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  この、ラノベ作家を目指しつつもまだ1行も書いた事が無いという『初彼女』に、おこがましくもおれなりのアドバイスをしてあげながら、楽しい時間は過ぎていく。


  「SNSばかりやってちゃ、ダメですよね。分かってはいるんですけど、でも……」


  「おれのツイッターが気になってくれてたっていうのは嬉しいですけど、いや、嬉しいけど」


  真実しんじつちゃんと呼ぼう。

  臭く言うと、彼女はおれの人生に灯った『しんじつ』なのだから。


  「真実しんじつちゃん、って呼んでいいですか。『mami』さんじゃなくて」


  どうしても敬語が抜けない。


  「あ……は、はい……」


  彼女の白い頰にまたもや赤みが差す。

  おれ、今夢にまで見た(顔は知らなかったが)mamiさんと付き合ってるんだな。

  初めてラノベで大賞を取った時以来の幸福だ。

  こんなに幸せを感じるなんて、おれって今までどれだけ幸福に逃げられてたんだよって話だ。


  「これからは、ツイッターじゃなくて電話やメールで連絡だね。えーと、おれのメアドは……」


  と、あれ、ポケットにあると思っていたスマホが見当たらない。バッグの中か。

 

  おれはショルダーバッグのジッパーを下ろして、スマホを探そうとした。

  駅のホームで渡ツネオと電話したから、どこかにはあるはずだ。


  刹那、バッグの中からバレンタインチョコの入った小箱が飛び出し、足元に落っこちた。

  真実ちゃんからの物ではない。

  今朝、出がけに妹から渡された義理チョコである。



  ーー瞬間ーー。

  真実ちゃんの瞳がキラリと、いや、闇夜の猫の目みたいにギラリと光った。

  しまった、彼女は束縛も強い方なんだった。


  おれは咄嗟に説明しようとした。


  「あ、あのさ、これはいも……」


  「おモテになるんですね」


  「え? いや……」


  「亜流さん、格好いいですもんね。即売会に来た他の読者の方からですか?」


  「だから、違うって!!」


  愚妹からのだ、と誠心誠意を込めて経緯を説明すると、真実ちゃんは納得した挙句、自分の早とちりを恥じてしまっているようだった。


  彼女はシュンとして呟くように謝罪の言葉を口にした。


  「……ごめんなさい、私って思い込みが激しくて……。しかも付き合ったばかりなのにもう彼女目線になって……」


  「いや、彼女だからいいんだけどね……」


  交際1日目から、これは中々の難関だぞ。

  まだ悩ましげな表情を浮かべている真実ちゃんに、おれは提案した。


  「真実ちゃん、おれの彼女として家族や知り合い達に紹介させてよ」


  「え……」


  こうやっておれの外堀を埋めていけば、真実ちゃんだって安心するはずだ。


  妹は騒ぎまくるだろう。

  母親は喜ぶだろう。

  渡は何でお前にこんな素敵な彼女がと歯噛みをするだろう。

  聖良は、『mamiさん』こと真実ちゃんの存在を唯一知っているヤツだから、祝いの拍手のひとつもくれるだろう。


  栄美はーーちょっとは傷付くかもしれない。

  だけど栄美だって、おれに好きな子がいるって事だけは知ってるから、覚悟は出来ているだろうと。


  「決めた。真実ちゃん、これからおれの家に行こう」


  「え、い、今からですか!?」


  「今から!」


  おれは真実ちゃんの小さな手を握って、駅まで歩き出した。

  真実ちゃんはあの、あのと言いながら小走りで付いてくる。


 


  おれと彼女が付き合うまでのお話はこれでおしまいだ。

  諸兄姉に告げたいのは、恋愛にはこんな変わった始まり方もあるんだって事だ。


  心の片隅にでも覚えておいて頂ければ幸いだ。


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