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幕間 -グロリアーナ1-

読みに来てくれて、ありがとうございます☆彡

(*^▽^*)ノ


今日は、「ご令嬢、貴腐人と化す」の巻きです☆彡



「グロリアーナ様、着きましたわ」


 侍女のセーラに声を掛けられて目を開きました。眠っておりましたのね……。

 ゴメス侯爵領から鉄道で4時間半、馬車に乗り換えて更に1時間。さすがに疲れましたわ……。

 コルセットで締め付けた身体が悲鳴を上げています。


「使いを先行させて、ベッドが使えるように整えさせてあります」

「心遣いをうれしく思います。ですが、ソファーでお茶を飲めば大丈夫ですわ」


 気の付く侍女をねぎらい馬車を降ります…………え?

 歴史と伝統を見せつけるアプレンデール学院の正門と、その先に見える時計塔を目にして、強い既視感を感じました。


「グロリアーナ様、大丈夫でございますか?」


 セーラの声が遠くに聞こえ、血の気の引いた体が震えます。

 ここは、何ですの……。

 アプレンデール学院とは、グロリアーナとは……意味するものは何?


「グロリアーナ様、グロリアーナ様お気を確かに!」


 セーラの叫ぶような声が更に遠のき、わたくしは意識を失ったのです。



 ***


 目を覚ますと見覚えのある見慣れぬ天蓋が見えました。学院に入るにあたり、寝台の天蓋に使う布を選んだのは半年も前ですのに……。


「意外と覚えているものですね」

「グロリアーナ様、お気が付かれましたのね」


 脇に控えていたセーラが声をかけえてきました。

 医師らしい老人が隣にいます。学院付きの医師でしょうね、倒れたわたくしを見てくれたのでしょう。


「脈が少し早いようですな……。移動の疲れが出たのでしょう、安静になさってください」


 脈をとり顔色を見た医師が、無難な診断を付けて帰ってゆきました。

 ショックな事を思い出して意識が途絶えたなどと考えませんものね……。気絶している間にコルセットが外され、木綿で作られた着心地の良いネグリジェに変わっています。

 気絶して正解でしたわ。


「流石に疲れました。喉も渇いたのでお茶を飲みます」

「はい、すぐにお持ちいたします」


 すぐにティーセットが運び込まれ、ポットに湯が注がれます。


「待ちなさい……グリーンティーですわね。ミルクも砂糖も不要です」

「かしこまりました」


 懐かしい香りが心を落ち着かせてくれます。とても懐かしい香り……。


「一人になりたいの、下がっていなさい」


 侍女たちは頭を下げて部屋を出ていきました。

 一人になるとベッドから飛び降りて、部屋に置かれた鏡台に駆け寄ります。

 そこに映った見慣れた姿……青味がかった銀の髪の毛は、豊富な毛量と相まって見事な縦巻きロールを作り出し、良質なアメジストなような目は怜悧な印象を与えます。整った顔立ちは、血の気が引いていることもあって作り物の様。

 十五歳と言うにはいささか老け顔……。


「間違いない、悪役令嬢グロリアーナだわ……」


 セーラ達が隣にいるので大きな声は出せませんが、思わず口から出てしまいました。乙女ゲーム、『フローラル・エターナル~恋の花は永遠に~』に出てくる障害、最も攻略が面倒な皇太子アレクシアの婚約者……。

 すべての攻略で邪魔者として出現する高慢で嫌な女。

 陪臣の婚外子に過ぎない主人公が、皇太子を初めとする高い身分の男性と交際するのを快く思わない狭量な人物。


「現実になってみれば、グロリアーナの苦言は当然のものですわね」


 自分が婚約者を奪われる立場になったからではありません。

 立場に見合った知識のない娘が、将来国の中枢を担う者の伴侶となる。これは国の危機にもなりかねない大問題です……。

 フローラ・ヒメネスがターゲットにするのは、皇太子、第二王子、公爵令息、侯爵令息、辺境伯令息。第二王子を除けば跡取りばかりです。

 誰に嫁ごうとも国に及ぼす影響は大きく、まさかの逆ハーエンドなどに成ろうものなら国中が揺れます。

 そうなれば周辺国はもちろん力を増した非貴族の資本家達、豊かになったことで増えてきた知識階層に生まれた思想家。脅威となりつつある都市の労働者達も動くでしょう。

 このような時勢にあって、本当に彼らが恋に現を抜かすとは思いたくありませんが、万が一の時には覚悟を決めるべきでしょうか……。


「でも結果、追放エンドですわよね……」


 フラフラと立ち上がりベッドへ戻ると、冷めてしまったお茶を飲みます。タンニンが出過ぎて苦くなったお茶ですが、こんな時にはいいですわね。


「ですが、後で緑茶の入れ方を教えなくてはいけませんわ」


 つい現実逃避してしまいます……。

 深く考えたくないですわ。国を家を憂いてこその苦言を呈すれば、婚約を破棄され家との縁も切られて、植民地へと渡る船に乗る最後のスチル……。

 惨めで哀れでしたわ。ざまあって思いましたけど……。


「ヒロインがどう動くかによりますが、両殿下や弟に近寄らないなら放置しましょうか……ユージン殿下でも構わないことにしましょう!」


――いっそ皇太子殿下も差し上げようかしら?


 不敬とは思いますが考えの浅いあの方の隣に立って、生涯苦労し続けるのかと思うと胃が重くなります。


――追放ではなく、家の力を借りる形で植民地に渡ってみるのは?


