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第八話

いつも読んでくれてありがとうございます☆彡

遅くってごめんなさい・・・★ミ




「いいお天気ですわね」

「はい、狩猟会日和ですわ」


 寮から狩猟会が行われる王室所有の森へ、自家用の馬車は学院在学中に不自由が無いようにとお爺様が贈ってくれた二頭立ての、いかにも令嬢の足と言えそうな可憐な、陪臣男爵家の娘が持つにはかなり分不相応な代物。ですが、自前の馬車が無い令嬢の為に学院が準備した乗り合いの馬車の中で、好奇の視線に晒されるよりはずっとましです。


 アレクシア殿下が食堂で騒ぎを起こしたおかげで、ゴメス派やヒメネス派の生徒以外にも大々的にわたくしの存在が知れ渡り、学院生活が煩わしい状態なのです。

 今まで距離を取っていた成り上がり系の、実家が商売等で成功した家の令嬢たちは露骨に接近するようになりましたし、ドミンゲス派を初めとする名門派閥の方々は疑わし気な視線を向けてくるようになりました。

 妙に媚びた様子ですり寄ってくる没落間際の方々も困りものです。

 寮の近くまで来て、様子を窺うような素振りの令息まで出てくる始末です。


「皇太子殿下の狩りしだいで、今日も騒ぎが起こるのかしら」

「今から引き返して欠席なさいますか?」


 ジーンの提案はとても魅力的ですけれど……。


「止めておきましょう。わたくし達は茶会の出席で成績が付きますもの」


殿方はチームでの獲物の総数、仕留めた個人の成果で成績が付けられますが、わたくし達は狩りに参加できませんので、茶会への参加が義務付けられております。

 もちろんそれだけでは体が冷えてしまいますので、周辺を馬で駆けたりローンテニスを楽しんだり、言うならば体育祭ですかしら?

 そのためにスカートの膨らみは抑えられて、普段よりは動きやすい服装になっています。


「コルセットも無しならもっと良いのですけれど……」


 思わず腹部を撫でさすりながらこぼしてしまいます。


「何をおっしゃいますの、淑女のウエストは細ければ細いほど良いのです。せっかくフローラ様は華奢な体つきでいらっしゃるのですから、もう少し細身のドレスを仕立てられてもよろしいくらいですわ」 

「やめて、これ以上私のライフを削らないで……」


 思わずつぶやいたわたくしに、「命が削れるだなんて、大袈裟ですわ」と返すジーンの実は的外れな答えを聞き、苦笑しつつ車窓に視線を移しました。

 意味が伝わったら怒られてしまいますわね。


「せめて靴だけでも、ヒールが低いものを履ければ動きやすくなりますのに……」

「おかしなことを、動きやすい必要など無いではありませんか」


 体を動かすことが予定されている日の服装に、動きやすさは不要だと本気で返されてしまうと、蘇った前世の暮らしは本当に楽だったと痛感します。

 仕事ではパンプスは欠かせず、軽度とは言え外反母趾になっていましたけれど、コルセットと比べればボディースーツもガードルも軽く支える程度でした。休日はカップ付きインナー一択だった気がします。

 バーガンディのドレスを見下ろしながら、ため息が漏れます。


「はぁ……」


 やっぱり、コルセット解放運動をしましょうか?


「いくら気乗りされないと言いましても、皇太子殿下の前でそのような態度はお止めくださいね」

「分かっています」


 天気とは裏腹に冴えない話をしているうちに、お茶会の会場である森に隣接する平原に到着したようです。減速した馬車が、ガタンと音を立てて止まりました。

 近くには大小様々な馬車が停まり、侍女を連れた令嬢たちが誘い合いながら、用意されたテーブルに移動していくのが見えます。


「乗り心地は悪くありませんが、少し疲れましたわ」


 狩りを楽しむために作った離宮に隣接して、アプレンデール学院が建てられたので、それほどの距離を移動したわけでは無いのですが、二十一世紀の記憶が戻ったことで、三十分以上の馬車移動が辛く感じてしまいます。

