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第五話

今日も来てくれて、ありがとうございます☆彡




「よろしくお願いいたします。フローラとお呼びください」


 同じ日本人としての前世と、フロエタユーザーだった共通点で意気投合した悪役令嬢ポジのグロリアーナ様に呼ばれて、ゴメス派の令嬢が集まるお茶会に出席しています。


「可愛らしい方でしょう?わたくし、妹のように思えてなりませんの」


 ホホホホっと、優雅にほほ笑む侯爵令嬢……。さすがですわ。純粋培養は違うと痛感いたしました。


「恐れ多いですが、お優しいグロリアーナ様に感謝いたします」


 二人掛けのソファーで一緒に座るわたくしに、ゴメス派の令嬢達が探るような眼差しを向けてきます……。

 当然ですわよね。

 特に対立はしていなくとも、わたくしはヒメネス侯爵家の末席に位置する男爵の娘。本来ならば招かれる場所ではありません。

 いきなり呼び出されたとしたら、つるし上げかと怯えるのが普通でしょう。


「恐縮なさらないで、同じ王家に仕える貴族同士ではありませんか」


 にっこり微笑まれたグロリアーナ様の悪役フェイス、地味に怖いです。


「それこそ恐れ多いですわ……同じと言いましても所詮男爵家、しかも陪臣に過ぎません」

「それはヒメネス侯爵家に生まれたお父様を、侮辱する言葉ですわよ」

「失礼いたしました」


 ひたすら下手に下手にと出るわたくしと、それを気にせず親しくしましょうと誘うグロリアーナ様……。

 茶番?寸劇?そうですけれど何か?何とでも言ってください。

 わたくし達はこれから、親しく出来ないと不都合なのです。


「皆さんもフローラ様と仲良くしてくださいね」


 笑って命令です……。迫力がありますわ。


「もちろんですわ。わたくしはイングリット・モレーノ、よろしくお願いしますね」

「わたくしはヘンリエッタ・エルナンデスと申します」

「イングリット様、ヘンリエッタ様、よろしくお願いいたします」


 助さん角さんが挨拶をして場の流れができると、他の令嬢からも次々に挨拶をされました。

 女子寮と言うにはあまりにも豪華な建物の一室、大きなラウンドテーブルが置かれた広いサロンを貸し切ってのお茶会には、伯爵から男爵までゴメス侯爵の派閥に属する令嬢達が八人と、連れてきた侍女が同じく八人。グロリアーナ様と侍女のセーラさんに、わたくしとジーンの総勢二十人。

 他にも館付きのメイド数名と、音楽を演奏する女性が二人。ゆったりと贅沢な空間に身を置いています。

 ティースタンドは使わず、その都度侍女が給仕する贅沢ぶりです。皇太子の婚約者が主催するお茶会ですから、このレベルで普通なのでしょうが、陪臣男爵の娘としては目がくらみそうです。


「サンドイッチにキュウリが挟まっていますのね?」


 初めて目にするサンドイッチに、ヘンリエッタ様が戸惑っていらっしゃいます。いえ、戸惑っているのはわたくし達を除く全員ですわね。

 アフタヌーンティーの定番、キューカンバ―サンドですが、この世界では定番化していませんでした。


「別邸の温室で育てたものを、先ほど摘み取らせて挟みましたのよ」


 優雅な手つきで一切れ摘むと、贅沢なキュウリの出所を明らかにするグロリアーナ様。

 ハムや卵を挟んだサンドイッチは美味しいですが、この後のスコーンやプチケーキを考えるとカロリーオーバーですもの……。


 サンドイッチの出所は、当然のようにフェルナンデス公爵家です。

 記憶を取り戻して思い至りましたが、様々な物が前公爵考案として世に出ています。所謂、内政チートですわね。

 ローマ字使った五十音表での教育は、我が国の識字率を大きく上げました。



「さすがはグロリアーナ様ですわ。とても美味しく優雅な一品ですわね」

「本当にそうですわね」


 出遅れたヘンリエッタ様が同意して盛り上がります。

 わたくしはひたすら、「凄いですわ。流石ですわね」とか言ってよいしょします。変に目立つことを言って、ゴメス派の令嬢の機嫌を損ねる訳にはいきません!


「フローラ様、楽しんでいただけているかしら?」

「はい、このように煌びやかな席は初めてで、感動しております」


 今の学院にヒメネス侯爵のご令嬢は在学していません。陪臣の伯爵家からご子息がいらっしゃいますが、あくまでも男子ですし、同世代には皇太子を初めとした攻略対象の方々が在学しているので、派閥の旗頭となるには弱いのです。

 それに、現在アプレンデール学院で女子の頂点に立っているのは、グロリアーナ侯爵令嬢で間違いありません。

 親がヒメネス侯爵派に属する家の子息令嬢はもちろん在学して居りますが、旗印が居ない状況では、ひっそりと波風を起こさないように暮らしておいでです。

 当然ながら、陪臣男爵家のわたくしが大派閥のお茶会に足を運ぶ機会なんてありません。絵に描いた様なきららかな世界は、前世を含めて初めてです。

 歴代の大貴族が寄付を続けた調度品、専用の温室から運ばれた花々、招かれた令嬢達が身に着けた色とりどりのドレス。前世アラサーだって、心ときめく乙女空間ですわ!

