ。
「やっぱり俺はもう...冒険者は...」
やめたい。そう言おうとしたが...
「じゃが、あの日のことを悔いてはいない。」
ッ!!
「人間は魔物を殺す。じゃが、それは魔物も同じじゃろう。それに、魔物同士でも殺し合いはするし、人間同士でも殺し合いはするであろう?」
「そ、そうだけど...人間が魔物を殺す理由のほうが私欲的ですよ」
「まあたしかに、魔物を敷物などにしたがる貴族などはいる。じゃが、それ以外は肉を得るためか毛や皮、骨を得るためじゃろ?それらの目的も大抵はその魔物の部位を使い防具を作り、結果的に冒険者達が死ぬ数を減らすためじゃろうて。そもそも、なぜ魔物は人間を襲うと思う?」
「...人間が弱いからですよね?さっきも言っていましたよ。」
「うむ、半分正解じゃな。じゃが、弱い生き物を狩るだけなら普通の鹿や兎を狩れば良かろう?...魔物が人を襲うのは...人に毛が生えていないからじゃ」
「ッ!」
「実際、魔物の前に毛深い男と毛を剥いだ羊を並べると、大抵の場合魔物は羊の方を襲うらしい。」
「...」
「魔物の理由のほうも十分に私欲的じゃとおもうがの。」
「で、でも...に、人間は魔物の住処を開拓して生息域を増やすじゃないですか!」
そう。
人間は、もうすでにあるだけの土地で十分暮らせるのはずなのに、魔物の住む土地を侵略し、人間の住む場所を増やす。
もの○け姫の如く。
これは、純然たる人間の我儘だー
「魔物だって人の住む土地に侵略する。」
「え?」
「ここユーランド王国でも、残念ながら年に二、三の村が魔物達の住処になる。これも、多くは魔物の群れが分裂し、新しい群れが新天地を求めて人の領域を襲うからじゃ。」
...ッ。
「むろん、儂ら人族が絶対に正しいとは言わぬ。じゃが、この世はいつでも弱肉強食なのじゃ。とは言え、お主が戦う理由は無い。じゃが、じゃが人間の生存率を上げている大きな要員は、冒険者にあるのじゃ。冒険者が戦い、魔物との最前線に立ち、人の世界を守ってくれていなかったら人類はとうの昔に魔王や魔物達に乗っ取られておったじゃろう。そして、お主には力がある。最初から職業が【剣士】じゃったんじゃろう?そんな逸材、滅多におらんものじゃ。王の直営近衛隊にもそう言う逸材が多い。無論、騎士や兵士になるのも立派であろう。じゃが、実際最も血と汗を流して人類を守ってきたのは、冒険者達だと儂は思う。」
...
はぁ。
なんか、爺さんに言われて、スッキリした感じだ。
勿論、まだ魔物を殺すのには忌避感があるけど...
「...はぁ。爺さんって、本当は何者なんだ?」
「フォッフォッフォッ、ただのしがない開拓民じゃよ。」
「そんなわけ無いだろ。...いつか、教えてくれるか?」
「お主が最上のSランクになったら、教えてやっても良いがの〜」
「はぁ!?そんなんいつになるんだよ?!爺さんそれまで生きてられるか?」
「期待しておるぞぃ」
「ったく、しかたねーな」
ナヨナヨ系主人公って、あんまり好きじゃないんですよね。
結局魔物とか殺しますし。
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誤字、脱字、その他諸々の難点をお教えください。
全て読み、善処します。
読んでくれて有難うございます。