 本音では思いっきり伸びでもしたいところです。


「昨夜はきちんとお休みになれましたか?」


 たった三十分の移動で音を上げたことで、ジーンに心配させてしまいました。


「いえ、気分的な問題ですから「まぁ、フローラ様!」」


 気が付いた時には令嬢の集団に周囲を囲まれておりました。


「あっあの」

「フローラ様も、到着されましたのね」

「せっかくですからご一緒にお茶を頂きませんこと?」

「え?」

「さあ、珍しい南国の果物を使ったケーキもありますのよ」

「あっあ、わたくし」

「さあ、さあ、こんなところに何時までも立っていては、後続の方の迷惑になってしまいますわ」


 次々はやし立てられ、いつの間にか席に着いておりました!


「フローラ様、お茶は何をお好みでしたかしら?」

「……ジーン、濃い目のミルクティーを砂糖抜きで」

「かしこまりました」


 わたくしがお茶を飲む姿勢を見せたことで、周りを取り囲んでいた令嬢たちが席に着き始めます。

 移動途中で気づきましたが、ドミンゲス派の令嬢ですわ。見事なフォーメーション、さすがは武闘派貴族のご令嬢だと呆れ半分に感心してしまいます。

 全員が使うテーブルは三つ、三角形を描くように配置された奥の内側にわたくしは座らされております。逃げようと立ち上がっても直ぐに留められてしまうでしょう……。



 晴れ渡る青空は深まる秋の色をたたえて高く澄み渡り、風は弱く外で過ごすには最高の行楽日和。殿方が狩りの腕を競うために落葉樹が葉を落とした森の中に消え、残った女子生徒が侍女の入れたお茶を楽しむ。


――優雅で麗しい時間のはずですのに……。


 わたくしの心情とはかけ離れた空に視線を彷徨わせ、そっとため息を漏らしているこの状況は、一体何を間違えたのでしょうか?


「フローラ様、こちらのケーキも召し上がってください」

「ありがとうございます。テレサ様」

「お茶も入れ替えさせましょうね」

「大丈夫ですわアーシュラ様」


 現在わたくしは、ドミンゲス派の令嬢に囲まれてお茶を飲んでおります。

 こんなことならグロリアーナ様と競争していればよかったですわ……。


 狩猟会の会場まで騎乗して競争だなんて、ダニエル様とのフラグが立ちかねないからとお話して、グロリアーナ様に諦めてもらったのに、シナリオとは別方面でドミンゲス派に囲まれるなんて想定外でした。


「フローラ様の馬車はとても素敵ですわね」

「本当に、まるでおとぎ話のプリンセスみたいですわ」

「そんなことは「あら、フローラ様はプリンセスになりますのよ、みたいは余計ですわ」」

「そうでしたわね。お許しください」

「そんな、わたくしは男爵家の娘ですわ」

「本当に謙虚で可愛らしい方ね」


 なんですの~!

 外堀を埋めるというのは聞きますが、これは内堀?いえ、本丸を埋めにかかってきていますわ!

 この状態から令嬢らしく優雅に脱出するなど不可能ですし、万万が一皇太子妃になってしまった時には、ドミンゲス派を敵に回すような真似は出来ません。

 だからと言って、気があるような素振りは間違ってもできません。相手の面子を傷つけず、なんとか躱しながら受け答えするしかないではありませんか!

 そして間違っても、アレクシア殿下を厭っているだのと、感づかせるわけにはいきません。


――助けて、グロえも~~~ん!グロリパンナでも可!


