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mamiさんの書き込みもウザい女ウザ女の書き込みもチェックする事なく匿名掲示板から遠のいて結構経つ。
本当は自分のトピックでどんな事が繰り広げられているのか気になって仕方がないんだが、他の読者さん達におれ本人が書き込みしてるとバレつつあるしやっぱり行きづらい。
マジで他の作家さん達はどうしているんだろうか。
そして、そうこうしている内におれの商業ラノベ復帰作『剣士なおれとウィザードな彼女』の発売日が明日に迫ってきてしまった。
うん、緊張していないと言ったら嘘になる。
おれはいつも通り、困った時の中嶋聖良頼みで色々と愚痴みたいなのを聞いて貰う事にした、メールで。
こいつのアドバイスはよく当たるからな。
聖良曰く、
「平常心を無理に保とうとする事はありません。結果は結果です。
本自体が売れても売れなくても亜流さんに素晴らしい未来が訪れる事は間違いないと思っています」
何だか、また自己啓発本みたいなアドバイスを送ってきた聖良。
でも、『結果は結果』という言葉はおれの心を楽にさせてくれた。まあ、そりゃそうだ。
『素晴らしい未来』ってなんだろう。mamiさん絡みだといいんだがな。
「お兄ちゃーん! 今から栄美ねえも呼んで発売前夜のお祝いするってお母さんが言ってるよおー!!」
妹がおれの部屋に飛び込んできた。
ノックくらいしろ。
……それにしてもお祝いて……。
かえって恥ずかしいから余計な事はしないでほしかった。
しかし、いい歳した引きこもりの息子が社会復帰するチャンスが巡ってきたんだ。
例の通りおれは両親には頭が上がらない。
ただ栄美はーーおれの事を今でも好きなんだろうか、どちらにしても結果的に「フッて」? しまったようなものだから今は会いづらい。
おれは思わず妹に尋ねる。
「栄美は本当に来るのか? アイツ忙しいんだから無理に誘うなよ」
「さっきメールしたら来るって言ってたよ」
妹が嬉しそうにする。
なんと言うか、コイツ、本当は兄じゃなくて姉が欲しかったんじゃないのか。
でも最初に産まれてきたのは兄であるこのおれだ、諦めろ。
栄美はらしくもなく花束を持って訪問してきた。
薔薇、ガーベラ、カーネーションと統一性が無い所が実に栄美らしい。
「この花は文章家の祐樹にいと絵描きの私の、2人分だよ」
栄美は照れながら言う。
「……ありがと」
何となく気まずい空気が流れる。
寿司とすき焼きという、かくも逆に日本通の外国人が好きそうなメニューに舌鼓を打ちつつ、宴会は終わった。
で、居間から引き払って、栄美と妹と3人でおれの部屋にいた。
妹は未だにおれと栄美がくっ付いてくれるかもしれない、という夢を見ているらしい。
おれに、好きな女の子がいるという事を知らないから。
「ね、栄美ねえ彼氏いるの?」
「いないよー」
栄美と妹が2人合わせて4つの瞳をおれに向ける。
といってもそれぞれ思惑は違うようだが。
妹の場合は、
「ほら、栄美ねえ彼氏いないんだってよ! 付き合ってみなよ!!」
という催促の瞳。
栄美の場合はもうちょっと複雑で、
「私にもチャンスはあるんですかねえ」
というご機嫌伺いをするような瞳。
おれは女共のそれらを振り解くように、
「そういう三幸はどうなんだよ。彼氏の1人もいないのか」
と、矛先を妹に向けた。
すると妹は顔を真っ赤にして怒りだし、
「今に出来るから!! お兄ちゃんよりももっとカッコいい彼氏が出来るから!!」
と言って頬っぺたを膨らませた。
兄妹揃って顔は良いのに恋人出来ないのは、性格に難があるからだな。
ーー性格に難。
mamiさんは、こんなおれに付いてきてくれるだろうか。と、またも捕らぬ狸の皮算用をする。
おれはmamiさんと絶縁状態にある自分の立場をわきまえてない。
そしてわきまえなくても良かったという事が、間も無く分かる。
乃○坂46に永島聖羅さんという方がいらっしゃってたと、この前初めて知ってびっくりしました。
本作の中嶋聖良とは一切関係ございません。従姉妹の名前です。