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  「上映会をやろうか」



  電話を取ったおれは、最初、相手が何の話をしているのだか解らなかった。


  わが部屋の中。

  mamiさんのいない正月が過ぎて、早数日。

  渡ツネオからの電話だった。


  「だから、おれ氏の『青い幽霊美少女がおれに取り憑いた!』がもうすぐアニメ放映するだろ?

  ファン達は『ビショ取り』と呼んでいるようだがな」


  「そうだな、おめでとう。で、上映会って何の話だ」


  おれは薄々感づいていたが一応聞いてみる事にした。

  渡は言う。


  「察しの悪いヤツだな。今度の土曜日にいよいよ第1回目が始まるから、皆でおれ氏の家に集まって上映会をしようと言っているんだ」


  「何の為にだ?」


  「お祝いだよ。お・い・わ・い。皆で一緒にアニメ化を祝うんだ」


  祝いと呪いって字が似てるよなと思いながらおれは断りの返事を探す。


  「皆って誰だよ」


  「おれ氏と、お前と、す、す、素城さんと、あとお名前なんだっけ、中嶋聖良さんだったかな、この前鉄板焼きに行ったエッセイストの。せっかくだからあの子も」


  普通、上映会だのお祝いだのって他の人から言われてやるもんだと思うんだが、自発的に企画を立てるのが渡ツネオのCOOLな所だ。

  悪い意味でだが。


  「……放送時間って確か深夜じゃなかったっけ。無理だろ。

  担当さんとかと2人でやってくれ」


  しかし重ねて渡は言う。


  「そうそう、それと声優さん達も呼ぼうと思うんだ。女性の。

  お前の作品でアニメ化はあと20年はかかるだろうけど、興味はあるだろ。声優さん」


  おれに対して物凄く失礼な言い方だったが、しかし声優さんに興味が無いと言ったら嘘になる。

  おれは引きこもりだった頃(今でもだが)結構アニメは観ていた方だ。


  ただし、ツラくなるからラノベ原作は極力避けてはいたが。

  どうしても観たいラノベ原作のアニメは歯噛みをしながら楽しんでいた。


  「……考えてみる」


  おれはチョロインだった。いや、男だからチョーローとでも言うべきか。長老? 何かヤだな。


  「……でも栄美と聖良が来るかどうかは分からないぜ」


  「いや、逆にお前が来なくてもあの2人は是非とも来てくれるよう取り計らってくれ」


  「じゃあ誘わない」


  電話取らなければ良かった。


  「嘘だ、嘘。亜流タイル、お前にも必ず来てほしい。

  将来の勉強になると思うぞ」


  自分のアニメを教材と呼ぶような原作者って嫌だよな。しかも初のアニメ化だろう。

  コイツはもっと謙虚になれば良いのに。


  しかし渡には書籍化や飲み代の事で散々世話になったし一肌脱いでやろうと思った。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


  栄美と聖良の約束を取り付けて、今おれ達は渡ツネオ邸にいる。

  『邸』とは言ってもマンションだ。コンシェルジュ付きの立派なマンション。



  「…… それにしてもお前ら、よくこんな馬鹿馬鹿しいイベントに顔を出す時間があったな? 忙しいだろうに」


  「馬鹿馬鹿しい? そう? 深夜のパーティーなんて面白そうじゃん!!

  しかも声優さんが来るなんて!!」


  と栄美。

  コイツの場合は自惚れでなくおれが誘ったから来てくれたっていうのもあるんだろうけども……。


  聖良は、


  「渡ツネオさんの『青い幽霊美少女がおれに取り憑いた!』読みましたわ。

  私幽霊ものって好きですから、興味深く拝読しました」


  なんて言ってる。


  成る程、2人共こんなイベントでも興味を持って出席するようなアンテナがあってこそ一流になれたんだろう。


  栄美はいつも着ていて似合っているレモンイエローのパーカー。

  聖良はまだ正月気分が抜けないのか、いや着物がデフォルトなんだろう。紺色の地に紅い花柄模様の振袖姿だ。


  コンシェルジュを通して渡の居る25階まで上りピンポンを鳴らすと、渡は鷹揚におれ達を出迎えた。

  声優さん達は既に来ているらしい。


  「こちらは、ヒロインの幽霊少女役をやってくださっている柳田雪乃さんだ。

  それからこちらは……」


  渡が2人の女性声優さん達を紹介する。


  ーーって……柳田雪乃さん!?

  ……何て事だ、おれの一番好きな声優さんじゃないか!?


  柳田雪乃さんはCDを買う程のファンだ。


  おれは今、初めて渡ツネオに嫉妬している。

  まさか、柳田雪乃さんとこんな繋がりがあっただなんて……。


  「はじめまして、柳田雪乃です。

  ラノベ作家さんの亜流タイルさんにエッセイストの中嶋聖良さん、それにイラストレーターの素城栄美さんですね。

  皆さんの作品、拝見してますからお会い出来て感激です」


  ……聖良や栄美の事はともかく、おれの事まで知ってくれている。

  謙虚だし、なんて読書家な人なんだ。


  おれは今、滅多に無い凄い体験をしている。


  それとも、おれの『女性好きする文章』が発動したか?


 

  「さあ、そんな事よりあと30分でいよいよおれ氏のアニメが始まるぞ〜。

  皆さん、席に着いてください」


  渡ツネオはとても嬉しそうに言った。

  「そんな事より」ってなんだよ。おれは批判まじりの目で渡を睨む。

  おれは凄い体験の真っ最中なんだぞ。


 


  そしてこんな凄い時でも、おれの頭の中からmamiさんの存在が離れないのであった。


  ツイッターに書きたい。

  書いて、mamiさんにこの感動を分かち合ってほしい。



  テーブルの上には、ワインとデリバリーであろう生ハムメロンなんちゃらやらなんとかのマリネやらのオードブルの類が並べられていた。


  これ、当然全部渡の自費で注文も自分でしたんだろうな。

  ちょっと可哀想になってきたが、柳田雪乃さんと懇意にしているのは許せん。


  渡に急かされたおれ達はめいめい好きな席に座った。


 


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