 一杯のお茶を飲み、いくつかのお菓子を口にする時間の攻防戦。薫り高く好みに合わせて煎れられたお茶も、繊細な味わいのお菓子も、決して味が解らないわけではありませんが、堪能するにはほど遠く、交わされる会話に思考が占拠されて、楽しむゆとりはございません。


「冬期休暇前の舞踏会、今から楽しみですわね」

「それは「フローラ様、探しましたわよ」」


 ナイスタイミングです。グロリパンナ様!

 ご自慢のドリルで千切っては投げ、巻き取っては投げしてモブわたくしを救ってください!


 救世主の登場に顔を向ければ、濃淡のある紫色の生地に黒のレースやパイピングでアクセントを付けた、豪奢なドレスを纏ったグロリアーナ様が、ヘンリエッタ様とイングリット様を従えて立っておいでです。

 チッっと、令嬢らしからぬ小さな舌打ちが聞こえましたが、聞こえないふりで離脱を試みます!


「あら、グロリアーナ様ではございませんの」


 アーシュラ様の声には、グロリアーナ様を侮る蔑むような響きがございました。

 これに反応したヘンリエッタ様をグロリアーナ様が軽く押さえ、広げた扇で口元を隠しならが悠然と微笑まれます。


「誰かと思いましたら、徒爾の群れでしたのね」


 グロリアーナ様の分かりやすい嫌味にヘンリエッタ様がくすくすと笑い、今度はアーシュラ様達が柳眉を上げます。


――悪役フェイス対カマセ集団……。


「フローラ様、また何か考えていらっしゃるんじゃありません?」

「いえ、いえ、何も!」


 グロリアーナ様の感が鋭いのか、わたくしの態度があからさまなのか……。きっと両方でしょうね……。


「乗馬をご一緒する約束でしたわよね」

「そうです!楽しみにしておりましたわ」


 先の約束がありますのでと席を辞して、グロリアーナ様達の後ろに続きます。わたくし一人で立ち上がろうとすれば、周りの令嬢が回り込んで来たでしょうが、グロリアーナ様達との間に割り込んだりする方は流石に居ません。

 無事にドミンゲス派の集団から離脱することができました。



「ありがとうございますグロリパンナ様。あっ!」

「……グロパンマンと言わなかったので、許して差し上げますわ」

「ちなみにグロえもんは?」

「論外です」


――危なかったですわ。


 グロリパンナ様達に助けられ誘われるままに乗馬をして、その後はヒメネス派の令嬢たちと過ごして無事に一日を終えることができました。

 狩りの成果も僅差でバーソロミュー様が勝利しましたし、ダニエル様とのフラグも立ちませんでした。


 翌日頂いた鹿肉のお料理もとても美味しく、取りあえず今回の騒動は収束して、日常が戻ったと思いましたのに……。



 ***


「また視線を感じますわ……」

「あの方でしょうか?」


 わたくしの言葉にジーンが周囲を窺います。最近よく感じる視線がわたくしを捕らえているのです……。ゴメス派の方々が調べてくださったので相手の素性は解っているのですが、攻略対象でもないモブっぽい、歳若い子爵様に探るような視線を向けられる理由が解りません。

 しつこく付き纏う訳でもなく、気が付くと視線を感じるのですから、本当に不気味でなりませんわ。


「財政的にゆとりのある家では無いようですし、フローラ様との婚姻で援助を期待されているのではありませんか?」


 舞踏会のパートナーにと誘いを掛けるには、少し早いと思います。それにしても、アレクシア殿下に付き纏われているわたくしに声を掛ける気なら、かなりのチャレンジャーですわね。

 ジーンが言うような婚姻して援助をと、そう言った方々も以前は一定数いたのですが、食堂での騒ぎ以降は様子見をしているようで、距離を取っておいでですのに……。


「ヒメネス男爵令嬢ですね。少しお時間を頂けないでしょうか」


 そんなことを考えていたところに本人が現れるだなんて、攻略対象ではないだけ良いのでしょうけれど、仲介もなく殿方から声を掛けられるのは十分異常事態ですわ!

次回は話しかけてきた子爵視点です。


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