 女子会特有の緊張感と華やかさも相まって眩暈がします。


「チョコレートを混ぜたスコーンがお洒落ですわ」

「クリームと合いますわね」

「こちらはドライフルーツとナッツが入っておりましてよ」

「流石はグロリアーナ様ですわ」

「プレーンタイプに添えるジャムも美味しいですわ」


おほほほほほっと令嬢方の笑い声が響き、バイオリンとフルートが広い部屋の片隅で奏でられています。

 乙女空間は良いですわ。心が潤います。

 グロリアーナ様と親しくなれて本当によかったですわ。



「何かしら、騒がしいですわね」


 令嬢方の賛美を余裕で受け流していたグロリアーナ様が、部屋の外から聞こえる騒ぎに眉を顰めます。乱暴に二枚扉が開かれ、大股で入っていらしたのはアレクシア殿下でした……。


「フローラ!こんなところに居る必要はない!」


 颯爽と現れた王子様が、別派閥の集まりに一人呼び出された男爵令嬢を救いに参上の図です。勘違いですけど……。


「アレクシア殿下、いささか無礼が過ぎましてよ」

「何を言うか!グロリアーナ、見損なったぞ!」

「どんな思い違いをなさっているか存じませんが、貴族令嬢の暮らす館にいきなり入っていらっしゃるのは、たとえ王族の方でも許されませんわよ」

「俺はフローラを救いに来ただけだ!」

「フローラ様はわたくしの友人です。ゴメス派の令嬢に紹介して、仲良くしてもらうためにお呼びしただけですわ」

「詭弁を使うな!」


 激昂しているアレクシア殿下には気が付けないでしょうが、皇太子の暴挙に怯える末席令嬢を庇う侯爵令嬢の図が完成しています。

 先ほどグロリアーナ様の誘導に乗る形で、男爵家を継ぐ資格のないわたくしは、いずれブルジョワの男性と結婚して、貴族社会から距離を置くと伝えましたし、母方の商会を贔屓にしていただきたいと売り込みも行わせていただきました。

 皇太子殿下がわたくしを気にかけていらっしゃるのは、毛色の変わった娘を愛玩しているにすぎず、出過ぎた行いや野望は一切ないと伝えてもあります。

 ゲームのように、アレクシア殿下の希望に沿う形でヒメネス侯爵家が出張ってこない限り、婚約者を換えるなんてできない事です。


「恐れながら申し上げます」

「なんだ、フローラ」

「グロリアーナ様は、わたくしの様な末席の者を友と呼び、煌びやかなお茶の席に招いてくださいました」

「繕うことは無い。ゴメス派で固めた場に一人呼び出すなど、見え透いている!」


 もしそうでも、こんな形で乗り込まれたら角が立って、この後の暮らしが針の筵ですわ……。


「こんな形で乗り込まれては、わたくし達にも面子がございますのよ。貴方が救った気になったフローラ様が、後々つまらない誹謗の的になります」

「そんな者は罰すればいい!」

「この館の中で日々行われて、貴方の目に留まるとは思えませんわ」

「そういう魂胆なのか!」

「そう言った危険があると申しております」


 色眼鏡で見ているアレクシア殿下には、グロリアーナ様の気持ちが全く伝わりません。


「わたくしは大切な友人であるフローラ様が、不名誉な噂を囁かれたり不要な危害を加えられるのが嫌なのです」

「俺だってそうだ!」

「でしたら立場ある男性の貴方が、不用意に近づき声をかけることが持つ意味を、もっと重視してください」


 さすがにそこまで言えば引き下がってくれますわよね?


「なら俺もここに居る!」


 ええ~!


「ここは女子館のサロンですわ。男性はお帰りください」

「何で校内のサロンで行わない!」

「令嬢だけの集まりを、校舎で行う意味がありませんわ」


 グロリアーナ様、ガンバレ~!


「後ろ暗い事がないなら、俺を締め出す必要もないだろう!」

「令嬢だけのお茶会に、男性である殿下をお呼びすることはありません」

「以前に呼んだではないか!」

「親しい数名を紹介したく思い、校舎内のサロンにお招きしたことはございましたが、お断りなさいましたわよね?」

「次は出る!」


 それって、わたくしの居ない席に呼ばれるのがオチですわよ……。


「帰る!」

「お見送りを」

「要らん!」


 そうはいかないグロリアーナ様がアレクシア殿下を追って退席し、部屋には微妙な静寂が訪れました。登場と同じく騒々しく去って行った嵐に、集った一同がホッと胸をなでおろします。


「フローラ様、先ほどのお話で間違いありませんのよね?」


 ヘンリエッタ様が釘を刺すように問いただしてきます。


「もちろんですわ。皇太子妃にふさわしい女性はグロリアーナ様、一時の熱を向けられて溺れるほど愚かではありません」

「それならよろしいのです」


 ほほほほほほっと響く笑い声が寒々しいですが、これは仕方がないですわね。

 アレクシア殿下の乱入には驚きましたが、そのおかげでグロリアーナ様の庇護を受けて、熱病に掛かった殿下から逃げる男爵令嬢。そんな構図を見せつけることができました。


 アレクシア殿下、グッジョブ!

ローマ字にするか、仮名文字にするか悩みました。

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