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広い店内に何やらお洒落なインテリア。
おい大作家様渡ツネオ、これのどこが「気の置けない安いモツ鍋屋」だ。
「おい、凄い高そうな店じゃねーかよ。
大丈夫なのかよ」
「だだだ大丈夫だ。3人でも2万円くらいには、抑えられるからな」
コイツの金銭感覚には付いていけない。
それともちゃんと仕事してる20代はこれくらい普通なんだろうか。
いや20代前半では普通じゃないだろう。
「すすす、素城さんはこちらの席へ。
この席だとライトが綺麗にあたって素城さんの美しさを引き立たせます」
と、さすがは場慣れしてるというべきか、渡は栄美にエスコートらしき事をしている。
このセリフがエスコートとして正解なのかは知らないが。
栄美の方はと言うと、店内の高級なインテリアを見回してすっかりナーバスになっている。
コイツも売れっ子イラストレーターとして編集者の人に随分良い所に連れて行って貰っているはずなのだが……。
何だか、最初の段階で大失敗をやらかして以来高そうな店が大の苦手になってしまったらしい。
本人にとっては結構なトラウマらしく、詳しい事は聞いてないし聞かないのが優しさだろう。
栄美も女の子としての羞恥心があるだろうしな。
酔うとおっぱい攻撃してくるけどそれはおれにしかしてないし。
「あら、美男子2人に、美人のグループ。イブの日を当店でお過ごしくださりありがとうございます」
見ると、ちょっと年はいってるけど綺麗で上品そうな女将さんがおしぼりとお茶を運んできてくれている所だった。
「そそそ、そうでしょう。
こっちの男はともかくとして、おれ氏……じゃない、ぼくとこちらの女性はいい感じでしょう」
渡の言う『こっちの男』というのは勿論おれの事を指しているのだが、それは無視して良い店の女将さんというのはお愛想も上手いものだなあと感心する。
女将さんのお愛想に気を良くしたのか、渡は多少肩の力が抜けた様子で栄美に「ドリンクはどうしますか」等と話し掛けている。
栄美は、
「じゃあ、モスコミュールを……」
と、酔う事を心配してかいつもの生ビールではなく軽めの酒を頼んでいる。
例え軽めでも酒が入っていつもの陽気さを取り戻してくれたらいいんだが。
すっかり忘れていた事だが、この大人気ラノベ作家様である渡ツネオがおれの同人誌の書籍化を手伝ってくれた事は栄美にも伝えなければならない。
栄美は、
「え、どうしてそんな事をしてくれたんですか」
とモスコミュールで自身の緊張を解そうとしながら渡に尋ねる。
渡は、
「そ、それはアレです。おれ氏……ぼくが、亜流くんにプロの立場に戻ってきてほしいと願ったからです」
「へえ、すごーい!」
何が凄いのかは知らないが、この渡ツネオがおれのラノベ作家として復帰する未来への扉を開ける切っ掛けとなった事には嬉しがってくれているようだ。
おれの味方は自分の味方、とでも言いたそうだ。
栄美は多分、おれに良くしてくれる人間には好感を持つのだろう。
「おれ氏達、ズッ友だろ? 素城さん、おれ氏と亜流くんはズッ友なんです」
おれは思った、「匿名掲示板におれの悪口を書いておきながらどの口が言うんだ」と。
一方的にフレンズと言われてもファッ○って感じだよな。
しかも、『ぼく』というのを早々に諦めて『おれ氏』に戻ってる。
やっぱりコイツは酒に弱い。
モツ鍋は、メインたるモツがフワフワとしていて美味しかった。
栄美もすっかりカチコチさが解けて、白玉のようなモツを一生懸命頬張っている。
食べている内に暑くなってきたのか、栄美は色々と邪魔な服を脱いで既に薄手のニットだけになっている。
ふっくらとして発達したおバストは渡ツネオの心をかき乱すには十二分過ぎるほどであろう。
渡も目のやり場に困っているようだが、何よりも栄美と和やかにお喋りが出来るという事に幸せを感じている様子で、バストは二の次らしい。
結構硬派なヤツだ。
ーーと、ここでおれは今日が恋人達のイベントでもあるという噂のクリスマスイブ、である事に今更思い当たった。
mamiさんに、ツイッターでメリークリスマスの挨拶をしなければならない。
何しろ今日は朝から仕事漬け、しかも栄美や渡との約束があったからウッカリしていた。
「悪い、ちょっとトイレ」
おれはスマホと2人きり、いや、このイブの夜にmamiさんと2人きりになる時間を作りたかった。
「mamiさん、メリークリスマスですo(・x・)/ そちらはどんな風に過ごされてますか」
ワクワクしながら返信やいいねを待つが、全く音沙汰がない。
……いつもなら、分単位でいいねやメッセをくれる『心の彼女』なのに。
まさかとは思うが……。いや、別に不思議な事じゃない。
ーーmamiさんに、イブの日にデートをする彼氏がいたって。
「おう、亜流くんおそかったじゃないか。酔ったかい?」
渡が軽口を叩く。
「祐樹にい、何か顔色悪いよ。
……っていうか、機嫌悪い?」
おれの事に関しては目ざとい栄美が心配してくれる。
でも、そうだ。
おれはその時、機嫌が悪かった。
ヤンデレであるおれはその時、機嫌が悪かったのだ。
自分でも分かってる、『勝手』だと。
でもmamiさんへの気持ちは、膨れ上がって今にもパツンと弾けてしまいそうだったんだ。