 面白いかもしれませんわね……。ちょうどビクトリア時代をベースにした様なこの時代、女の身で己の意思を持ち生きるのは難しいですが、挑戦してみるのも良いかもしれません。


――国が揺れて、最悪の場合は王家が消えてしまうかもしれませんけど


「自業自得ですわ、自己責任というやつですわね!」


 そんな風に考えると気持ちが楽になってきます。

 後はヒロインともめ事を起こさずに、アレクシア殿下から恨まれないようにすれば万全です!

 わたくしが何を言っても聞かれる方ではないのですから、身を引いて王家から婚約破棄の賠償を取りつければいいわ。

 巻き込まれる多くの民に申し訳ないと思う気持ちもありますが、わたくしが一人で頑張ったところで追放される未来では、結局意味がありませんもの。


「それにしても、何でゲーム世界なんてラノベ体験をしているのでしょう?」


 乙女ゲームのヒロインや悪役令嬢に転生するお話を複数読みましたが、自らの身に起こるなんて思ったことはありませんでした。

 せめてヒロイン……それもアレですわね。実際になるなら、チートでダンジョン経営とかの方が楽しそうですわ。

 前世の行いが悪かったとかは、ありませんわよね?

 悪役令嬢に転生するなんて、深い業を宿すような生き方をした覚えはございませんもの。

 それにしても……。


「恋愛シミュレーションなら、BLゲームでモブになりたかったですわ!」


 良いですわよね。

 麗しい殿方の恋愛を脇から眺めて悦に浸る人生……。


「あっ涎が……」


 フロエタでもヒロインなど放置して、攻略対象同士でイチャイチャしてくださればいいのに~♡


「はっ、いけませんわね!リアルではお家の危機ですわ」


 問題が無いのはユージン殿下くらいですわ……。つまりませんわね。


「現実はうまくいきませんわ」


 それでも、家の為に結婚はしても愛は別というのも良いですわ。古くから恋愛は結婚とは別と言いますものね。

 古式ゆかしく秘めた恋を貫いていただきたいですわ。

 ところで……。


「わたくし、死んだのでしょうか?」


 前世の記憶はぼんやりとしか思い出せません……。結婚して子供がおりましたわね。子供は成人していた気がいたします……。

 娘が、そうですわ!薄い本やゲームソフトは娘が引き継いでくれた事でしょう。

 それは確信できます!無問題です。


 ぼんやりとしか思い出せない大切な人たち……。

 胸に痛みがありますが、沈んでもいても仕方ありません。今の生を精一杯生きて、いつかの世で巡り合いましょう。

 今は過去を振り返る時ではないのです。

 一年後の追放エンドを回避するために、全力を尽くさなければいけません!


「両脇に控えた二人の令嬢を上手く御しませんとね」


 ゲームでは、ゴメス家に縁のある二人の伯爵令嬢が、率先してヒロインへの嫌がらせをしていました。

 二人の配下が更にというパターンもありましたわね。

 自分では手を汚さずに配下にやらせる卑怯者と思っておりましたけど、放っておいても動いてしまいそうな気がいたします……。


「ヒロインも転生者で積極的にわたくしを嵌めたり、な…んて……」


 背筋に冷たいものが流れます。

 ありましたわよね、そういう展開も沢山……。

 嫌ですわよ、何もしないわたくしを巻き込まないでください!


「落ち着きましょう、まだ慌てる時じゃありませんわ」


 ヒメネス男爵令嬢の動向を見極めて、場合によっては学院から逃げ出してしまいましょう!

 いえ、人を使って嫌がらせをしたと糾弾されていましたわ。

 ヒロインだって学院にまいります。慌てなければダメかもしれません!


「本当にどういたしましょう~」


 ちょっと泣きたくなってまいりましたわ……。

 とにかく、「学園内での色恋沙汰には不干渉!」ゴメス派の令息令嬢にしっかりと伝えておかないと、無駄に地雷を踏むことになりかねません!

 少なくとも授業が始まるまでの間、時計塔に近づくのはやめましょう。

 辺境伯令息のダニエル様とのイベントで、最初にヒロインが邂逅する場所です。君子危うきに近寄らずですわ!



「お呼びでしょうか?」

「先ほどの茶葉と茶器を用意なさい。入れ方を指示いたします」


 ベルを鳴らしてセーラを呼ぶと、緑茶の正しい入れ方を教えます。

 茶葉を確認したところ玉露の様でしたわ。紅茶と同じ入れ方をするなんて勿体ない。正しい知識は大事ですわね。


「悪くありません」

「ありがとうございます」


 小ぶりのティーポットに入れたお湯をミルクポットに移させてから、茶葉を入れたポットに注がせて、ゆっくり旨味を抽出します。

 まるでお出汁のようだわ……。

 茶葉の入手経路を調べさせて、早急にお醤油等の和風調味料が手に入らないか調べさせないといけませんわね。

 違いました……。


「アレクシア殿下に連絡をして、挨拶に伺いたいと伝えなさい」

「かしこまりました」

「それと、エルナンデス家とモレーノ家の令嬢が来たら早めに会います」


 早いうちに釘を刺して、徹底させないといけません……。

 何と言って納得させるかが問題ですわね。


 それにしても、婚約者が到着後に体調を崩したと分かっておいででしょうに、本当に情の無い方ですわ……。



 そんな風に、波風を立てずにヒロインの動向を探らせて一月、とうとう戦線布告イベントが始まってしまったのでした……。

 泣いて良いですわよね?

私は玉露苦手だなぁ~

苦みのある静岡茶が一番好き☆彡

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