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  飲み会でヒラヒラのスカートをはいた女の子を逃してから早10日。

  おれは、この彼女こそがまだ見ぬmamiさんだったんじゃないかと思っている。


  その証拠と言っては何だが、あれ以来mamiさんからのツイッターのメッセージもいいねも無くなったのだ。


  「亜流さんの本が欲しい」


  と言ってくれたのに、連絡が全く無いなんてーー。


  これと言うのも、あの黒い肌の変態女『素城栄美』のおっぱい攻撃のせいだ。

  あいつのおっぱいに挟まれたスマホは、結局栄美がいよいよ酔っ払って眠りこけてしまった隙に、おっぱいがキャミソールからこぼれ落ちないよう気を付けながら何とかこの手で取り返した。

 

  その際、手の甲が少しおっぱいに触れてしまい、それはマシュマロのようで大層柔らかい感触だったような気がしたが兎に角腹が立っていたし他の子ならいざ知らずあいつのおっぱいなんて迷惑極まりないだけだ。


  あいつは……。ニップレスだか何だか知らないが、ブラジャーくらい付けろってんだ。

  あのガサツさでも結構男からはもてるって言うんだから不思議な話だ。


  尚、その間イベントの売り子を手伝ってくれた聖良や他のスタッフの女性達は助けようともしてくれなかった。

  聖良に至ってはただ冷たい目で栄美を見ているだけだった。

 

  「狸寝入り。」


  と、ボソッと言ったのみで。

  ……いや、あれは寝たふりじゃなくどう見ても爆睡状態だっただろう?


 

  しかし、おれがあのイベント以来多少の自信を付けたのは事実だし、大人気イラストレーターである栄美がおれの小説本に挿絵を描いてくれたおかげで本が売れたという面も大いにあるのだからその点で感謝しなくてはならん。



  そしておれは今、この勢いを大切にしなくてはと新たな執筆活動に入っている。

 


  今回は異世界転移モノのハイファンタジーだ。


  mamiさんに、おれの新作を読んで貰いたい。おれの文体が、ストーリーが、今でもmamiさんの感性に響いてくれるのかを是非直接会って確かめたい。


  ……いや、直接会うだ等と贅沢は言わない。せめて、ツイッター上だけでも感想が欲しいと願っている。



  「お兄ちゃーん、お昼ご飯だってよ。」



  おれがパソコンに向かってキャラクターの構想を練っていると。


  兄から見てもまあまあ可愛いくて細身で、しかしそれに似合わずケツが大きめの妹の三幸がノックもせずに入って来た。


  高校生だから今は夏休み中ーー。早く新学期が始まってくれないと煩くてかなわんな。


  「ん。今日の昼は何?」


  おれは妹に尋ねる。


  「卵チャーハンだってよ。『仕事』してるんだったら部屋で食べる? 私、運ぶけど。」


  「頼む。」


  『仕事』にアクセントを強く置いたのが何かムカつくが、実際金になるかどうかはっきりと分かる仕事ではないのだから仕方ない。

  1階にあるダイニングに行った妹がチャーハンと果物を盆に乗せてまたやって来た。

 

  「そこ置いといて。」


  指示すると、妹はパソコンデスクとは別にある小テーブルに盆を置き、そのままどっかりとベッドの上に居座ってしまった。


  「……何居るんだよ。出てって。」


  すると妹はニマニマと意味有り気な表情をして、


  「ねえ、お兄ちゃんは栄美ねえと聖良さんのどっちが好みなのよ。2人とも美人だけどタイプ全く違うよねーー。」


  ……これはあれか。

  女子高生が好物とする『恋バナ』ってやつか。

  小説の構想練ってる最中だからおれは適当にあしらう事にする。


  「栄美は幼馴染だし性格に難有りまくりだし、聖良は友達だし美人だけど変人だし。どっちもねーよ。」


  「ふーん。お兄ちゃんって、小説は女の子受けもするのに実際は鈍感なんだね。」


  「は?」


  「聖良さんの方は微妙に分からないけどさ。栄美ねえ、お兄ちゃんの事好きだよ。」


  口に入れてたチャーハンを噴き出してしまった。おかげでモニターとキーボードに米粒がくっ付いた。どうしてくれる。


  「あれえ? やっぱり気付いてなかったんだあ?」


  「……お前なあ……。」


  ゴホッゴホッと咳をしながら妹を睨むと、予想していたニヤケ面ではなく意外に真剣な表情を浮かべていた。


  「私さ、中学生くらいの時かな、あー栄美ねえお兄ちゃんの事好きなんだなって分かったよ。

  ほら、お兄ちゃんが脚を折って入院した時。」


  それは覚えている。数年前、まだラノベ作家になる前におれはちょっとした事故で怪我を負い、入院する事になった。


  その時の栄美の様子は、いつものおちゃらけた態度とは違って本気で心配してくれてるんだな、とおれでも分かる程で、色黒だからよく確認は出来なかったがその目からは涙が浮かんでいるように見えなくもなかった。


  「……何かさ、栄美ねえお兄ちゃんに邪険にされて可哀想。恋愛感情で好きにはなれないとしてももっと優しくしてあげたら?」


  しばしの沈黙が訪れる。


  その後妹は、「さーてじゃあご飯食べて宿題でもするかー。」等と、伸びをしながら部屋から出て行こうとした。


 

  「ああ。あんまり長っ尻してるとケツがますますデカくなるぞ。」


  「ムカつくー! ニートで引きこもりのお兄ちゃんがムカつくよ!! お母さあああん!!」


  三幸はやっとドアを勢い良く閉めておれの部屋から出て行ってくれた。

 


  栄美が、おれの事を好き。全くそんな風には見えないけどな。

  おれはチャーハンと果物を平らげ、皿類を小テーブルに置くと、執筆活動を再開させた。



  その日は、あまり筆が乗らなかった。


  そして、mamiさんからの返事もメッセージも、まだ来ない。

 


 

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