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  「……お前やっぱすげえんだな……。」


  『黒い悪魔』ことイラストレーター素城栄美の人気は凄まじいもので、最後列からはお台場にある某テレビ局の社屋がうっすらと見えている、と会場スタッフが告げに来た。

  ちなみにそのテレビ局は会場からかなり離れた場所にある。


  「うれしーー!! 祐樹にいが小説本出してくれたおかげだよ!!」


  と、栄美が無邪気な様子で腕に抱き付いて来た。


  「いや、おれじゃなくてお前が凄いんだって。」


  おっきな胸、胸。当たってる、当たってる。どうでもいいけど。


  おれの唯一の友人である聖良はそれを横目に淡々と会計をこなしていきつつ、


  「亜流さんは最高の幼なじみさんをお持ちなのね。」


  と、どういう訳なのか冷たく言い放った。

  この暑い中慣れない事をさせられているのだからいくら普段冷静な聖良でも多少疲れを見せるのも当たり前といったところだな。


  一番売れているのは栄美の新刊イラスト本で、おれの本はと言うとなんとそれに次ぐ人気だった。

  栄美の挿絵効果は絶対あるだろうが、お客さんの中には、


  「亜流タイルさんですか? ××文庫の本大好きで読んでました。」


  といった学生風の人とか、


  「ツイッター見て来たんです。握手してください。」


  なんて言ってくれる若い女性なんかもいて大変嬉しい事だった。

  栄美もそれを見て満足気にニンマリしている。

  何故お前が満足気なのか。



  「お兄ちゃん! 来ちゃったよー!!」


 

  御丁寧な事に、妹までやって来た。おいおい、ちゃんと列に並んでくれよ……。

  他のお客さんの迷惑になる。


  「三幸ちゃん!! 久しぶりだねー!!」


  「栄美姉え、久しぶり!! お兄ちゃんの面倒見てくれてありがとうねー!!」


  妹と栄美はキャッキャウフフと再会を喜び合っている。


  「お兄ちゃんの本ただで貰っちゃっていいんでしょ? 持ってくよー!!

  あ、こちらの浴衣の女性は中嶋聖良さんですよね。私もエッセイ読んでまーす!」


  「アホか!! 栄美の挿絵の部分も料金の内なんだからな。金払えよ!」


  これがmamiさんなら勿論、おれのポケットマネーでプレゼントする所なんだが。


  急に来た女子高生のウザさに怯む事もなく、聖良は丁寧に無言でお辞儀した。


  妹は栄美と聖良を交互に見やって、何やらニタニタしている。顔は可愛く頭も良い方だと思ってたんだけど、オタクな上に不躾なやつだ。

  きっとろくな大人になるまい。おれが言う事じゃないけど。


  「何さ。あ、栄美姉え、本ありがとう!! 聖良さんもよろしくお願いします。

  じゃあねー、お兄ちゃん!! 私はこれから目当てのサークル回るから!!」


  煩い妹を追い出し、また黙々とお客さんのお相手をする。


 

  それにしても意外な事に、おれのファンの人には女性が多いという事が今回のイベントで分かった。

  何が彼女達の琴線に触れているのかは理解出来ないが、どうもおれの文章は女性好きするらしい。


  数年前売れないラノベ作家だったのも、ラノベの最大顧客たる男性ファンを獲得出来なかったからなのかと今合点がいった。


 

  (この人達の中に、mamiさんはいるだろうか。)



  おれは今一番気掛かりなその件について考え続けていた。


  若い女性のお客さんは結構沢山声をかけてくれたが、どうも


  『この人こそmamiさんだ!』


  という確信めいたものが無い。


  大学2年生。

  ヒラヒラのスカート。

 

  それくらいしか手掛かりがないから仕方ないのだが、何故かおれの中にはmamiさんに会えば必ず彼女本人だと分かるだろうという予感があった。


  「中嶋さーん、良かったら今の内に休憩されてくださーい!」


  と、栄美が聖良に声をかけている。

  聖良はコクリとうなづき、おれの本と手持ちのお茶を持って場外に消えて行った。




  ーー刹那。


  会場の、隅の隅の方で、何か2つの光が煌めいた気がした。

 

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