不要命回収車
「不要な命はありませんか」
死人のような肌の色をした男が、マンションの一室を訪ねた。
帽子を目深に被っているので表情はわからないが、声色は陽気だ。
応対に出たその家の女房は、早速家の中に戻ると、小さな箱を持ってきた。
「うちの台所に出たネズミです、引き取ってください」
男はそれの匂いを嗅ぐと、何か言いたげに口を噤んだ。
しかし、これ以上いても仕方ないと思ったのか、一礼すると去ってしまった。
一つ気持ち悪いものが消えたと喜ぶ母親。
だが休んではいられない。
台所からは、母を呼ぶ息子の声がする。
彼女は急いで戻って、呑気な様子で何事かと聞いた。
「ねえねえ、僕のポンたろう知らない?」
「ポンたろう?」
「友達から昨日貰ったハムスターさ」
「不要な命はありませんか」
病気としか思えない白い肌の男が、アパートの一室にやってきた。
目が今にも飛び出しそうなくらい痩せ細り、頭頂部はハゲている。
そう聞いた金髪の青年は、少し考えたあとで家の中を探り、発泡スチロールの箱を持ってきた。
中身を見ると、そこには生まれたての赤ん坊がいた。
「ああ、ダメですよ、死んでるのは」
そう白い肌の男がいうと、金髪の青年は目を真っ赤にして怒った。
「良く心臓の音を聞いてみろ! 虫の息で生きてるだろうが!」
「不要な命はありませんか」
人間とは思えないような、青い顔をした男が一軒家を訪ねた。
誰か遊びにきているのか、家の中がどうもやかましい。
一家の心の支えである肝っ玉母ちゃん。少々思案した後、手を叩きながら家の中に戻った。
そして、鼻水を垂らしながら大暴れしている少年を一人捕まえて、客人によこしてみせる。
「何すんだよ、母ちゃん!」
「勉強もしないで人の財布から金取るような奴は、不要だから引き取ってもらうんだよ」
「ひでえ、イクジホーキだぜそんなの!」
「うるさい。貧乏神が宿ってる父ちゃんだけでも大変だってのに、飯食って金取るばかりのアンタは邪魔なのよ! 早く連れて行ってください」
「ウソだろ? おい、母ちゃん! 母ちゃん! うわあああああああん!」
とりあえず引き渡されたので、男は躊躇なく子どもを連れて行った。
「不要な命はありませんか」
どう見ても白骨にしか見えない老人が、大きな屋敷を訪ねた。
召使らしい男が対応すると、まず主に相談すると言って戻っていった。
数分後、召使は台車に乗せて何かを運んできた。
ブルブルと震えるそれは、少し恰幅の良い、下着姿の男だった。
「坊ちゃんは引き篭もりでして……これ以上家に居座られても邪魔だから捨てろ、と」
召使はハンカチで涙を拭いながらそう言った。
白骨のような老人は、貰い泣きしたのか鼻水を拭うと、その台車を引き取った。
坊ちゃんはタダ震えるだけで、何も抵抗しなかった。
「不要な命はありませんか」
今にも解けて消えてしまいそうなくらい陰気な女性が、二階建ての家を尋ねた。
それを聞いた婆さんは、嬉しそうに家の中に戻ると、一匹の子犬を差し出した。
女は、少し不思議そうな顔をしたが、それが躊躇っているように見えた婆さんは、途端に喚き始めた。
「朝から晩までキャンキャンうるさいし、人の食事は盗むわ大事なものは噛み壊すわ。あげくにトイレもなかなか覚えないし、そんなバカ犬邪魔なだけで、うちにはいらないんだよ!」
その騒ぎを聞きつけて、家族全員が集まった。
事情を聞いた途端、父親が顔を真っ赤にしながら婆さんを殴り倒し、女性から子犬を取り返した。
中学生の長女と小学生の長男が子犬に駆け寄り、母親も心配そうに腰をおろした。
「不要というならババアの方だ! いつまでも寄生虫みたいにウチで文句垂れやがって!」
「なんだって? アンタ、母親に向かってそんな口を叩くのかい!」
「うるせえ! もうババアのせいでストレス溜めるのはうんざりだ! おい、コイツを引き取ってくれ!」
女性はそう聞くと、老婆を羽交い絞めにした。
「コラ! やめなさい! 誰が今まで育ててきたと思ってるの? やめなさい! ぎゃあああああ!」
背中に膝蹴りを食らった婆さんが、ガックリと力なくうな垂れる。
そして一家は、自分の家に老婆などいなかったかのように笑いアウト、自宅へ戻っていった。
「不要な命はありませんか」
道端で、変に猫背になった少年が女性に聞いた。
化粧が濃い女性は少し考えると、思いついたように目を光らせて言った。
「うーん、とりあえずこの国の政治家じゃなーい?」
そう聞いた少年は、携帯電話で何か連絡し始めた。
途中、仲間の不要命回収車に乗り込むと、運転手に行き先を指定した。
「永田町行って」
全国各地の不要命回収車が、国会議事堂へと向かっていった。
それから、各地で集まった不要命は、回収員によって動物と人間に区分けされた。
自然に戻れそうな動物は自然に帰した。
彼等妖怪にとって、動物の魂はあまり力にならないから、人間が少ない時にしか必要ないのだ。
だから、人間がたくさん取れた日は、こうして野に放たれていく。
残った人間達は檻に入れられ、ある部屋へと迫る壁で強制的に誘導された。
その部屋の名前は、ドリームルーム。
人間達はガス室で殺されて、新鮮なままの魂を抜かれて、美味しく頂かれるのだ。
知ってください。不要ペット回収車。
http://www.shomei.tv/project-345.html
とまあ、憤りだけで書きました。
もっと上手く書けたんじゃないかと思うと悔しいので、また別の形で書けたらいいです。