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  おれは、幼馴染の素城栄美の事をバスト付きのガチムチの兄貴みたいなものだと思っている。

  実際の顔や身体の方は、地黒だが女の子っぽいし別に腹筋がバキバキに割れているという訳でもなさそうだが……。


  中身、性格やキャラの問題だ。


  他の男達にとっては楽しみな物であるだろうそのおっぱいも、ただの丸い柔らかそうな2つの物体に過ぎなかったのに。


  それだというのにーー妹の三幸が「栄美ねえはお兄ちゃんの事が好きなんだと思うよ」だなんて余計な事を言うから、今ちょっと変に意識してしまっている。


  気を使わなければならないじゃないか。


  だけども、栄美に誘われて作った同人誌が商業で書籍化して貰えるかもしれない。

  その為にはイラストを付けてくれた栄美に使用の許可を取らなければならない。

  電話やメールでも事足りたかもしれないが、栄美は、


  「直接会って謝りたい事があるの。」


  なんて言って来た。何だろう。今の所思い当たる節が無いのだが。

  ……いや、もしかしてあの事かな。


 

  ーーそんな訳で、おれは今栄美が一人暮らししている外観も内観も小綺麗な作りのマンションにいる。


  「……結構片付いてるじゃん。」


  「そう? ありがと!」

 

  栄美の実家は、幼馴染なだけあり元はおれの家のお隣りさんがそれなのであるが、今はイラスト方面で金を稼ぎ自立して一人暮らしをしている。

  おれはその辺にも栄美に少なからず嫉妬していた。

 

  栄美の部屋は、イラストを描く為のデスクやパソコンがやや場所を取ってはいるものの、ベッドにはぬいぐるみや少女漫画や画集なんかも置いてあったり、小さめの可愛い化粧台なんてのもあったりして意外に乙女らしく仕上がっていた。


  願い事をしに訪ねるのだから手ぶらでは流石に失礼だろうと思って、おれは有名な店のマカロン詰め合わせを持って行く事にした。


  「うはあ! 私ここのマカロン大好きなんですけど!? 高いから中々買えないけど……。祐樹にいがよくこんな店知ってたね〜。」


  紅茶を淹れながら、栄美は感激していた。


  「ネットで色々調べてるからさ。」


  ふむ、やれやれだ、どうやら失敗ではなかったようである。残り少ない貯金を使った甲斐があったってもんだ。


  2人分のレモンティーと小さな皿に盛ったマカロンを持ってきた栄美と、ガラスのテーブルを挟んで向かい合う。


  「それで、メールで書いた通り、白鳥出版の鈴元さん覚えてるだろ? で……。」


  「その前に!!」


  急に大声を出した栄美に驚いていると、彼女は一歩分後退りしておれに土下座をした。


  「な、なんだよいきなり!?」


  こっちもつられて大声を出してしまった。


  今回は見慣れたキャミソール姿ではなく、タートルネックのサマーセーターを着た栄美の胸が土下座のポーズの為左右に大きく揺れる。


  こういう谷間の伺えないガードの固い服も似合ってるな、いつもこうならいいのになんて思ってしまうのは完全に妹の例の発言が引っ掛かってしまっているせいだろう。


  「私、この前の飲み会で祐樹にい、いや祐樹お兄様に失礼な事したでしょ!? 本当はすぐにでも謝りたかったんだけど……!!」


  『失礼な事』って、アレか。おっぱいによる攻撃。

  あれは純情ボーイなおれにとって衝撃だったし、何よりmamiさんの心証を悪くしてしまった最悪の出来事だった。

  やっぱりアレの事だったか。


  「……お前、一応記憶はあったのか……。」


  「……薄っすらと!! スタッフの人にも後で言われたんだけど……。恥ずかしくて祐樹お兄様と今まで会えなくて……!」


  「直接会って謝りたい事ってそれか……?」


  「うん!! 本当ごめん!!」


  こっちが困るし分かったから顔を上げろと言うと、栄美は不安気に、


  「……嫌ってない?」


  なんて今にも泣き出しそうな表情を見せた。ちょっとだけドキッとする。ちょっとだけね。

  でも、おれの中のガチムチ兄貴の栄美像が普通の女の子っぽく変わった瞬間でもあった。


  栄美は地黒で、その上夏の間は日焼けしているからますます黒く見えるのだが、今やその日焼けが治まってビターチョコレートからミルク多めのチョコレートくらいに変わっている気がする。


  「嫌ってたらわざわざお菓子なんて持って来ないだろ。」


  と言うと、栄美はホッとした顔を見せ、


  「ありがとう。」


  と呟き、笑顔に戻った。


  現金にも早速、薔薇味だとかいうピンク色のマカロンを頬張りながら、栄美は、


  「イラストの事ね! 勿論使ってくれて構わないよー。」


  と気持ち良くオーケーをくれた。

  何なら鈴元さんと相談の上描き下ろししようか、等とも言ってくれたので、おれはありがたくその話に乗る事にした。


  「いやー、でも書籍化出来そうで良かったね! 即売会で鈴元さんが来てたなんて気付かなかったけどなあ。」


  と、今度は本人の肌の色と似たチョコレート味のマカロンを頬張る栄美。

 

  栄美の身の安全の為にも? 渡ツネオの事は黙っておこう。


  しかし、そう言えば、おれは渡にも挨拶に行かなきゃならない、と思うと途端にげっそりしそうになったが仕方がない。


  今回の件は、渡と栄美による助けがあって漕ぎ着けたものなのだから。


  「今日のご飯はハッシュドビーフとポテサラだよーん。祐樹にいも食べていくでしょ?」


  「んじゃ、せっかくだからご馳走になっていくかな。」


  こいつはイラストだけでなく料理も上手い。

  栄美が好きだという海外映画を観ながら2人で食べた。

  しかし、2人っきりの部屋。これでは何だかまるで恋人同士みたいじゃないか。

  おれは急にムズムズしてきた。

 

  それにmamiさんへの罪悪感のような思いもあったから、DVDが流れている途中で


  「じゃあ、おれはこの辺で。」


  とマンションを後にした。

  栄美はDVDくらい最後まで観ていきなよー、と不服そうだったが、いつの間にやらもう9時だ。

  何にしても幼馴染とはいえ1人暮らしの女の子の家に長居するのは良くない事だ。



  帰りの電車の中で栄美の『嫌ってない?』と言った時のあの表情を思い出す。

  もしかして、妹の勘は当たっているのかもしれないな、と感じた。


  おれはツイッターに、


  「今日の夕飯は友人の家でハッシュドビーフでした^_^」


  と書き込むと、早速mamiさんからいいねが付いていた。


  やっぱmamiさんのいいねは心が温まるな、とおれは思った。

  もし、もし栄美がおれの事を好きなのだとしても、栄美には悪いが、早くmamiさんに会いたい。



  しかし、まさかネットに興味が無い筈の栄美がおれのツイッターを見る事になるとは思わなかった。


あの黒いボディの魅惑の悪魔め……。

……というのも、おれの誤解だという事に気付かされる事件が起きたのだった。

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