宮廷画家の竜1
この作品のスケールは、だいたい10万文字くらいになります。
過去に書いたもので、すでに完成済みですが、サイトへ上げるための修正の時間が取れないので、いっきに投稿することができません。申し訳ありません。
dragon in the court painter
1
わが国の王は、国中の絵描きに竜の絵を描かせるように命じた。陛下の眼鏡にかなった画家がいれば、新しく築城される城の謁見室の壁面へ竜を描く権利を得られるというらしい。竜を描かせたがる陛下の意図は、わからないが、絵描きにとって、これほど名誉なことはない。その命に私の雇い主も浮き足立った。
私の雇い主は、古い家計の貴族で立派な領地を持っていた。彼は、美術品に目がなくて、私のような画家を募っては絵を描かせた。趣味がこうじて、推挙した画家が竜を描く権利を得られるとなると、陛下からの大きな信頼を寄せられるだろうということで、私をはやしたてた。
私は、竜というもの描いたことがなかった。書物では、読んだことがある。伝承の竜といえば、邪悪の象徴で人々を脅かす巨大な怪物の一種だ。大昔には、そんなものが空を飛び回っていたかもしれないけれど、今では、それで与太話を楽しむ人間もめずらしい。私は、さっそく書物を読み漁り、竜の絵を描き始めた。しかし、何度描き出しても、満足に描き切ることはできなかった。
さらに私は、国を旅して、竜の伝承を追った。そして、国境近くの異教の残る村々に竜の骨の一部が奉じられていることを知り、竜の骨を見ることができた。地元民の話によると、それは、竜の羽根を支える肩から翼にかけた骨だという。想像したものとは違って、私の身長ほどもない大きさであるが、小さくても、その骨の輪郭は、美しかった。
私は、何枚かの絵を仕上げることができた。空を隠すいかめしい翼、動くだけで地鳴りを起こす巨体、裂けた口から飛び出た鋭い牙、腫れぼったいまぶたにはまった冷たい目。それでも、自分の絵に納得することはなかった。私は、取り付かれたように竜について、調べるようになった。
聞き込みで民間伝承を集めている時、船乗りが話す噂を耳にした。新大陸へ遠征している蛮族掃討の兵隊が、竜を見たというのだ。船乗りは笑い飛ばしていた。だが、私は、いてもたってもいられなくなった。私は、この目で竜を見て、描きたかった。
私は、雇い主に新大陸へ渡りたいと頼み込んだ。彼は、私の考えを狂気の沙汰だと言った。私は、「本物を書きます。今度、竜を描く時は、城の壁です」と言い切った。恥ずかしい話では、あるけれど、その時は、陛下に見せる見本の絵を描くことも忘れてしまっていた。雇い主は、自分が竜を描くことをすすめたこともあってか、引くに引けず、旅費を工面してくれた。竜の壁画を描ける画家は、まだ現れてはいなかった。