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さておれは面倒な仕事に取り掛からなければならなくなっていた。
おれの同人誌を昔本格的なラノベ作家だった頃の担当、白鳥出版の鈴元さんに郵送してくれた人気作家渡ツネオに礼を言っておこうという仕事だ。
何しろそのおかげで鈴元さんから書籍化を打診して貰えたのだから。
一応礼儀として渡のアニメ化決定作、『青い幽霊美少女がおれに取り憑いた!』、略して『ビショ取り』の既刊10巻も買って来た。
余計なお世話だが『ビショ取り』は無いだろう『ビショ取り』は。
おれの手元には渡のメアド付き名刺が残っている。
と言っても、この前一緒に喫茶店に行った時に無理矢理10枚も押し付けられた際、捨てた中で唯一奇跡的に残された1枚だが。
「いやあ、おれ氏の作品アニメ化で今忙しくてさあ。」
渡のこんなセリフが頭をよぎる。
……メールでサンクスと書くだけで充分だろう。
あっちも忙しいのだろうし。
ふと気になって、この度の渡作品アニメ化について、世間のファンはどんな反応を示しているのか調べてみた。
まず、大型掲示板の渡トピックを開いてみる。
ほぼ肯定的な感想の中に混じって、
「あんなのが売れるなんてお前らも末だ。」
「声優の無駄使い。」
「円盤爆死今から決定済み!」
なんてのがチラホラ見える。
そしてそれに対してフォローらしいフォローの書き込みはあまり無いようで実に淡々と流れていた。
渡の事だから、自演して擁護書き込みにも忙しいんじゃないかと思ってたのだが……。
あいつはおれのトピックに煽り文をわざと書いているようなヤツだから、当然同掲示板のこれらの反応も見ているだろうと思われる。
それなのに、自己弁護するような書き込みは見当たらない。
なんとなくおれはそれだけで渡の事を見直す気分になってしまった。
おれならムキになって他人を装い反応する所だ。というか、そういう気分になるのが人情という物だろう。
それを止めてくれたのが、おれの天使mamiさんだ。
一方渡は、有名税だと理解しているんだろう。
それとも、栄美の件で分かったがメンタルが弱い所もあるから挫けて何も書き込めずにいるとか。
おれはフォローにはならないかもしれないが、
「7巻が一番面白いよな。」
とだけ書き込んだ。
本当は作品のフェチシズムというか、世界観がよく分からなくてたったの1巻で読むのをやめてしまったのではあるが。
アニメ化するくらい売れている『ビショ取り』の面白さが分からないという事は、おれは感性が世間一般とズレているという事なのだろうか。
「やっぱりメールで済ませよう。」
おれはそう決意してパソコンに向かい、捨てアドでメールを送った。
返事はすぐに来た。
忙しいんじゃないのか。
渡からのメッセージはこうである。
「書籍化できそうなんだってな! まあ確かに100パーおれ氏のおかげだな。
酒でも飲みに行かないか?
勿論お前は金が無いだろうからおれ氏が奢るけど。」
こんな誘い方で行くヤツがいたら見てみたいもんだが、おれにとっては、恩人は恩人なので仕方がない。
アニメ化の祝杯を本人の奢りで祝ってあげる事にする。
おれは、
「OK。場所とかはそちらの方で決めていいから。
あ、鈴元さんも呼ぼうか? 来てくれるかも。」
と書いたのだが、
「鈴元さんはやめてくれろ、何だか恥ずかしいぞ。」
という返事が来た。確かに、鈴元さんがいると2人とも緊張してしまうかもしれない。
渡は追加文として、
「素城さんは? 素城さんを呼んでくれよ。」
なんて書いてきやがる。おれは、
「NO」
とだけ書いて送った。




