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すっかりエゴサーチにハマってしまったおれは、今日も某巨大掲示板の自分トピックを覗いている。
カッコ悪い話だが、書籍の発売日が近付いているのだからその辺は許して頂きたい。
だが、発売日が過ぎたら怖過ぎて近付けなくなるだろう。
mamiさんの書き込みが読めなくなるのは痛いし、中傷書き込みが来たらその都度mamiさんがかばってくれるだろう事は想像がつくのだが。
いかんせんブランクがあるのだ。
面白いと言ってくれてる方々には悪いがそうは思ってくれない感想というのも絶対にあるはずなので。
栄美のイラストばかり褒められても嫌だし。
それにしても、例の女の書き込みが相変わらずウザい。
「亜流さんてカッコいー(はぁと)」
はあ、どうも。
おれは貴女と会ったんだろうけどどんな人なのか知りませんが。
「亜流さんてせっくす上手そー」
いえ、おれアレなんで。
「また即売会来たら絶対メアド渡すー。彼女にしてー!」
もう行かねーし。おれの(心の)彼女はmamiさんだし。
っていうかおれがツイッターやってる事すら知らねーの?
こんなのばかりが続くから、他のまともな読者さんが鼻白んでしまって作品その物についての書き込みがみるみる減ってきた。
これはマズい。
mamiさんも黙ったままだし、いい加減自分で何とかしないとな。
作者自身が自分のトピックに書き込みをするのは……。と思っていたけど、流れの方向修正くらいは良いよな?
と、何を書こうかと思案していたら。
「レーターの素城栄美ってさ、女の子キャラの絵は可愛いらしい感じだけど本人は色黒でおっぱい丸出しで女売ってるよね」
ーーはっきり言ってこれには、おれ自身が中傷されるより、かなりカチンときた。
一応IDを確認してみると、やっぱりあのウザい女と同一の物だった。
お前なんかに栄美の何が分かる。
色黒で夏の間はおっぱい丸出しなのは本当だけど、アイツだって好きでおっぱいがデカイ訳じゃないし、あのキャミソールも着心地を重視しているからであって見せびらかす為では決して無い。
現に夏以外の間はむしろブカブカのトレーナーやパーカーなど男っぽい服の方を多く愛用しているんだぞ。
偶にフィットしたセーターを着て結果的に胸を強調させる体になるけども。
と、栄美のファッションの事は兎も角として、幼馴染を軽く扱われて本気で頭に来たおれは半プロとしての文章センス? を駆使し、この女をどうにか撃退してやろうと考えた。
栄美を中傷するお前みたいなのはファンなんかじゃない、言葉は悪いが只の金ヅルだ。
だが、そこで黙っていた『彼女』が立ち上がった。
ーーmamiさんだ。
ずっと居たんだ。
何があってもいいように、ジッと待機する、それがあの娘の良い所であり、おれが彼女に惚れた理由。
まるでくノ一のようだ。
「素城さん、私も遠目でお姿拝見したけど凄い魅力的な人だよね(^∇^)」
「嫉妬……しちゃう気持ちも分かるけどσ(^_^;) 『女売ってる』は失礼過ぎない??」
「素城さんは才能で売ってるんであって、女がどうだとかそう言う表現は的外れだと思うo(・x・)/ 」
優しい文章と相変わらずの顔文字ながら、おれの言いたい事を的確に書き込んでくれていくmamiさん。
しかしウザい女、ウザ女も相当気が強いようだ。
「は?? 別に才能が無いとは言ってないし、嫉妬とか言うのも的外れ」
「ていうか、前から思ってたけどアンタの顔文字ウザい」
mamiさんは粘り強く、何とか穏便に、だが静かに怒りを滲ませながら書き込みを続ける。応酬するウザ女。
それをハラハラしながら見守るおれ。
何見守ってんだよ。
「顔文字ウザい? ごめんなさいm(_ _)m(笑) これは癖なのです。
とにかくここは亜流タイルさんのトピックであって、素城さんの話はトピ違いじゃないかな」
「いや、挿絵描いてるんだからトピ違いではないでしょ?? おかしくない??」
「では、挿絵の感想をお書きなさい(´ω`) 知らない人を外見で判断するのは大人とは言えないと思いますよ」
ウザい女、ウザ女は最後の攻撃に出た。
「はあい、ゴメンねお姉様、でもアンタも亜流さんの事狙ってるんじゃないの?? トピック粗方読んだけど随分前から居座ってない??」
「狙ってるんじゃないの?」という言葉に罪悪感があるのか、ウザ女のその書き込み以降mamiさんからの返答はパッタリと無くなった。
いや、罪悪感に苛まれなくてもおれの事いつでも狙ってくれていいんだよ。mamiさん。
むしろ嬉しいんだ。
それにしてもあのウザい女はどうやら女子高生か中学生のようである。
mamiさんがウザ女の子どもっぽさを引き出してくれたぞ。
そう考えると、大人の対応で追い出すのが一番だな。
おれもようやっと重い腰を上げた。
「おれは顔文字の君に賛成。自分とこのイラストレーターを中傷されてる文を読んだら亜流さんも怒ると思うよ」
ウザ女は黙ってしまった。
よしよしよしよし、話せば解るんだな。
元々はおれのファンなんだもんな。
栄美の事についてはmamiさんがビシッと書いてくれたし、許してやろ。
mamiさんに対しては本当に感謝の気持ちが溢れ出る。
ーーと、そこへ。黙ってなり行きを観察していたらしい他の人達が参入してきた。
「>亜流さんも怒ると思うよ
↑コイツ本人じゃね?」
「おれも思った笑」
「言ってやるなよ。発売日近くてせんせいもイライラしてんのさ」
「それにしても戦ってた? ファンはJKかJCか? 羨ましいな」
おれの読者の人達は妙に勘が鋭いらしい。
おれは恥ずかしくなってパソコンをそっ閉じした。
以来、この掲示板のおれトピックへの足もしばらく遠のく事になる。
しかしあの会場に女子中高生なんて来てたのか。
基本引きこもり体質のおれは話し掛けてくれない限り人の顔を見る事も無いからな。
妹もそうだが、何で女子中高生って自分の欲望をキャッキャウフフフと楽しげにさらけ出せるんだろうな。
おっさん、いや、まだ20代前半だが、大人には解らん不思議な所があるような??
?を2つ使ってしまった。
どうやらおれもJKだかJCに知らず知らず影響を受けてしまっているらしかった。