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  「……私、亜流先生に嘘をついてばかりです。本当にごめんなさい」


  mamiさん、ならぬ真実しんじつさんは目を伏せておれに告白する。


  「私、自分の名前が気に入ってなかったんです。両親にも泣いて抗議しましたーーどうしてこんな名前にしたのって。

  だから、友達にもずっと『マミ』って呼んで貰ってました」


  ラノベ作家のおれの好みで言うと良い名前だと思うけど。

  でも、確かに思春期の女の子には荷が重い名前かもしれない。


  「男の子にはからかわれるし……」


  ソイツをぶった切ってやりたい。


  「そんな経緯があって、子どもの頃から内向的になっていって。自然と読書の方に傾倒していったんです」


  ラノベ好きもその一環か。


  「……高校生の時に、亜流タイル先生の御本を本屋さんで見つけて、『ペンネームにしても変わった名前の人だな』って思いました。

  それで親近感が湧いて買わせて頂いたんですけど、ヒロインの女の子が悩む姿が当時の私と重なって……」


  懐かしい。

  初代ヒロインか。


  「いっぺんに亜流先生のファンになってしまいました」


  ありがとう。


  「友達に勧めたり、ブログでお勧め記事なんかも書いたりしました」


  それは知ってる。


  「……でも、まさかこんな風に会えるようになるとは思わなかったです」



  一気に話し終えた真実しんじつさんは、ホッとしたような顔をして、紅茶をクピリと飲んだ。


  黙ったまま聞いていたおれが、やっと口を開く。


  「真実しんじつさん、なんて素敵な名前だと思いますけどね。

  おれのラノベのキャラに付けさせて頂きたいくらいですよ」


  「え、えっと、それは出来ればやめてください」


  真実さんは慌ててモデルになる事を拒否する。


  「どうしてですか」


  おれはちょっと意地悪な感じで言ってみた。


  「だ、だって……友達にも知られちゃうかもしれないし……」


  「かもしれないし?」


  「亜流先生の、他のファンの方々にも悪いです……」


  「でもおれ達もう、恋人でしょう?」


  「……!!」


  「良かったらおれと、付き合ってください」


  やっと『契約』の言葉を口に出来た。

  真実さんは大きな目を見開き、そして可愛らしい口元には微かな笑みを浮かべていた。




  喫茶店を出ると冷たい風は止んでおり、日中という事もあり2月にしてはポカポカ陽気といっていいくらいの暖かさだった。


  「近くにお気に入りの公園があるんです」


  そう言って真実さんはおれを公園デートに誘い出す。

  おれとしては真実さんの部屋の方が良いのだが、交際1日目にして女の子の部屋に上り込むなど言語道断だろう、と心中で自分を叱った。



  そこは駅近くにしては広い公園で、若いカップルや子ども連れのお母さん達がポツポツ遊んだり散歩したりしていた。


  「私、いつかここに亜流先生と一緒に来られたらなあって思ってたんです」


  「……そうなんだ」


  ベンチに座ったおれ達は周りからどのように見られているだろうか。

  カップルの中のひと組に見られてるんだろうな。

  実際おれ達はもう、カップルなんだし。


  「……これ、見てください」


  真実さんはスマホを取り出しておれに渡した。

  受け取って見ると、手紙に書いてあった通り、画面には俯いたおれの姿が映っていた。


  「素敵に映っているでしょう? 隠し撮りして貰ってきた甲斐がありました」


  「あー……う、うん……」


  おれの彼女はヤンデレだ。

  知ってたけど。


  「ーーでも、やっぱりご本人の方がもっと素敵です」


  足元を見つめながら真実さんは呟いた。


 

  「そう言えば、さ。真実さんは、ラノベ作家になりたいんですか?」


  「は、はい……出来れば、なんですけど……」


  気恥ずかしそうに返答するおれの初めての彼女。

  付き合って1日目なのだから、お互い敬語が抜けないのは勘弁してほしい。誰に勘弁してほしいのかは知らないが。

 


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