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  さて、真実ちゃんとのハグは滞りなく?

  終わった。次は、チュ、チュウである。


  前までのおれだったら、真実ちゃん関係の悩み相談については数少ない友人であるエッセイストの中嶋聖良なかじませいらに知恵を貸して貰う所だった。


  だが、女性である聖良に「チュウのタイミング教えて」等と聞ける訳がない。

  しかも、おそらくは聖良も処女だろうしな。

  そういう事には疎そうだ。


  っていうか、アイツが経験済みなのだとしたら、おれはその相手によくやったと拍手してやりたい。

  だってアイツ変わり者だし。


  いずれにしても。

  真実ちゃんが、いつまで経っても手しか握ってこないおれに痺れを切らしているという事が分かった以上。

  キスは、悪ではないのである。


  だからと言って、またこの前のハグみたいに妹でキスの練習をする訳にはいかないし。

  どうしたものかと思案する。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



  ショッピングモール内にある大型書店で大量に資料を買い込み、荷物が重たいながらも折角来たのだからとビル内を散歩する事にした。


  すると、たまたま通り掛かった寝具雑貨の店で、枕のセールをやっている。


  そこでは、枕の中に入っている綿毛やらビーズみたいな物を透明のケースに入れて展示していた。

  手で触って自由に肌触りを試す事が出来るようにしているという訳だ。


  おれは何気なく、その柔らかそうな綿毛に指を突っ込んでみた。


  …………。


  (あ、何か……まるで唇に触ったみたいに柔らかい……)


  気がつくとおれは、綿毛の入った枕を税込価格1万6000円で購入していた。


  この枕で、まだ知らぬキスとぎこちなかったハグの練習をしてみようという算段だ。

  印税が入ってて良かった。


  夜。

  早速練習をする。


  どれくらいの強さで、唇を押し付ければ良いんだろう。

  また、角度は?

  目はどのタイミングでつぶる?


  世の経験無し男子の全てがやっているであろうこの練習。

  キスする相手もいないのにこんな事をするのは滑稽極まりない。

  しかしおれには彼女が出来たのだから決して虚しい練習ではないのである。

  そう自分に言い聞かせた。


  何度目かの『練習』を重ね、まだ納得がいかずにいると。


  真実ちゃんからメールが来た。


  「今夜はおやすみなさいのメールが来ないからこちらからメールしてみました。おやすみなさい!!」


  毎晩の就寝のメールはおれから送る事が習慣になっている。

  ……おれは、枕に夢中になっていて肝心の真実ちゃん本体を忘れていたのであった。


  「ごめん、ちょっと仕事してて。おやすみ真実ちゃん、良い夢見てね!」


  おれはその日に買った枕に頭を乗せ、眠りに着く事にした。

  普通に気持ち良かった。

  これこそが枕の正当な使用法である。

  ゴメンな、枕よ。

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