転移して初めての文明と冒険者ギルド
「見えてきたぞい、ゲント!」
「え!あ、はい!」
荷馬車の後ろに座っていたから気づかなかった。
慌てて馬車前方を見ると...
「おおー!!」
小山の上から見下ろすと山に囲まれた窪地の中に広大な草原と、美しい川と、見事な穀倉地帯と、その中心にそびえ立つ壁に囲まれた街があった。
漆喰と木でできた家々が並ぶまさしく中世ヨーロッパ風の名に相応しい町並みが、頑健そうな石の壁に囲まれている。
建物の中で一番高いのは三階建てぐらいか。
街を取り囲むように広がる穀倉地帯の様子を見るに、今の時期は夏くらいか。
青々とした稲穂が風に揺れて波打っている。
本当に、清々しいほどの異世界だ。
「フォッフォッフォッ、儂の息子に初めてこの丘の上からルールリアの街を見せた時も今のお主とおなじようにたまげておっわたわい。こんな大きな街が村からこんなに近い所にあったのかーとの。」
「はい、凄いです!」
まぁ「大きな街」と言う表現には首をかしげかねないが。
現に人口も二万人くらいだろうし。
いや、この世界だと多い方なのか?
「ゲントよ、見よ。正門の両脇に三階建ての大きな建物が二件見えるじゃろ?」
正門は俺たちが今行っている道の先に見える門だ。
「はい。」
「その儂らから見て右側の建物が冒険者ギルドじゃ。どの受付からでも冒険者登録できるぞい。」
「はい!」
ちなみにこの街は初心者に優しい、所謂「始まりの街」の様な所なのだそうだ。
だからこのルールリアンの街の近くで木刀を下げて途方に暮れていた俺を見て冒険者志願が道に迷ったのだろうかと声をかけてくれたそうだ。
...何やかんや言っても俺も冒険者になりたいのかな。
不本意ながら、ワクワクする。
この事は道中でたくさん話しているうちに聞いた。
彼はティムさんと言うそうだ。
「それで、冒険者ギルドと大通りを挟んで反対側に見えるもう一軒の大きな建物が、儂が向かう商業ギルドじゃ。そこで荷物を下ろす手伝いをしてくれたら、後はそのまま通りの反対側の冒険者ギルドに行けい。してお主、登録費は持っておるか?銀貨三枚じゃが、足りぬなら貸すぞ?」
「あ、有難うございます。ですが、何とか足りてます。」
「フォッフォッ、足りているのなら問題ないの。」
ー✦ルールリアンの街 正門近く✧ー
「どっこいしょ、ふぅー、これで終わりですか?」
「おー、それで最後じゃよ。ありがとうのう。ほれ、人参でも持ってけ。洗っといたぞい」
「?ありがとうございます!」
人参って生で食べられるんだな。
...野菜スティックの人参は生か。
俺は人参を齧りながら商業ギルドから向かいの冒険者ギルドに向かった。
そして両開きのドアを開けようとして、手が止まった。
勿論、片手が人参で塞がっていたからではない。
ちなみに木刀と財布はベルトに挟み込んだ。
ただ、あの冒険者ギルドの名物的なアレを恐れての事だ。
剣道を習っていたから多少の対人戦の心得はあるが、だとしても本当に戦ったことなんて無いし...
あ、だったら冒険者を志願するって言う方がおかしいか。
覚悟を決めて、両手で(考えている内に人参は食べ終わった)ドアを開けて中に入ると――
...
...特に何もなかった。
他の建物同様木と漆喰でできた冒険者ギルドだが、太い漆喰の壁と柱のせいか、向かいの商業ギルドより頑健に感じる。
入って右側の壁には大きな板がかけてあって、そこには大量の同じような紙が貼ってあった。
クエストボードだな。
んで左側は酒場かな。
意外と、酒を飲んでいる人はいなくて、多様な種族の人々が頭を突き合わせて話し合っている。
本物のエルフやドワーフや獣人だ...
スゲェ...
そして入って正面が受付か。
そのまま、一番空いていた受付の列に並ぶ。
おお、リアル受付嬢だ。
「はい、次の方」
「あ、俺です。」
「ご用件は何でしょうか?」
「冒険者として登録したいのですが...」
と言いながら同時に銀貨三枚を出す。
「新規登録ですか。登録費...もありますね。では、こちらの紙の空いている所を出来る限り埋めてください。代筆は必要でしょうか?」
「あ、いえ、多分大丈夫です。」
カウンターだと後ろの人に邪魔だから、近くのテーブルまで紙を持ってく。
これが所謂羊皮紙か?
...ちょっと黄色い以外、あんまり普通の紙と違わないか?
っとそれよりも、さっさと終わらせちまおう。
お、読める。
えっと...
...
名前と年齢と性別と種族と職業しか書く所がない。
本当にこれだけでいいのかよ...うん?
「あの、ちょっといいですか?」
仕事が一段落したそうな受付嬢さんに聞く。
「はい、なんでしょうか?」
「俺、実はまだ無職でして...」
「あら、そうですか。木剣を持っていたのでてっきり見習い剣士だったたのかと...あ、そうだ、ちょっと待っててください」
そう言い残して、彼女はギルドの奥に行ってしまった。
と思ったら三十秒位で戻ってきた。
水晶を持って。
「これって、まさか...」
「?鑑定晶です」
おお、これが...
「手を添えて力を通せば良いのか?」
「いえ、手を添えるだけで十分です。」
結果。
『剣士ノ才能アリ」
...
「これだけですか?」
「はい。それで、就職についてはお考えですか?」
「いえ」
「その場合は、定期的に中庭でギルドの教官が新人冒険者や冒険者志願者を鍛えるのでそれに参加なされば...あ、今日もありましたね、演習。」
「え、そうなんですか?」
「ええ、あと五分位で始まりますよ」
オッシャア、ご都合主義発動!
「じゃあ、職業以外を書いておきますね。」
「はい。一応無職でも冒険者登録はできますが、そういう方も後々殆どの方がすぐ何かの職業に就くので、登録前に職業に就いてもらったほうがギルド側としてもギルドカードを改善しない済むので助かります。」
ちゃちゃっと職業以外の項目を埋めて受付嬢さんに預かってもらい、中庭に向かった。
誤字、脱字、その他諸々の難点をお教えください。
全て読み、善処します。
読んでくれて有難うございます。