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星に願いを

キラキラと輝くフロアをリオン様とソフィーが踊っている。リオン様の紺色のマントに相対するソフィーのレモン色のドレス。二人は夜空とそれに浮かぶ星の様にぴったりと似合っていた。

ああ!素敵!

このスチルを見た瞬間、私はリオン様の虜になったのだ。


「お姉さま、顔。ヤバイよ」


セリの冷静な声に我に帰る。どうやらかなりニヤけてしまったらしい。


「だって素敵なんだもの〜」


「お姉さまと殿下の方が良かったと思うなあ」


セリアは不満気だ。


「ソフィー様だってこれからダンススキルを上げてくるわよ。そしたら私なんか足下にも及ばないわ」


まだゲームは序盤だ。これからソフィーは攻略者に合わせてどんどん成長していく。その成長のベクトルをリオン様の方にするのが私の役目だ。


「あ、二曲目踊り出した」


セリアが呟く。


「よっしゃ!」


私は思わずガッツポーズをする。


「どうしたの?」


「二曲目を殿下が了承するのはかなり好感度が上がっている証拠よ!」


基本的に婚約者がいる人は婚約者以外の相手とは二曲以上踊らない、というのは暗黙のルールだ。それを無視して踊るという事は、それだけソフィーに気があるということ。


「ふふふ…やるわね、さすがヒロイン!」


「お姉さま、顔」


いけない、いけない。またニヤけてしまったわ。このまま、ここにいるのはマズイわね…私の令嬢としてのイメージ的に。


「ちょっと中庭に出てくるわ…顔落ち着けて戻ってくる」


「じゃあ、私飲み物取って持ってくよ」


セリの申し出をありがたく受けて、私は外に出た。


中庭はパーティ会場とはうって変わって静かだ。会場から漏れた光と、月の光だけが中庭を照らしていて、落ち着く。


学園の設備のひとつとはいえ、来たのは初めてだったな。 学校の一部とは思えないほど、整備された中庭は月の光のおかげで神秘的に見える。


白の大理石で出来たあずまやを見つけて中の椅子に腰掛ける。あずまやの周りには季節の花が植わっていて、昼間に見たらきっと華やかだろう。


「あれ?前にもこんな事あったような…「お前がパーティ中に何処かに行くのは日常茶飯事だからだろ」


「ひゃあ!」


突然後ろから響いた声に飛び上がる。


「リリリ、リオン様…」


びっくりした。


「何してるんだ?こんな所で侍女もつけずに」


「少し会場の熱気に当てられてしまって…セ、サリーは飲み物を取りに行ってくれてますわ」


私の返事にリオン様はふーんと興味の無さそうな反応をすると、私の隣に腰かけた。


「リオン様はいいのですか?ソフィー様と踊ってらしたのでは?」


「あれは、彼女が踊り慣れていないから指南してやってくれとソルガに頼まれたからだ」


リオン様は苦い顔をして答える。


「ソフィー様、慣れていないとは思えないくらいお上手でしたわ」


二人のダンスを思い出すとニヤけそうになるので、頑張って堪える。


「何だ?イヤミか?」


リオン様がニヤリと微笑む。


「へ?嫌味?…ああ!あの、そうとも取れてしまうのですけど、違うんです!」


慌てて弁解したけど、私は悪役令嬢なんだから弁解しない方が良かったかしら?ムムム…


「分かってる。まったく、こういう時は嫌味の一つも行って欲しいもんだな」


「え、リオン様は嫌味を言われるのが好きなんですか?!」


「違う。俺が好きなのは嫌味じゃなくて「ですよねー。びっくりしました」


リオン様実はMなのかしら、とか思っちゃった。


「あ、リオン様何か言いかけてましたか?」


「…何でもない」


こういうのを苦虫を噛み潰したような顔って言うのよね。どうしたのかしら?


しばらく二人で黙って座って星を眺めていたら思い出した。


「そういえば、初めてリオン様とお話した時も夜の庭園でしたね。」


学園じゃなくて、王宮のだけど。


「あの時も、お前はパーティを抜け出していたな」


「違いますよ。あの日はパーティ中に何処かに行ってしまったリオン様を追いかけたんです」


私の言葉に何を思い出したのかリオン様はクツクツと笑った。


「どうかしましたか?」


「いや、何でもない。あの日は確か、星爛祭の日だったな」


星爛祭とは、夏に行われるこの国の習慣のひとつで、確実に七夕をモデルにしているであろう行事だ。

七夕と違うのは願いを書いた短冊を竹には吊るさずに、そのまま火に焚べる所だろう。


「そうでしたね。お願いごとの話をしたのを覚えています。」


「今年も同じ願いを書くのか?」


「はい!リオン様の無病息災、学業成就、家内安全、恋愛成就を祈願します」


「…増えたな」


「これでも抑えた方です」


堂々と宣言する私にリオン様は笑った。乙女ゲームのスチルに出てきた王子様然とした笑顔でも、見るものの心臓を凍らせる冷笑でも、外交の時の作り笑いでもなく、くしゃっと溢れるような笑顔。私が大好きな笑顔だ。


この笑顔の為なら何でもできる。リオン様が大好きな人と結ばれて、こんな笑顔を浮かべ続けられるような未来以外、私はなんにもいらない。


「アリア」


リオン様がグイッと私の頰を抓った。


「なにひゅるんでふか!」


せっかく人が感傷に浸っていたというのに、台無しだ。


「俺がここにいるんだ。余計な事は考えないでこっちを見ていろ」


リオン様が真剣な目で私に告げる。


「リオン様は時々変なこと言いますね」


「お前が変な顔するからだろ」


「私を変な顔にしたのはリオン様じゃないですか!もう、乙女の柔肌を抓るなと何回言えば分かるんですか!」


リオン様の笑い声が庭園に響いた。


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