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付き合い始めて半年。
きっとおれは真実ちゃんに慣れ始めていたのだろう。
おれは大バカ野郎だ。
真実ちゃんと、初めてケンカをしてしまった。
理由は、おれのたわいもない一言からだった。
「真実ちゃんは、残念な美少女だからなあ」
コーヒーにミルクを入れ、スプーンでかき回していた真実ちゃんの動きが止まった。
不思議そうな表情をしている彼女。
「美少女ではないですけど、えっと、始めに何ておっしゃったんですか?」
「だから、『残念な美少女』。喋らなければ、真実ちゃんの面白さが分からないから単なる『美少女』なのに」
「え、それはその、私、喋ったらいけないって事でしょうかーー」
ここまで来てもおれは真実ちゃんの異変に気付いていなかった。
「そんな事はないよ。おれは真実ちゃんの面白い所が大好きだから」
「面白い所……?」
「そう。まるで笑いの神に愛されているかのような天然ボケな所とか」
「笑いの神……天然ボケ、ですか」
ここですぐに軌道修正するべきだった。
いくら何でも年頃の女の子に向かって笑いの神は無かった。
「……私、そんなに変ですかね」
「変って事は無いよ。ただ、女の子の友達が沢山いるのが不思議かな。普通なら、真実ちゃんて同性からハブられるタイプだと思うんだけど」
「…………」
馬鹿な事を言ってしまった。
思えばおれは、真実ちゃんにあんなに沢山の友達がいた事に嫉妬していたのかもしれない。
おれだけを見て欲しいし、実際真実ちゃんは「うそっ!!!」って程おれだけを見ているのに。
それでも、彼女に、おれの知らない別世界の人間関係があるって事にモヤモヤしていた。
何しろおれには、真実ちゃんの他に家族と栄美、聖良、おまけで渡ツネオしかいないんだから。
しかもその数少ないメンバーは全員真実ちゃんの把握してるヤツらだ。
真実ちゃんは、両のヒゲを下方に垂らして俯いた猫のような表情をしていた。
「……私、しばらく執筆作業に専念します」
「えっ!」
それはつまり、毎日おれと一緒にいてほしいって事?
彼女はおれがいなければ書けないから。
真実ちゃんはかぶりを振る。
「いえ……。祐樹さんにご迷惑はかけられませんから。何とか、1人で作業したいと思います」
…………。
それは、真実ちゃんの精一杯の拒絶の表現だったように思う。
つまり、しばらくの間おれの顔を見たくもない、と。
だけどおれは高を括っていた。
それでも、おれのツイッターに分単位秒単位で反応してくれるだろう事を。
でも、忘れていた。
真実ちゃんにはヤンデレ属性の他に頑固な所もあるって事を。
それから1週間。
真実ちゃんからのメールも電話もいいねも無かった。