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いや、それは煌めいたというより、おれの姿を見てすぐに目をそらしたといったような格好だった。
おれはすぐに光の元を目で追いかけ、正体を突き止めようとしたが、既にその2つの光は消えていた。
「それでは!! 本日はありがとうございました!!
お疲れ様でしたあーーーー!!
カンパーーーーイ!!」
都内の居酒屋、本日の同人誌イベントの成功を祝し、打ち上げの飲み会が行われる事になった。
「一緒に行きたーーい!!」
などとのたまった未成年のバカ妹は当然、追い払ってやったが。
サークル主の栄美が代表となり乾杯の音頭を取っている。
それはいいんだけど、キャミソール姿でジョッキを高々と上げるなよ。
その無駄にデカい真っ黒に日焼けしてるおっぱいがキャミソールからこぼれ落ちるぞ。まあ本人がそれで良しとするなら良いのだが。
……イヤ良くないだろ。男性スタッフも何人かいるんだから。
「いやあ、今日はいつもに増して沢山の参加者さんがいらっしゃってくださって……。これもホント、祐樹にいのおかげだよ。」
「おれ何もしてないって。全部栄美の挿絵効果だろ。」
等と言いつつ、内心おれはホクホクだった。
まず、おれの出した小説本300冊がなんと完売した。
栄美の挿絵効果、つまり栄美のイラスト付きなら何でも買うというタイプのお客さん(ここでは「参加者さん」と呼ぶらしいが)も多かれ少なかれいたとは思うが、おれ目当てで来てくれたお客さんに沢山声を掛けられたし、ちゃんと小説をパラ読みして買って行ってくれた人達もいた。
……何か、これならまたラノベ作家としてやっていけるかもしれない。
たったの300冊、されど貴重な300冊だ。おれにはファンがいる。応援団長のmamiさんも。
まあその割にはツイッターのフォロワさん少ないけどな。
「またまたあ!! 自信付けちゃったんじゃないのー!?」
「んなことねーよ。ま、何とか完売にこぎ着けたのは素直に嬉しいけどさ。」
勘の鋭い女だ。
内心のホクホクを誤魔化す為にフッと流し目で笑ってやったら、栄美は瞳をキョドらせて黒い肌を少し赤くさせた。
ビールの飲み過ぎか。あんまり飲んでないのにこいつ見た目によらず結構酒に弱いんだな。
おれは栄美のジョッキを奪い取り景気付けにゴクゴクと飲み干してやった。
何故か栄美の黒い肌がますます赤くなった。黒いから分かりづらいが。
スマホを取り出し、ツイッターのチェックをする。
「イベントも無事終わって、今打ち上げです。来てくださった皆様、ありがとうございましたm(_ _)m」
mamiさんの真似をして顔文字なんかを付けてみる。
……するとすぐ、mamiさんからメッセージが届いた。
「亜流先生お疲れ様でした〜(^^)/ 今日は結局立ち寄れなかったですゴメンナサイ(>人<;) 本、もう売れ切れちゃってますでしょうか!?;_;」
やっぱり、来てくれなかったのか。おれは溜め息をついた。
「お陰様で一応完売したんですが、手元に何冊か残してあるんで大丈夫です!!(´-`)」
「良かった……(^_^*) いつか必ず買いに参ります!( ̄^ ̄)ゞ」
いつか、ね。
おれは寂しく微笑んでスマホを尻のポケットに突っ込み、生のおかわりをした。